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Web広告視点で飲食店経営を考える

カンムアドベントカレンダー18日目の記事です。
昨日は myao さんによる娘が高校生になったら読んでほしい本でした。
難問ですね…寺山修司(エーリッヒ・フロムから連想しました)と、カート・ヴォネガットを手にとってくれると嬉しいなと思いました。

こんにちは。
カンムという会社でマーケティングを担当しているtadasと申します。
この記事ではWeb広告の概念を利用して飲食店運営をどのように改善するかを考えてみたいと思います。
また反対の視点にも立ち、Web広告でよく使われる用語の意味を理解するため、リアルの飲食店側からウェブ広告用語を落とし込む話をしてみます。

ちなみに、2年前には予算の設定方法やクリエイティブの考え方について書いていました。

前置きとWeb広告


私はカンムで働きながら飲食店を開業し料理人としても働いています。古民家をDIYし、5席の客席と厨房を作った飲食店の料理人としてやっています。

東京麻婆と言います

皆さんはランチに行く飲食店をどうやって選んでいるでしょうか?新店舗だから、グルメサイトやGoogle Mapsで人気だから、知り合いがおすすめしていたから、好きなジャンルのお店だから、テレビで話題になっていたからなど様々だと思います。

しかし、実際に足を運んでみるとイメージと違って別の店舗に足を向けたことはないでしょうか?店構え、店内の盛況度、値段、メニュー等を見て、ピンとこなかったり、または満員だから諦めたなども経験としてあるかもしれません。
そしていざ、色眼鏡に叶ったお店でランチを食べる。

上記を整理すると、飲食店では見る(≒知る)、店に行く、入店し注文する(=購入)の3Stepです。

この流れはWeb広告でも全く同じです。
- Web広告を見る = Impression
- Web広告をクリックする = Click
- Web広告をダウンロードする = Conversion(CV)
これを図で整理してみると下記の流れになります。


Impression->Click->CVの流れと費用の図

(注)Conversionは転換を意味します。Web広告はアプリのダウンロード、Webサイトの会員登録、物品の購入など、注文以外の選択肢が、幅広くあり、概してコンバージョン(未購入→購入へ転換的なイメージです)と呼ばれます。

実は飲食店でも同様です

店の前を通って、メニューや看板を見て、入るかどうか決める。この流れは日常的な行為ですよね。
PCやスマホ上でも広告を見て、クリックし(詳細を見て)、CVするかどうか判断します。広告経由でCVしたことがないという人も存在するとは思いますが、この流れは飲食店やWeb広告だけでなくあらゆる意思決定において普遍的な流れです。例えば、コンビニでも概ね同様です。

Click部分の表現が少し異なっていますが、一言でいうと、「見る(知る)」と「CV (買う)」の間のアクションであればなんでも良いです。その中で最も自分が重要だと思うポイントを当てはめてみるのがいい気がします。
コンビニでは入店しても何も買わないこともありますし飲食店であれば入店後キャンセルする率はほぼ0%に近いと思います。

また、先ほどの図で触れていなかったCTR,CVR,CPM,CPC,CPAについて簡単に説明します。これらはWeb広告において日常的に使われる用語です。

Impression->Click->CVの流れと費用の図

CTR=広告を見た人がクリックした割合
  (1000人中3人がクリックした場合 3/1000=CTR0.3%)
CVR=広告をクリックした人がCVした割合
  (1000人中50人がCVした場合 50/1000=CVR5%)
CPM=広告を1000回表示させるのにかかる費用
  (20000impで費用1500円の場合 (1500/20000)*1000=CPM75円
CPC=1clickしてもらうのにかかる費用
   (費用1500円で40クリックの場合 1500/40=CPC37.5円
CPA=1CVしてもらうのにかかる費用
   (費用1500円で5CVの場合 1500/5=CPA300円

この数値は主に広告媒体やクリエイティブ等の比較に用いられます。

例えば、広告媒体AではCPA300円、広告媒体BではCPA500円の場合、CPA300円の媒体に出稿しようというのは費用対効果から当然の話です。アプリをインストール(=CV)してもらうのに費用が300円かかるか、500円かかるかで考えた場合、安く済む方が経済的に良いからです。

またCPAだけで判断するのみでは配信先を選ぶのみとなり、広告運用者の業務としては不十分です。
CPAの構成要素としてCTR,CVR,CPMがあり、広告媒体BのCPAが高いのは、CTRが低いから(看板に見向きもされなかったから)?、CVRが低いから(看板で購入したいという魅力を伝えられなかったから)?、もしくはCPMが高いから(そもそも表示するのにかかるお金が高いから)?と、CPAが高い理由の原因を特定し、改善していくことが求められます。

また、上記の数値を男女別の情報で見ていくとどうだろう…などと様々な階層で比較していくことで、費用対効果に優れた広告配信先や改善方法を定めることが可能となっていきます(実態はより複雑で別の重要な視点もありますが本題ではないので割愛します)。


Web広告の知識を店舗に当てはめる

この広告指標は実店舗でも当てはめることが可能です。

Web広告では出稿費が費用にあたりますが、実店舗では賃料を当てはめるのが適切でしょう。賃料によってImpression(店の前を通る人の量)はコントロールできるからです。
例を挙げると、JR渋谷駅徒歩6分の賃料とJR田端駅徒歩6分の賃料が(同一の設備等でも)異なることは想像できますよね。Impressionもそれに連動するのが一般的かと思います。
そして、通行人一人当たりの費用はCPMとして計算し優劣を見極めることができます。賃料が大きく異なる物件でもどちらがImpression的には安価であるかを測ることが可能です。

上記例では渋谷の方がCPMは安い



そして、Impressionするユーザー属性によって看板等を閲覧してくれる人数や入店の割合も異なります。
50代の男性と、一人暮らしの大学生では看板を眺める確率(CTR)も、実際の入店率(CVR)も大きく異なるでしょう。
これはWeb広告でも同様で、実際問題、老若男女に配信される広告はかなり細分化されている印象です。それらはCTRやCVRを基に最適化されています。

一つ、重要な点としてリアル店舗では人通りの数(Impression)は不変な点は注意が必要です。店舗ジャンルの違い(ラーメン屋や居酒屋等)により、看板を閲覧率(CTR)や入店率(CVR)は大きく異なりますが、Impressionは基本的に変わりません。
これが「店舗経営は立地が一番重要」といわれる所以だと思います。店舗が開店後頑張っても基本的にはアンコントローラブルであるからです。
Web広告においては配信量は可変ですが、実店舗の通行量は可変ではないと言うことです。

といいつつ、飲食店において指名検索を多く取るというImpression増加のアプローチがあります。これもWeb広告における指名検索、一般検索との類似性が有り非常に面白いポイントだと思います(リアルがWebに実装されただけとも言えますが)

飲食店実践準備編


では、私がお店を始める時に始めたことは何か。それはいくつかのエリアでいくつかの店舗の脇に立ち、通りがかる人数(Imp)と、看板を眺める人数(Click)と、入店していく人数(CV)を数えることでした。

具体的には、繁華街と住宅街それぞれのカレー屋、中華料理屋、喫茶店、居酒屋などを1時間弱眺めて、男女年代毎のCTR,CVRを計りました更に可能性がありそうな店舗ジャンルに関しては時間や場所を変えて、何度か同じことをしました。

これは、街毎の時間別の人通り(Impression)を確認し、店舗ジャンル毎の看板を見られる率(Click,CTR)、入店率(CV,CVR)を測ったと言うことです。
また賃料は各エリアの坪単価相場(や実際の物件)が出ているのでそれを当てはめることでCPMを算出しました。

すべての数値を計算できる


上記の調査はWeb広告出身の私にとって非常に面白いことでした。というのも、広告では自社以外のCTR,CVR,CPMというのは把握できないものだからです。そして、実際にどういう人が接触しているかを男女年代等に分け計測できるということも、出店にあたり非常に有益な情報になり得ると思いました(これもWeb広告では測ることはできません)

実店舗で各数値等が事前に測れるということは、店舗出店の不確実性はかなり限定的にできる、コントローラブルな要素だということです。
具体的にはCPMから魅力的な出店場所を選びつつ、複数店舗を観察することで、繁盛しそうなお店のジャンルも確認しつつ入店者数を弾き出すことができます。
通行量調査のみでは単純なImpressionしか計測できず不十分ですが、CTRCVRも測ることで、より精緻に入店者数を予測することができるでしょう。

私の店の場合

長々と語ってきましたが、あなたのお店はどうなんですか?という話を最後に。店の外観はこんな感じです。

冒頭にも貼っていましたが、覚えてますかね?

一見して分かるように、ドアも半透明で入りにくいです。店構えも普通の家でとても入りにくいです(CTR,CVRが低そうということです)。
そして、人通り(Impression)は土日でも10人/時を切る時もあります。いかに家賃が安い場合でもImpressionが分母になる手前CPMも安価にはなりません。

そうなんです。理論自体は構想したものの、それを実践することを選ばなかったんです。それはなぜか?

恥ずかしげもなく大きく矛盾めいたことを言うと、「食べることの楽しみや感動」を信じてみたいと思ったからです。
食というのはインターネットや音楽と違って誰にとっても絶対的に必要なことです。それゆえ広く「多様性」が認められています。例として「食に興味を持たないこと」が許容されています。「近場であるから」「クイックであるから」「安いから」が便益に含まれ(味覚からは感じられないことなのに面白いですよね)、その便益は日本ではとても愛されているように思いますし、私自身も恩恵を受けています。
一番強い飲食店はコンビニエンスストアです。値段、場所、圧倒的な提供スピード、清潔さ、文句のない味、どれをとっても叶うところがないかもしれません。

しかし、それだけでは物足りないと思う側面もあると思っています。「思わず表情を変えてしまう美味しさ」「食べたことのない味、風味との出会い」は、デスクワークのサラリーマンが唐突に飲食店を始めるくらいの事件を起こしてしまう。そういう事件が一度でも起きたらいいなと私は思っています。そんなことを思いながら週末に中華鍋を振るっているのです。


カンムで働くことに興味を持った方はこちらまで。
東京麻婆で働くことに興味を持った方はこちらまで。
東京麻婆を食べたいと思った方はこちらまで。




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