アーティフィシャル僧兵戦記 ―永久マニ車機関破壊指令―

 各所に配置されたマリア像が一斉に涙を流したことで、基地内は蜂の巣を突いたような騒ぎに陥った。
 レーダーや哨戒機より早くマリア像が反応したということは、敵は十中八九、仙人である。
「対仙戦闘用意! 対仙戦闘用意! ダクト閉鎖急げ」
 霧化して侵入してくる仙人には、対BC兵器用の隔離設備が流用できるはず、というマニュアルは、机上の空論だった。
 突如として基地内通路に、重機械化仙人が姿を現す。
 縮地法である。基地は建設の際に風水学の知見からこの手の瞬間移動による奇襲ができないよう防備されているはずだった。将兵たちは知る由もない。つい数分前に上流のダムが破壊され、龍脈の流れを変えられていたのだ。
 背中に2つのボンベを背負い、吸気マスクとバイザーで顔を覆った仙人に対し、付近にいた兵士たちは恐慌状態に陥った。無闇に引き金を引く兵士もいるが、祝別も受けていない通常弾が仙人に通じるはずもなし。
 また、逃げ出したり物陰に飛び込む兵士もいたが、これも無益な行動である。仙人は本来千里眼を持つが、装着したバイザーはその視野を赤外線領域まで拡大しているためだ。
 しかし仙人はそれら一般兵を無視して、大きく息を吸った。
 背負った2つのボンベには深山幽谷から採取してきた天の気・地の気が充溢した空気が圧縮充填されており、これにより仙人は仙境でなくとも存分に実力を発揮できる。
 マスクの外に吐息が漏れ、それが雲となった。仙人は雲に乗り込むと、猛スピードで通路を突き進む。
 しかし、T字路に差し掛かった瞬間、彼は雲上から壁に叩きつけられた。
 横合いから姿を現したのは、完全武装で駆けつけてきた従軍司祭。
 仙人を殴り飛ばしたのは、右手に握り込まれたタングステンカーバイド製の巨大な十字架だ。左手には高圧放聖水ノズルを銃のように構えている。
「仙骨を手術で移植しただけの即席仙人ごとき! 調子に乗るな!」
 叫ぶと同時に、高圧聖水を発射し、追撃の神罰。

 【続く】 

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