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地域の「得意」を加速させるフードテック★ 自治体の方々と、これからの地域事業者の支援を考えたい(5)

株式会社ただいまの佐藤と申します。これまで10年以上、地域の事業者さんの支援を手がけてきました。支援にあたっては、日本各地の自治体や、地域の金融機関さんや支援機関の方々とご一緒させていただく機会が多く、千葉、長野、京都、広島、福岡、長崎などで主に活動しています。

これまで4回の「自治体の方々と、これからの地域事業者の支援を考えたい」記事へ、地域の事業者さんから個別にメッセージをいただきました。それらを踏まえ、特に弊社もお付き合いが深い、地域の農業や食べ物関係の事業者さんの将来を考えながら、今回は、フードテックについての書籍を参考に、地域事業者さんの支援について考えてみたいと思います。

「フードテック」とは、植物性タンパク質からベジミート(肉のような食感の100%植物由来の食材)を作り出すように、最新のテクノロジーで今までにない食品を開発する技術だと思われています。でも、実はそこだけにとどまりません。今回ご紹介の書籍では「フードテックとは」について幅広かつ網羅的に紹介されています。

『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』です。

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10月になろうとする今も、新型コロナは日々の消費や余暇に影響を与え続けています。別の書籍になりますが「ニューノーマル時代のビジネス革命(日経BP社)」によれば、

14世期に大流行したペストの影響で「当時欧州の全人口の1/3から1/4が死亡したといわれる。その結果、欧州全土で人手不足が発生し、賃金上昇が起こり、農民が都市に解放され、併せて実力主義が身分制度を解体する結果をもたらした」そして、科学が台頭していったことが示されています。

そして今回の新型コロナウイルスが、これまでの大量生産・大量消費を必然とした工業化社会から、ICTを中心とするテクノロジーをベースに「トレーサビリティ(追跡可能性)」「フレキシビリティ(柔軟性)」「ミックスドリアリティー(オンラインとオフラインの融合)」「ダイバーシティー(多様性)」の4つのキーワードで語られる新しい時代への移行を加速させる触媒になるのではないか、とも指摘しています。そんな新時代の食生活を、フードテックは大きく変えていくでしょう。

ですが、「フードテックありき」で考えるのではなく、まずは地域の将来がどうありたいか、そのために解決しなければならない課題は何か、そのためにどんなチャレンジに取り組みたいか、その熱意を持って本書を読んでいただきたいと思います。

手書きで恐縮ですが、下記のようなイメージです。

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フードテックがカバーする領域は、かなり深くて、広いです。しかも日単位で進化します。フードテックの全てを理解してから、その技術をどう地域に活かすのかと考える、というのはおそらく無理です。また、その思考では、仮に完全理解ができたとしても「フードテック導入ありき」の支援事業になってしまうのではないかと危惧します。

妄想でもいいので、地域の事業者と一緒に、新しい時代においてどうありたいのかを膝詰めでお話していただくことを、まずおすすめしたいです。

その際、「他の地域に比べ、自分の地域は遅れている」「うちの地域の事業者の意識が低い」といったネガティブな考えはいったん捨てましょう。新時代の世界が、人が、どんな暮らしをしていくのか、何が変わって何が変わらないのか、を想像しながらフラットに話し合ってみてください。

その前提で、地域の事業者の支援において注目したい技術や視点は下記の3つです。

1.失敗しない調理方法をサポートする技術

弊社支援先の日本茶のお茶農家さんと、よく話題になるのは「お茶のおいしい淹れ方」です。茶葉の量、お湯の温度、量、急須の中で茶葉を蒸らす時間など、たくさんの手順を経て淹れていただくお茶は格別です。ですが、これを自宅で手順通り、というのは大変です。毎日忙しいなか、一杯のお茶にそうそう時間をかけていられない、といったこともあり、美味しい淹れ方というのは、お茶(特に茶葉の販売)の販促ツールとしてはいまひとつ決め手にならないことを経験しています。

そこに切り込んだのが、本書のP40で紹介されている、日本茶のIoTティーポット『Teplo(テプロ)』です。これまで数百年、同じ形態を維持し続けてきた「急須」に着目し、お茶を通じて「提供する人の体調や気分、季節などを気遣う」という価値を、AIで提供してみよう、というチャレンジです。もちろん賛否両論あると思いますが、ひとついえるのは、消費者の方は、失敗のリスクが減れば、なんとなく避けてきたことにトライしやすくなるのではないか、ということです。しばしば、地元の自慢の産品をより美味しく食べてもらいたいから、と「この調理法・作法以外は認めない」といったトーンで説明するケースを見かけます。でも個人的には、それを初めて食べてみる方のために、もう少しゆるめに、失敗しにくくトライしやすいところから、徐々に本格化していく「段階の設定」も必要じゃないかな、と私は思っています。

余談ですが、私の日本茶のイメージをガラッと変えてくれたのは、フランス人の茶商の方でした。彼がいれる「おちゃらか」のフレーバーティーを水出しで飲むようになり、手軽においしいお茶を楽しむ習慣が我が家にも根付きました。まずはおいしいお茶を手軽に試す、そこからさらに深く、といったステップの有効性を体感しています。

2.超・個別化される食への対応

健康への関心が高まる中、私も、毎年の健康診断の結果やウォーキングの歩数をアプリで計測するなど、自分の体の健康状態を数値で身近に意識するようになりました。社員の健康状態を継続的にデータ管理する企業も増え、テレワークの長期化で減った運動量をカバーするため、自発的に運動する社員の方も増えたとの話も耳にします。

一人ひとりの健康数値を改善していくためには、運動と並行して「食」の見直しが必要です。その食を、個々のコンディションにあわせて提供してほしいと考える方は多いと思います。

そんな超・個別の食に対応するためには、健康診断の結果などのデータに加え、個人の状態・好みに応じてきめ細やかにメニューを提供する食の技術も必要になります。それを可能にする技術のひとつが「冷凍」です。

お弁当などでもお馴染みの冷凍食品ですが、その技術は昨今さらに進化していて、弊社の支援先、取引先が提供する冷凍食品も、メニューによっては作り立てと遜色ないものもあります。その中でも、「ほぼ手作りの調理工程」と「最新鋭の冷凍凍結技術」の組み合わせにより「おうちでほとんどお店の味」を実現した「みっちゃん総本店(広島風お好み焼)」は、今後、さらに進化していける余地があると思っています。

3.「つながる」「体験」もフードテックの一環

新型コロナウイルス感染拡大以降、弊社が支援先と消費者双方からうかがうニーズは、やはり「つながること」「体験すること」です。テクノロジーの導入だけがフードテックだけではなく、消費者のニーズに応える「ビジネスモデル」の企画提供も含まれます。

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食を通じた地域の新しいコミュニティーづくりのチャレンジもはじまっています。神奈川県では、不動産管理会社が、物件を借りてくれている学生さん向けに食堂を運営している例もあります。

「トーコーキッチン」では、入居者限定で良心的な価格で毎日おいしそうな朝食が提供されています。一人暮らしをさせる父母にとっても安心であることはもちろん、お互いが顔を合わせる場もあり、新しい人と人の繋がりも生まれてくると思います。

地域が得意なことを、活用し、伸ばす。 テクノロジーはその一つの手段。それが支援に必要な視点

地域には、これまで食べ継がれてきた農産物や食品があります。これは地域がこれまで培ってきた「得意なこと」です。

一方で、消費の動向も変化し、地域発商品が以前よりは珍しくなくなりました。地域の名称や名物を大声で発信するだけでは、なかなか商品が売れないのが現状です。

これまで通り売れない状況になっているのであれば、社会の変化やお客様の要望を踏まえた展開を、するか否かを選択しなければなりません。

よくあるのは「日持ちがしない商品」を「長期間食べてもらう」ために、先ほどもご紹介した、高度な冷凍技術を活用した「冷凍食品」へ進化させるケースです。しかし、日持ちがしないということも、もしかしたらひとつの価値かもしれない。その場合、長期保存のための冷凍技術は、その価値を損ねてしまうことになります。

上記の図のように、テクノロジーはあくまでも「手段」であり、導入することが「目的」になってしまうと、地域の事業者にとっても違和感が出てしまうと思います。そのテクノロジーは、商品価値を伸ばす手段になっているか。それは常に、まず問われるべきだと思います。

今回も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。次回は、地域の課題である「意欲的に取組む組織づくり」について、考えてみたいと思います。

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