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生活の実感から「世の中の体温をあげる」ビジネスを創る ★ 自治体の方々と、これからの地域事業者の支援を考えたい(2)

株式会社ただいまの佐藤と申します。これまで10年以上、地域の事業者さんの支援を手がけてきました。支援にあたっては、日本各地の自治体や、地域の金融機関さんや支援機関の方々とご一緒させていただく機会が多く、千葉、長野、京都、広島、福岡、長崎などで主に活動しています。

新型コロナの影響が、まだまだ見通しにくい状況が続いています。そんな中でも、地域の事業者は生きていかなければならず、またそのための支援もレベルアップが必要な状況です。以前より、地域金融機関の方向けのコンテンツを発信させていただいていますが、前回に引き続き5回程度、日本各地の自治体の皆さまに向けて、地域の事業者の支援についてご一緒に考えるコンテンツを発信させていただきます。

今回も、地域の自治体職員の皆さまと、まずは書籍で背景となる知識を共有し、その中身をどう解釈し支援につなげていくか、この場でご一緒に考えていければ幸いです。

こんな時だからこそ、机上の理論からではなく「生活の実感」から考えたい。

今回参考にしたい書籍は下記です。

「成功することを決めた〜商社マンがスープで広げた共感ビジネス」

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今や、都市圏でたくさんお店を見かけるようになった「スープストックトーキョー」がどうやって立ち上がり、どんなことにチャレンジして、どんな失敗をしてきたか、について赤裸々に紹介されている1冊です。

このビジネスモデルは、決して「市場調査」や「緻密なマーケティング戦略」から編み出されたものではありません。今から10年とちょっと前、社長の遠山さんが、生活や食に対する意識が変化する時代の空気の中で、女性が一人でゆっくりとスープをすすって、目を細めてほっとしているイメージがわいたこと、ご自分のご家族にアトピーの方がいて無添加のスープを提供したいと思われたことがきっかけでスタートしています。

翻ってウイズコロナに際し、現在進行形で私たちの暮らしはどう変化しているか。仕事の時間と家族との時間の境目が変化した方、中には職場と住居が一緒になった方もいらっしゃいます。一方で、外に現場がありテレワークが難しい方も。買い物や外食、外出での行動様式が変わり、子どもたちの日常には、さまざまな学びのスタイルが現れたりと、変化はありとあらゆる場面にあらわれています。その中には、コロナ禍が収束したとしても不可逆と思われる変化もあります。まさに今起こっている変化の先を捉えて、地域を支える新しいビジネスを創り出す必要は日々高まっています。

「生活の実感」を、行政目線だけでなく、住民や民間企業、支援機関からも集めて検討

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上記は、スープストックトーキョーの創業計画書です。利用されるお客様の視点で、ビジネスモデルが書き出されています。もちろん、この内容通りに実現した部分、チャレンジされたけど想定通りにならなかった部分はありますが、これまで10年以上にわたる支援の現場でも、こんなにわかりやすい事業計画書を私は見たことがありません。この創業計画書は、新規事業を支援するたびに足りないと感じる「お客様目線での事業の検討」に取り組まれている好事例だと思います。

目標を明確に、わかりやすい「お話」として共有する。

新しいビジネスモデルを検討する場合、多くはパワーポイントなどで「チャート」にされると思いますが、私は、この手法が必ずしも良いとは思っていません。新規事業を実施する側の独りよがりでチャートが完成してしまいがちで、なおかつそれなりに「良いビジネスモデル」に見えてしまうことが、むしろ危険だと感じています。

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上記は、この事業計画の「目次」です。ポイントは外さず、かつ、事業へ取り組む熱意も加えられているこの計画書からは「体温」を感じます。

先述の通り、生活の実感を、体温を持つ事業として取り組んでいく。こうした、ややもすれば「青臭い」チャレンジこそ、地域発ビジネスには必要だと感じています。

今後、新型コロナがインフルエンザのように収束しても、生活のスタイルは変わるでしょう。その変化の全体像は、まだ誰も見切れてはいませんが、毎日の生活の延長に確実にやってきます。だから日々の生活の実感から、どれだけ未来を描けるか。その議論を、自治体だけでなく、住民や民間企業、支援機関や金融機関を巻き込んで、生活実感を下敷きにざっくばらんに議論して、小さな(結果的に大きな)チャレンジを続けることが大切だと思います。

このノウハウを活かして、開発を支援させていただいたのが、須坂フルーツエールです。地元の豊富なフルーツを使って名水で仕上げたクラフトビールは、事業化にあたり、あえて「地域内だけ」で販売するモデルとしました。

よくありがちな「自治体が補助金を使って作った商品だから、取り扱ってよ」といった押し付けはしたくありませんでした。そこで、最初から顧客として想定していた、須坂市内の飲食店さんなどに集まっていただき、商品開発会議を繰り返しました。

その中で「ご自分のお店をお客様にもっと喜んでいただくにはどのような取り組みが必要か?」「そのときにフルーツを使ったクラフトビールはどのような役割を果たすのか?」そして「お客様の視点で見たときに、このクラフトビールを飲んでみたい、と思っていただくにはどんな商品や提供方法になっていなければならないのか?」をかなりしつこく、検討しました。

結果、1年後には長野県内で100店舗以上での取り扱いが実現しました。しつこさはあれど、取り組んだことはシンプルで「ここでしか飲めないビール」「飲食店さんと一緒に創るビール」というテーマを愚直に突き詰めただけ、でした。でもチーム一丸となって、ここを徹底する取り組みが、良い方向に進んだ要因だと思います。

一方で、「会社らしくない会社」の落とし穴も赤裸々に。

遠山さんの別の書籍もそうですが、本書でもかなり赤裸々に「失敗事例」が紹介されています。その中でもP122からの「炎の70日」のトラブりっぷりは、圧巻です。もちろんよい意味で「会社らしくない会社」を目指したいわけですが、その結果、どんな現実が待っていて、その問題をどう解決して行ったのか・・・。特に立ち上げ後、軌道に乗りはじめてきた企業さんには参考になることが多いと思います。

今回も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。次回は 地域を支えるビジネスを検討するために必要な「技術の発掘」について、考えてみたいと思います。

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