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まず認めること。「存在承認」が大事 ◎地域金融機関さまの取引先支援のお手伝い〜支援に役立つ書籍と使い方(8)

株式会社ただいまの佐藤と申します。今回も自己紹介からはじめます。これまで10年以上、地域の事業者さんの支援を手がけてきました。支援にあたっては、地域の金融機関さんや支援機関の方々とご一緒させていただく機会が多く、千葉、長野、京都、広島、福岡、長崎などで主に活動しています。

地域の金融機関のお役に立てればと思い、このコンテンツをスタートして、8回目です。 今回は、多くの場面で課題となる「組織運営」や「リーダーシップ」がテーマです。

支援にあたっては必ずしも、即「ではこれで進めましょう」となる場面ばかりではありません。何をつくるか、どう売るか、ということと並行して、あるいはそれよりも先行して、まず支援先の組織の状態や、経営陣のリーダーシップについての改善が必要な場合もあります。

書店に行けば、組織論やリーダーシップの書籍が多数販売されており、良書も多いと思いますが、弊社がこれまで10年以上、地域の事業者さんの支援に取り組んできた経験から申し上げると、意外と「スポーツ」に支援のヒントがあると感じています。

その中でも、「ラグビー」には、より多くのヒントがあります。昨年のラグビーワールドカップの熱戦をご覧いただいた方も多いと思いますが、1チーム15人の体格には、かなりのバラツキがあることに気づかれたのではないでしょうか。ラグビーは、いろんな体格や能力が異なるタイプの人間が、お互いを補いあい、ONE TEAMとして機能することで成り立っているスポーツなのです。

人材不足が叫ばれて久しい地域の支援先の事業者に、何拍子も揃った優秀な人材が数多く在籍しているケースはなかなか稀です(人材豊富な大都市の大企業でもそんなことはレアケースですが)。特定のスキルには秀でているがそれを専門外の場面で活かすことに慣れていない方、または本来出せるべき能力を何らかの理由で発揮できずにいる方、といった方々が、それでもとにかく集まって、なんとか1つの組織として仕事をしている状況をたくさん見てきました。そうした状況下での問題を解決して、順調な支援につなげるためには、観念的な組織論やリーダーシップ論では難しいなあと、私自身も感じていました。

今回オススメしたい1冊からは、まさにラグビーから、そうした組織の在り方やコーチング、リーダーシップを考えるヒントを得られます。

『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ•ザ•フィールドの子育て』

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著者の中竹さんは、早稲田大学ラグビー部にて、現役時にはキャプテンを、卒業後は監督を務められました。ご自身が著書でも書かれている通り、ラグビーがずば抜けてうまかったわけでもなく、チームをグイグイ引っ張るカリスマリーダーでもなかったとのことです。そんな中竹さんが、なぜ監督として早稲田大学を大学日本一にできたのか?なぜ今、コーチのためのコーチングにおいて第一人者と呼ばれるのか。地域の企業支援にも活かせるポイントが、この本にはたくさんあります。

私はコーチを育てるときに、はっきりとこう言います。「ラグビーに詳しい、戦術を知っている、というよりも、コーチであるあなた自身がどれだけ学ぼうとするか、いろんな現象を“自責”として捉え、どれだけさらけ出せるかが大切です」と。 (本文p14より)

自戒の念も込めて申し上げると、どうしても支援先には「自分がこれだけ知っている」ことを、ややアピールしたくなると思います。でもそういうとき、支援先の方は「やはり自分のことなどわかってくれない。わかろうとしていない」と思っているのではないでしょうか。支援を始めるにあたっては、先様の話に耳を傾け、学ぼう、理解しようとするその姿勢が、まず問われているのだと思います。そしてそれが、支援するために最も大切な、相互の信頼の土台になるのだと思います。

コーチの指導をしていると、彼らも「選手をどうやって褒めたらいいのか」ということに悩んでいることがわかります。そんなときに私が彼らに伝えるのは「褒めるという行為は、あまり機能しない」ということ。褒めるというのは上からの行為だし、評価だからです。それよりも「認めることのほうが大事」だと伝えます。(本文P96より)

褒めて人を伸ばす、のが今ひとつしっくりこない、あるいは効果を感じない時は、思い切って相手の「良いところ・努力しているところ」だけでなく「足りないところ・失敗したところ」もあわせて丸ごと受け止めてみてはいかがでしょうか。私自身もそうですが、前向きに頑張れる原動力となるのは、自分を一人の人間として認めてくれている、と感じることだと思います。「人間にとっては存在承認が一番大事です。逆にいうと、人間のとっての最大の脅威は無視されることです」と中竹さんも書いています。

リーダーとは「役職」ではなく「役割」の名称にすぎない。それは能力も役職も関係なく、心がけ次第でできることです。(本文P121より)

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責任ではなく、責任感を持った人、全員がリーダーをやっても良い、ということです。かつてはよく賛美されていた、能力が高くカリスマもある一人のリーダーが組織を変えていく、という状況が今の時代も起こり得るのか。おそらくそうではないと思います。地域の企業の支援の際、特に代替わりの際には、次の社長にはリーダーシップを発揮し、会社や従業員をまとめ、さらに成長を期待する空気もあります。でもその責任を、一人が背負い込む必要はなく、責任感がある方々が、それぞれの強みをしかるべき場面で発揮して、全員がリーダーになっても良いのです。

そんな理想論が??私の体験したケースですが、この春まで東京近郊のとある飲食店の支援に携わってきました。私が関わる以前は一人の管理職にリーダーシップを集中させる運営手法でしたが、その元で働くスタッフも皆責任感がある方ばかりでしたので、思いきって全員にリーダーとなっていただきました。その上で支援を進めるうち、充分な利益を確保できる価格で店の持ち味を活かした新メニューが生まれたり、お客様への積極的なコミュニケーションにより店の雰囲気が変わったりすることで、好評価をいただける店舗へと再生することができました。

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別の書籍のタイトルで、中竹さんは「特別な才能はいらない」と言い切っていらっしゃいます。今、現実に存在していないカリスマリーダーがいつかやってくるのを待つより、今いるメンバーの得意なこと、好きなこと、苦手なことを整理し、責任感のある方がリーダーシップを発揮して、お互いをフォローしながら目の前の業務を進めていく方がより現実的で、手応えのある支援効果を狙えると思います。

これまでの回との繰り返しになりますが、地域の企業の支援にあたり、地域の金融機関さんがよくおっしゃる「銀行員で何も事業のことがわからない」「銀行業務以外のことは不得手である」といったことは、実はそうではなく、銀行の複雑な業務がこなせる方は、いろんなことができるはずだと私は思っています。

多忙な金融機関の皆様には、多様な支援先へ効果的なアドバイスを提供するために割ける時間も限られていると思います。そんな中でもまずやっていただきたいのは、参考になる書籍を読むことです。読んで、知識を高め、その知識を実際に使っていただくことです。

今回も長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

作成者:株式会社ただいま(サイトはこちら

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