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#14 お金がない人こそ狙われる

「カネがなければ借りさせろ」

すでにローンなどを背負い、老後の生活に不安を抱えた中年層も狙われている。
まさに私もその世代だが、あるギャンブル系サイトに登録した時のことだ。

「競馬の的中情報を提供する」

という業者から電話がかかって、男は私の懐具合の調査から始めてきた。

「今のお年ですと、老後の生活はとても不安になりますよね、国の年金も少子化が進むこの時代に、あてにできませんしね」
「ええ」
「老後の生活には、6000万円ほどなければ、安心できないといわれています。現在、それだけの貯金が現在、ありますか?」
「いいえ」
「現在、車や家のローンはありませんか?」
「いいえ、車は持っていませんし、家も賃貸です」
「何もないのですか!」

業者の口調が強くなった。

「多田さん、自分の老後について、真剣に考えているのですか! 貯金もなし、資産もなしで、これからの将来設計をどう考えているのですか! お金がないっていうのは、これから先、大変なことですよ」

と、怒られたのである。
そこで業者から提案されたのが、資産を増やす方法だった。
話を聞けば、「競馬には着順が決まっているレースが幾つかあるので、その情報を買わないか」というもので、結局は詐欺の話に誘うものであった

その際、私は「お金がないので、情報料金など払えませんよ」と断っても、「お金がなくても、クレジットカードを使って、現金を手に入れる方法もありますよ」と、いわゆるクレジットカードの現金化などの手段を提案してきた。
要は、借金をしてでも、この情報料金を買うべきだというのだ。

要するに、「お金がなければ、金を借りさせればよい」これが現代詐欺の発想なのだ。
振り込め詐欺でも、貯金を使い果たして「渡すお金がありませんよ」といえば、どこからか、お金を借りさせてでも払わせようとすることもある。

以前に通用していた「私はお金を持っていないから、私は騙されない」という思いは、もはや通用しない。
不況といわれる時代が長く続いたために、多額の貯金を持っている人は少なくなり、逆にお金をさほどもっていない人の方が大多数になっている。
詐欺師の側も十分にそれがわかっていて、浅く広く金を集める手法にもシフトチェンジしている。
「お金がない」はもはや断り文句にはならず、もっと極端なことをいえば、今は「お金がない人こそ、狙われている」といってもいいかもしれない。

お金がないから、大丈夫と思っていると、手持ちの金をかすめ取られるのだ。

「押し売り」ならぬ「押し買い」に注意

彼らの発想には、「私たちの思惑のウラをつく」というものがある。
もっと、具体的にみてみよう。

いきなり家に押しかけてきて、いくら断っても居座って帰ろうとしない。
そして、最後には「買えよ!」と脅すような口調で迫ってくる。
断れば、何をされるかわからない気持ちから、家人は怖くなってしまい、相手の差し出す商品を言い値で購入してしまう。
こういった押し売りによる被害は後を絶たない。

そこで、「『買えよ!』と、強気に売りつけてくるのが、悪質業者です。押し売りには気をつけましょう」という注意を促すと、……悪質業者は、まったく逆方向からやってくる。

女性の声で、電話がかかってくる。

「こちらは、リサイクルショップですが、古着や靴、本など余っていませんでしょうか? 何でも買い取ります」

電話を受けた中年女性は「ちょうど、捨てようと思っていたものがあったから、ぜひ来てください」

と答える。
翌日、業者の男が来訪する。

「お電話でお約束しました、リサイクルショップの者です」

男は難なく、家に入り込む。
女性は、玄関前に、家の奥から着なくなった衣類や鞄などを出してくる。

「こちらですね」

そういいながら、業者の男は衣類などを見ていく。

「こちらは旦那さんのものですか」
「ええ、もう着られなくなったものですから」

何気ない会話をしながら、業者は査定結果を口にする。

「これはどれも値段が付きませんね。もう少し価値のあるものはないですか? せっかく来たのですから、お値段がつくものをよろしくお願いします」
「そうですねえ」

と考えこむ女性に対して、

「たとえば、宝石や貴金属などのアクセサリーはないでしょうか? 見せてくれるだけでいいんですよ」

と重ねる。
これですんなり出してくれる家人であればいいが、「家には高価な宝石はありません」と言おうものなら、男の態度は一変する。

「これだけ立派な家に住んでいるんだから、何かあるはずでしょう。嘘はつかないでくださいよ」
「旦那さんがいるんだから、結婚指輪もあるでしょう。見せてくださいよ」

しつこく迫ってくる。

女性が「貴金属類はないので帰ってください」と言えば、だんだん男は凄みながら、「いいから、金の指輪や宝石を出せよ」と脅すような口調になる。
ついには、女性が着けている指輪や腕時計を見て、「それを見せてくれよ。それを売ってくれよ」とまで言い出す。
まさに、押し売りのリバース、押し買いを始めてくるのだ。

家人が根負けして宝石を出すと、高価なものにもかかわらず、

「デザインが古いので価値がありません」
「これは偽物ですね」

と嘘をついて二束三文の値段をつけて買い取っていく。
もし相手に宝石を渡してしまい、不安になって「やはり、返してください」と言っても、男は、「一度、売ることに同意して渡したものは、戻せません」などといって、家を出ていってしまう。

だが、これは嘘だということを知っておいてほしい。
訪問購入では、クーリング・オフというものが法律で定められている。
クーリング・オフを記載した書面を交付することを義務付けられているのはもちろんだが、業者と商品を売却する契約をしたとしても8日間は、業者へ商品をすぐに渡さず、手元に保管しておけるのだ。
もし、業者から、金銭的な価値がないと査定されても、一方からの話だけでは判断せず、自らが実際に買い取りの店舗に赴くなどして、査定額を比較検討できる。
当然、クーリング・オフの期間であれば、無条件で契約を解除できる。

くれぐれも、買い取りの契約をしたからといって、安易に商品を相手に引き渡してはいけない。
中には、後から商品を取り戻そうとして、業者に電話をかけるも、連絡がつかないケースもあるからだ。

「商品を売りつける」のが、悪質商法と思っていると、不用品がお金になるかもしれないという気持ちについって、今度は、リバーシブルして「買い取る」という手段でやってくるのだ。

(続く)


【プロフィール】
多田文明(ただ・ふみあき)
詐欺・悪質商法評論家、潜入ルポライター、詐欺・悪質商法ジャーナリスト。
1965年、宮城県生まれ。
街頭でのキャッチセールス等の勧誘先・現場等への潜入数は100ヶ所以上にのぼる。
それらの体験を基にしたベストセラー『ついていったら、こうなった』がフジテレビで番組化され、第8弾まで放送される(自身も出演・監修)。
あらゆる詐欺・悪質商法やその手口、詐欺師の心理術、また、マインドコントロール・洗脳の手法やカルト事情などにも精通しており、それらの知識・経験を基に多数の著書、テレビ・ラジオ番組出演、新聞や雑誌等の連載、講演会やイベント出演等々、幅広く活動中。
消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」委員も務める。

ツイッター https://twitter.com/tadabunmei

【著書】
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