ポチェッティーノという屈指の戦術家。その超意外な弱点とそれを含めた最強説を唱える。

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今回は、いつもの試合分析ではなく、一人の監督にフォーカスを当てて書きます。題材はトッテナムを率いるアルゼンチンのサンタフェ州生まれのマウリシオ・ポチェッティーノです。

昨シーズンは「補強ゼロ」の中でチームを指揮し、リーグ戦では後半に若干ペースダウンするも4位でCL出場権を獲得し、CLではドルトムント、シティ、アヤックスを破って決勝進出。決勝では惜しくもリバプールとの同国対決に敗れるも、大きな衝撃をもたらした素晴らしいチームを作り上げました。そして今シーズンは移籍市場で財布のひもが全開になり、ンドンベレ、クラーク、ロチェルソ、セセニョンの4人を118億使って獲得。その代わりにジョレンテ、ヤンセン、トリッピア―、フォルムの4人を放出する、というビッグサマーになりました。

そして迎えた新シーズンのアストン・ヴィラとの開幕戦では、3-1で勝利。好スタートを切りましたが、試合を見られた方なら分かると思いますが前半はかなりアストン・ヴィラの守備に苦戦し、一本のロングボールでマッギンに決められビハインドを負います。選手がフラストレーションを貯めている様子も何度も見られました。その前半を終えて後半は4-4-2にシステムを変更し、64分からはエリクセンを投入し、そこから攻勢を強めて3点を奪って逆転。「やっぱりエリクセンが必要だ」と感じた試合になりました。

そこでこのポチェッティーノという監督の試合で見せた見事な戦術、対策をいくつものケーススタディから検証し、昨シーズンの試合までを振り返って感じた「弱点」も明らかにしていこうと思います。

ポチェッティーノが指揮した昨シーズンのトッテナムの試合は3試合分析を書いていますので良ければ読んでみて下さい。

チャンピオンズリーグ準決勝1stLeg vsアヤックス ●0-1

チャンピオンズリーグ準決勝2ndLeg vsアヤックス ○3-2

チャンピオンズリーグ決勝 vsリバプール ●0-2

 ではまずポチェッティーノが素晴らしい采配を見せた試合から行きましょう。

第一章 Goodケース① 18-19UCL QF1stLeg vsMシティ

最初のケース①は、18-19チャンピオンズリーグ準々決勝の1stLeg、その当時出来上がったばっかりだったトッテナムホットスパースタジアムで行われたマンチェスターシティ戦の守備戦術。

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トッテナムは4-2-3-1でGKからロリス、トリッピアー、トビー、ヴェルトンゲン、ローズ、シソコ、ウィンクス、エリクセン、アリ、ソン、ケインの11人がスタメンに選ばれました。

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図のように、SH,トップ下,2ボランチ,SBが相手のSB,2ボランチ,トップ下,SHを噛み合わせを合わしてマンツーマンでハメ込み、アグレッシブに高い強度でバチバチ自分のマークに対してコンタクトして奪いに行く守備をしていました。

この試合は、シティが守備的な戦いを選択したこともあってか、他の試合よりもオフザボールの動きが少なかったことも関係していると思いますが、マンツーマンでハメ込んだことでCFのケインに対してシティのCBは2枚なのでボールを持つことは出来るのですが、パスの出しどころがない状況に陥れ、ロリスのPKセーブもあってシティをゼロにシャットアウトしました。そしてソンのゴールで1-0勝利。

第二章 Goodケース② 18-19UCL SF2ndLeg vsアヤックス(前半)

続いてGoodケース②は、同じくチャンピオンズリーグのSF2ndLeg、1stLegで0-1で敗れた後のヨハンクライフアレーナで行われたアヤックス戦の前半で見せた攻撃戦術について。この試合は攻守に渡って分析してますので最初に貼ったリンクから是非。

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システムは4-2-3-1。ロリス、アルデルヴァイレルド、ヴェルトンゲン、トリッピアー、ローズ、ワニャマ、シソコ、エリクセン、アリ、ソン、モウラ(ルーカス)の11人が先発です。

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この試合の前半の攻撃戦術は、「カオス化」でした。4-2-3-1のところから、エリクセンやソンが中に入ってきたりトリッピア―やローズが高い位置を取ったり、ボランチのシソコ、ワニャマがサイドに下りてきたりと、かなり流動的にポジションを動かし交換して、カオスを生み出していました。

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カオスを生み出すことで相手を混乱させ、マークを明確にさせないことで、上図のようにアヤックスの選手のギャップにフリーを作り出してハイプレッシングを交わし、ライン間に進入して押し込むことができていました。決定機を何度も作ったわけではなかったし、前半のうちに2点を奪われているのですが、確実にアヤックスに対して効果的でしたし、アグレッシブなハイプレッシングを交わすことが出来ていたので僕は素晴らしいアイデアだったと思います。

第三章 Goodケース③ 18-19UCL SF2ndLeg vsアヤックス(後半)

では続いてGoodケース③では先ほど取り上げたケース②の続きでアヤックス戦2ndLegの後半の攻撃戦術を取り上げます。前半、「カオス化」戦術が効果を示すも点を取れず、逆に2失点。そこでポチェッティーノ監督はハーフタイムでワニャマを下げ、Fジョレンテを投入し、大きく攻撃戦術を変化させます。

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システムは4-2-3-1のままですが、エリクセンがシソコと2ボランチで、モウラ(ルーカス)が右SHになりました。そして、左SBローズは中盤に入って偽SBをしてSHソンへのパスコースを空けていて、右はルーカスがライン間IRに入ってSBトリッピア―が幅を取る形。そして前半はポジションをグルグルグルグル動かしていましたが、固定する形に。

ここで僕が面白いと感じたのはモウラの起用法です。元々モウラはドリブラーなのですが、この試合の直近ではストライカーとして活躍し、ハットトリックもしていました。そのモウラをサイドに張らせてドリブルを仕掛けさせるのではなく、内側に入れて得点力を生かそうとする起用をしました。それが「ポチェッティーノよくわかってるなぁ」と感じましたし、この試合でもハットトリックでチームをワンダメトロポリターノに連れて行っているのですからすごいですよね。

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そしてルーカスを中に入れる、ローズが偽SBといった配置をセットした上で、左サイドはSHソンのドリブル突破で打開し、右サイドは高い位置を取ったSBトリッピア―からのクロスで得点を狙う。

アヤックス戦の2ndLegのポチェッティーノの采配は冴え渡っていました。

第四章 Goodケースまとめ&僕の考える弱点

ではここで3つの紹介したGoodケースをまとめます。

・攻守両面で相手をしっかり分析してポイントを突く戦術を用意してきている。
・カオスだったり偽SBだったり、とても多彩な戦術レパートリーがある。
・的確にその選手が生きるポジションに起用している。

しかし、ポチェッティーノは、このような試合ばかりではなく、結構失敗している試合もあるんです。その失敗しているBadケースを次章から紹介していきます。

第五章 Badケース① 18-19UCL QF2ndLeg vsMシティ

ではここからポチェッティーノの用意してきた対策が外れたBadケースを紹介します。①はチャンピオンズリーグ準々決勝の2ndLegMシティ戦です。

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この試合のシステムは4-3-1-2。ロリス、トリッピア―、トビー(アルデルヴァイレルド)、ヴェルトンゲン、ローズ、シソコ、ワニャマ、アリ、エリクセン、モウラ、ソンの11人です。

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4-3-1-2で自陣にブロックをセットしてから攻撃的プレッシング。トップ下のエリクセンがACをマンツーマンで消し、2CB,3MF+1トップ下,2CFの8人の密度で中央を閉めてシティをサイドに誘導。

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そしてサイドに誘導すると、3MFがスライドし、シソコ(IH)がSBに対応。アンカーのワニャマはライン間IRにポジショニングするIHをマークします。SBがWGを掴み、サイドに追い込んでからマンツーマンで選択肢を奪う、という守備戦術でした。

しかし、この守備戦術はあまり機能せず、シティに攻略法を見つけられてしまいます。それが↓

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上図のように、スライドしてライン間IRの相手IHをマークするワニャマとボールと逆側のIHとのギャップをCF(アグエロ)に下りることで使われ、サイドでの追い込みの包囲網を突破されていました。実際、スライドしたアリとワニャマのギャップでCFに受けられたところを起点に1失点を喫していて、ワニャマの左IH(Dシルバ)へのマークが緩くてパスを受けられ、そこからライン間で浮いたCFに通って逆サイドに展開されて2失点目を喫しています。

CF(アグエロ)の下りて行くプレーは十分スカウティングで把握出来ていたはずなのですがCBが食いつくわけでもなく、CFに対する対策はありませんでした。

というように3MFのギャップをシティに見事に突かれて失点も喫していますので、この4-3-1-2戦術は外れたと言えます。

第五章 Badケース② 18-19UCL SF1stLeg vsアヤックス

続いてアヤックスとの準決勝の1stLeg、0-1で敗れた試合の守備戦術をピックアップします。

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トッテナムはスタートは5-3-2。ロリス、トビー(アルデルヴァイレルド)、ヴェルトンゲン、ローズ、トリッピア―、ワニャマ、エリクセン、アリ、ルーカス、Fジョレンテの11人。

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5バックで、アヤックスの二列目3人+CFの4人をマークして、SBにパスが出たら3センターがスライドし、IHが対応します。

この守備で生じていた弱点、アヤックスに突かれたポイントはこちら↓

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IHがスライドした時に、IHとアンカーの間が空-くのですが、アンカーのワニャマに「ボール側のボランチをマークする」というタスクが与えられていなかったので、その間のスペースでアヤックスのボランチにパスをフリーで受けられ、ライン間に繋がれてしまっていました。

その後、ヴェルトンゲンが負傷し、交代せざるを得なくなったところでDFではなくシソコを投入したためシステムを変更。よってこのシステムで守備をすることは無くなったのですが、もしもヴェルトンゲンが負傷せず、早い段階での選手交代のタイミングを失っていたら、1失点じゃ済まなかったかもしれません。そうすると、2ndLegでの大逆転も考えられませんからもしかするとポチェッティーノのこの戦術が批判されていたのかもしれません。モウラに感謝ですね。

第六章 Badケース③  19-20 プレミア第1節  vsアストン・ヴィラ

最後に紹介するのは直近のプレミアリーグ開幕節、ホームでのアストン・ヴィラ戦の攻撃戦術です。

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まずスタメンはロリス、カイル・ウォーカー・ピータース略してKWP、トビー、Dサンチェス、ローズ、シソコ、ウィンクス、ンドンベレ、ラメラ、モウラ、ケインの11人で4-3-2-1のクリスマスツリー型システムです。

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自陣にドン引きのアストン・ヴィラに対してSBが幅を取り、2CB+ウィンクスでビルドアップし、理由はわかりませんがケインとモウラはポジションを交換していて、ケインが左シャドーの立ち位置を取っていました。

ではどのようなパフォーマンスを見せたのか。

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アストン・ヴィラは3MFが徹底してライン間を消していました。それに対してスパーズは、その消されているライン間に中央から進入しよう、というプレーを見せることは無かったので、自動的にサイドから攻撃することになります。

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相手がドン引きですので2CB+ウィンクスはフリーで時間的余裕がある中でボールを持てますので幅を取っているSBにボールを送ることは出来ていました。

しかし、幅を取ってもSBに対してアストン・ヴィラはSHが下がって対応しますので、ライン間IRのスペースが広がりませんでした。そしてライン間IRにポジショニングするシャドーの選手のIRランといった工夫も見られず。中央はダメだし、サイドからブロックに進入する手段を持っていない。なのでどこからもブロックに進入して崩すことは出来ず、ずっとボールを保持しながらも停滞が続きました。そしてその展開ゆえに選手たちがストレスを溜め、ジャッジに対してイライラしている様子も頻繁に見られました。

相手の4バックに対してCF+2シャドー+2SBの5トップを当てることで数的優位を獲得し、幅を使ったところからIRを広げて攻略、というイメージだったのかなと思うんですが、想像以上にアストン・ヴィラが集中力高く人数をかけて守備をしていたので思い通りにいかなかった、という流れだったのでしょうか。

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ですが後半、最初は4-4-2にシステムを変更し、64分にエリクセンをウィンクスに代えて投入してエリクセンがトップ下の4-2-3-1。

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そしてアストン・ヴィラの集中力が段々と切れはじめ、ボールに食いつくようになったことと重なってエリクセンがギャップに顔を出してパスを受け、前線のアタッカーを後方をリンクさせたことで攻勢を強め、終盤の3ゴールを奪っての逆転勝利になりました。

第七章 結論:ポチェッティーノの弱点とは何か?

ではまとめに入ります。GoodケースとBadケースに分けて合計6つのポチェッティーノの準備した戦術を紹介しましたが、Goodケースで見たようにポチェッティーノは様々なレパートリーの戦術を相手によって使い分ける手腕の持ち主なのですが、Badケースを見てみるとどうでしょう。共通点が見つかります。「ファーストプランが失敗している」ということです。

Badケース①のシティ戦2ndLegでは、4-3-1-2守備戦術の弱点をシティに突かれながらも4-4-2守備と使い分けたりして打ち合いを何とか制すことが出来ました。②のアヤックス戦1stLegでも5-3-2守備戦術があまり機能していませんでしたが、ヴェルトンゲンの負傷で交代のタイミングがあり、そこでシステムを変更したことで攻めまくったわけではありませんでしたが改善されました。そして③のアストン・ヴィラ戦でも前半の4-3-2-1は全く機能しませんでしたが後半4-2-3-1にしてエリクセンを投入したことで逆転勝利。

修正によって何とかなっているとはいえ恐らく試合前からトレーニングで落とし込んできたであろう「ファーストプラン」が全部が全部ではありませんが外れていて、機能していない試合がまあまあ見られる。実際シティ戦も負けて全くおかしくない試合ですしアヤックス戦も2ndLegでモウラのハットトリックがあったから2戦合計で上回ったわけで。両方敗退していてもおかしくないんですよね。アストン・ヴィラ戦でもエリクセン様様。

戦術家のポチェッティーノですから意外ですが、戦術面に危うい部分があります。でもトッテナムは面白いサッカーしますし試合を見たくなるチームですけど。

第八章 ポチェッティーノ最強説を唱える

最後に、僕が最近考えているポチェッティーノ最強説を唱えます。奇説であることをご了承ください笑。

七章までで、ポチェッティーノは非常に戦術的な手腕に長けている監督でありながらも、ファーストプランを外している試合が結構ある、ということを書いてきました。

しかし、僕自身もあまりポチェッティーノほどの戦術家が結構戦術面で失敗している試合がある、というのは信じづらいところです。

そこで僕は思いつきました。この説が本当なら、ポチェッティーノは世界で最強の監督だなと。その説とは...

ポチェッティーノ、前半わざと失敗して後半に修正することで様変わりして勝とうとしてる説

です。

ポチェッティーノほどの戦術家が何度もファーストプラン失敗するとは思えないから、わざと前半のファーストプランは失敗しておいて、後半に修正して水を得た魚のように様変わりして勢いの乗っけて勝とうとしてるんじゃないか、つまりポチェッティーノは最強の戦略家でもあるんじゃないか、という説です。

ポチェッティーノは世界最強なのだろうか。世界を征服してしまうんだろうか。ぜひあなたの目に焼き付けてもらいたい。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!リクエストがあればツイッター(@soccer39tactics)のコメント、DM、下のコメントにでもお書きください。

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