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〈08〉夏草バスターズ/刈っても、抜いても、すぐに再生する強敵とのエンドレスな闘い

小さな庭付きのマンションに住んでいた頃も、夏の雑草取りは大変な作業だった。しかし一戸建てに移り、しかも急な崖の上の家となると、夏草を刈る作業は半端なく重労働になった。夫は混合オイルで作動するエンジン式の草刈機を買い、農家のようないでたちで雑草と格闘する。ゴーグルをつけ、機械を腰に留めるバンドを付けた姿を見て、隣人は「天空の城ラピュタみたい」と言っていた。

私は草刈機など扱えるわけもなく、気が向いたときだけ軍手をはめてしゃがみこみ、1本ずつ手でひき抜く。夏草は茎も根もたくましいから、腰を入れてウンと踏ん張らないと負けてしまう。私のヘロヘロの根性を見透かしたかのように、いくら引っ張っても葉っぱが千切れるだけで、夏草はガンとして土から動こうとしない。が、運よく雨で土が柔らかくなっていると、根っこからスポッと抜けたりする。これが快感!タンポポとか長い根っこの先の先まで標本のようにキレイに引き抜けると、嬉しくて、次々に引き抜く。それでもやっと自分の周囲の雑草が間引かれた程度で、立ち上がると永遠にも思える夏草の茂みが残っている。

亡くなった母が認知症になったとき、返事に困るような場に置かれると急に外へ出て、独りで雑草を抜いていた。彼女は頭がクリアなときに「草取りはスポッと抜けるのが気持ちいい」と言っていたから、私もその血を継いでいるのだろう。近い将来、もしも私が認知症になったら、泣きながら庭で草を抜いているかもしれない。夫よ、部屋からいなくなったときは雑草の中を探してくれ。

お盆休みに入った夫はその夏草と格闘している。チャッリ〜ン、シャリシャリッという草刈機の軽快な音を、クーラーの効いた涼しい部屋で聞くのは、申し訳ないが心地よい。キレイに刈られた庭を窓越しに見るのも好きだ。台風が近づいて明日は雨らしい。夫はきょうのうちに気の済むまで刈る気でいる。水筒の麦茶がなくなるまで、がんばれ、夏草バスターズ!





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