見出し画像

発刊順:89 復讐の女神

発刊順:89(1971年) 復讐の女神/乾信一郎訳

いつものように《タイムズ》の死亡欄を読んでいたミス・マープルはふと目をとめた ― ジェースン・ラフィール。かつて事件の解決に手を貸してくれた大富豪だ。一週間後、思いがけずそのラフィール氏からの遺言状が届いた。彼女を<復讐の女神>と見込んで犯罪の捜査をしてもらいたいというのだ。だが、何が起こったかが全然書かれていない。事件そのものがわからないという五里霧中の状態のまま、第2の指令どおり名園巡りの旅に出かけたミス・マープルはついに悪のにおいを嗅ぎつける……『カリブ海の秘密』の続編にあたる女史晩年の意欲作!

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

「カリブ海の秘密」に出てきたラフィール老人。故人となった今作で、死去した後にマープルに謎を残す。その謎を探るため、マープルは少ない情報を元に行動を起こすのだが、前半はまるでクリスティーの創作ノートのようだ。人物の名前があって、キャラ設定はこうでどういう行動を取るのか・・・ということをマープルがツアーに同行する人物一人一人に当てはめて考える。(ツアーに参加している人数もたくさんいて、混迷極まりない)
 
「ナイルに死す」のように、登場人物達の会話やエピソードで読ませていく手法ではないので、あまり楽しくない。
 
いったい「何を」解決するのかが、はっきりしない状況で話が進み、少しずつ故ラフィール氏に誘導されていくのだが、「ヒントもなしにクロスワードを解けというようなものだ」とマープルはひとりごちる。
マープルは要点を書き出す。

要点1、指示がわたしに与えられるにちがいない。死者からの指示である。
要点2、わたしに関係していることは、正義である。不正を正すことなのか、それとも悪に報復して正義をもたらすことなのか。このことはラフィール氏からわたしに与えられた合言葉の“ネメシス”(復讐の女神)と一致する。

庭園巡りのツアーに参加していたマープルは、ある3姉妹に招待されてツアーから離れて3姉妹の住む屋敷へ赴く。それも、ラフィール氏が仕組んでいたのだが、そこでとうとう重大な謎の発端に突き当たる。
それは、ラフィール氏の不肖の息子マイケルに関することだった。
マイケルは3姉妹がとても可愛がっていたヴェリティ・ハントという美しい娘を無残にも殺害した犯人なのか?
ヴェリティは「真実」を意味するのだ。
 
復讐の女神ネメシスと化したマープルによって、隠されていた真実を暴き、正義によって正される。悪を見抜く勘を持ったマープルを見込んだラフィール氏の勝利となった。

事件を解明したマープルは、ラフィール氏の遺産から2万ポンドを受け取る。運用や貯蓄や慈善事業への献金ではなく、

「わたしはそのお金が使いたいのですよ。それでひとつおもしろいことがしたいんです。
ラフィールさんは、わたしにおもしろ楽しくしてもらいたかったのだと思いますよ」

と言うマープルがとてもいい。
故人の志を無駄にすることなく、楽しみに使い切るマープルの楽しんでいる姿が目に浮かびます。
 
本書は、実際上クリスティーが書いた最後のミス・マープルものになる。
『カリブ海の秘密』と本書ともう1冊で三部作として、タイトルも「Woman‘s Realm」(女の領分)と決まっていたらしいと、ハヤカワ・ミステリ文庫の解説には書いてあるが、霜月蒼氏の「アガサ・クリスティー完全攻略」によると、それははっきりしない話であるようです。


HM1-52 昭和61年5月第17刷版
2023年8月24日読了


 

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?