発刊順:89 復讐の女神
発刊順:89(1971年) 復讐の女神/乾信一郎訳
「カリブ海の秘密」に出てきたラフィール老人。故人となった今作で、死去した後にマープルに謎を残す。その謎を探るため、マープルは少ない情報を元に行動を起こすのだが、前半はまるでクリスティーの創作ノートのようだ。人物の名前があって、キャラ設定はこうでどういう行動を取るのか・・・ということをマープルがツアーに同行する人物一人一人に当てはめて考える。(ツアーに参加している人数もたくさんいて、混迷極まりない)
「ナイルに死す」のように、登場人物達の会話やエピソードで読ませていく手法ではないので、あまり楽しくない。
いったい「何を」解決するのかが、はっきりしない状況で話が進み、少しずつ故ラフィール氏に誘導されていくのだが、「ヒントもなしにクロスワードを解けというようなものだ」とマープルはひとりごちる。
マープルは要点を書き出す。
庭園巡りのツアーに参加していたマープルは、ある3姉妹に招待されてツアーから離れて3姉妹の住む屋敷へ赴く。それも、ラフィール氏が仕組んでいたのだが、そこでとうとう重大な謎の発端に突き当たる。
それは、ラフィール氏の不肖の息子マイケルに関することだった。
マイケルは3姉妹がとても可愛がっていたヴェリティ・ハントという美しい娘を無残にも殺害した犯人なのか?
ヴェリティは「真実」を意味するのだ。
復讐の女神と化したマープルによって、隠されていた真実を暴き、正義によって正される。悪を見抜く勘を持ったマープルを見込んだラフィール氏の勝利となった。
事件を解明したマープルは、ラフィール氏の遺産から2万ポンドを受け取る。運用や貯蓄や慈善事業への献金ではなく、
と言うマープルがとてもいい。
故人の志を無駄にすることなく、楽しみに使い切るマープルの楽しんでいる姿が目に浮かびます。
本書は、実際上クリスティーが書いた最後のミス・マープルものになる。
『カリブ海の秘密』と本書ともう1冊で三部作として、タイトルも「Woman‘s Realm」(女の領分)と決まっていたらしいと、ハヤカワ・ミステリ文庫の解説には書いてあるが、霜月蒼氏の「アガサ・クリスティー完全攻略」によると、それははっきりしない話であるようです。
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