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発刊順:65 ポケットにライ麦を

発刊順:65(1953年) ポケットにライ麦を/宇野利泰訳

ニール警部は、突然奇妙な節をつけて童謡を唄い出したミス・マープルを呆気にとられて見つめた。“ポケットに/ライ麦を/詰めて歌うは/街の唄・・・” 符号している。投資信託会社社長のフォテスキューの死と妙に符号しているのだ!彼の命を奪ったのが、自宅の庭に植えてあるイチイの実の毒であることから、警察は容疑者を家庭内の人間に絞った。欲の絡んだ骨肉の争いに違いない―そして第二、第三の連続殺人はまさにマープルの口ずさんだ唄そのものだった。

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

ポケットにライ麦を 詰めて歌うは街の唄
つぐみを24パイに焼き 切って差出しゃ鳴きいだす
お城料理のすばらしさ 王様お庫で宝をかぞえ
女王は広間でパンに蜂蜜 
若い腰元庭へ出て 乾しに並べたお召しもの
そこへ小鳥が飛んできて 可愛いお鼻を突っついた

最初に起こった殺人は、投資信託会社の社長フォテスキュー。社長=王様は、お庫→会社で宝を数え・・・
死んだ時に着ていたスーツのポケットに「ライ麦」が入っていた。
 
2番目の殺人はフォテスキューの若き後妻、アディール。邸の客間でお茶を飲んでいて毒殺される。
 
若い腰元は、フォテスキュー家の小間使い、グラッディス。ナイロンの靴下で首を絞められて洗濯物干乾し場で発見され、「小鳥が飛んできて 可愛いお鼻を突っついた」を模したように洗濯ばさみで鼻をはさんであった。
 
マザー・グースの調べにそって、事件は起こる。
まだ誰もそのことに気がつかない時に、ミス・マープルがニール警部に「つぐみをご調査なさるのが一番いい」と告げる。
 
小間使いグラッディスは17歳の時に、マープルが行儀見習いを一通り教え込み、奉公に出した孤児の娘。
マープルは新聞で訃報を聞いて居ても立っても居られない気持ちで、フォテスキュー家に乗り込んできたのだ。

「あの子の死体は、鼻を洗濯挟みでつまんであったそうじゃありませんか!」
話しているうちにも、ミス・マープルの頬には、怒りの血がのぼってきた。
「それが、わたしには腹が立ってならないのです。こんな残酷な侮辱ってありますか!人間をこんな風に軽蔑するなんて、おそろしいことだと思いませんか」

マープルの心は、知り合いの娘グラッディスへの深い同情心と犯罪への怒りで燃えているのだ。
 
ニール警部の捜査の状況を追って物語は進んで行き、「つぐみ」の謎もわかるのだが、なかなか真犯人に辿りつけない。
ミス・マープルは、邸の中で関係者とお喋りをしながら、人間性の深い理解と経験値そしていつものように物事をありのままに視て閃く直感とで犯人に到達し、ニール警部に進言する。
 
第1と第2の殺人は、クリスティーが得意とする毒殺で、いちいの木の実がタキシンという毒になるなどあまり知られていない毒物について、とても詳しく書かれている。
 
今まで読んだマープルものは、どちらかというと少しおどおどして余計なことをいいがちなおばあちゃんの印象だったが、今作はそういった描写が少なく、物語の展開も淀みなくて面白かった。

HM1-17 昭和56年12月 第13刷版
2023年4月14日読了

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