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今夜はポテサラの話をしよう

食べかけのポテサラ画像で失礼する。なにしろポテサラを食べている途中にはっと思いついてしまったのだから仕方がない。ポテサラの多様性について。

夜、お腹が空いたので冷凍しておいた餃子を焼こうと共有キッチンへ向かった。既に3つ隣の部屋のお姉様(以降、ミス甘酒と呼ぶ。前に甘酒をくれたから。)が先に晩御飯を作っていて、手元にはステンレスボールに入ったふかふかのポテトサラダ。思わず「うわ、美味しそう」と心の声が漏れ出る。


ポテトサラダを見てふと思い出したことがある。以前noteでも紹介したことがある「死ぬと言わないおばあちゃん」のポテサラだ。おばあちゃんのポテサラはベーシックでありながら革新的な要素を外さない。最後に食べた時のポテサラにはマーマレードが入っていた。言われないと気が付かない程度だが、確かにほんのり柑橘系の甘さが加わって、女帝(家族はおばあちゃんのことを陰でこう呼んでいる)に相応しい高貴な味わいがした。ポテサラで高貴って、スニーカーで革製くらい結びつかない気もするけれど。

極めて庶民的な、国民の愛犬的な、公園の地球儀的なポップな料理、それがポテサラだ。異論は認める。
比較的簡単でありふれた料理にこそ作り手のこだわりが反映されるように思うが、ポテサラも例外ではない。玉ねぎを入れるか、きゅうりは薄切りか、果物は合わせるか、ハムかベーコンか、じゃがいもは形を残すか。具材の組み合わせだけでも無限通りあるが、極め付けはポテサラの調味料だ。マヨネーズや胡椒はどのくらいの量か、隠し味には醤油かマスタードか柚子胡椒か、いっそのことカレー風味にしてしまうか。

誰かのこだわりに触れるのはどの分野においても楽しいものだが、ポテサラには格別の楽しさがある。その人の趣向を丸かじりできてしまうのだ。
気になったので、ポテサラに黒胡椒をかけて仕上げをしていたミス甘酒に思いきって聞いてみた。ポテサラには何を入れるのが好きで、調味料は何を使うか?
はにかみながらスルスルと答えてくれた。

「醤油を少し入れるかな。あと粒マスタード。普通のじゃなくて粒のやつね。黒胡椒はたくさん。卵をピクルスにしておくと酸味が増して美味しいのよ。それとハムでなくて絶対にベーコンね。」

むふふ、と心の中でガッツポーズ。やはり、ポテサラ的偏愛があった。あと本人は言ってなかったけど、玉ねぎとベーコンは炒めてから混ぜ合わせるようだった。玉ねぎのくさみが消え、ベーコンの燻製の香りが引き立って大人な味わいになる。これも彼女の半無意識的なポテサラへのこだわりの一つだろう。

家で作るポテサラはこんな具合にして、ある一定の枠に収まりつつもそれぞれの個性が穏やかに滲み出る。一方で、お店で出会うポテサラは時にエキセントリックで、枠から飛び出し自由奔放に振る舞う場合が多い。印象深いポテサラの一つに「いぶりがっことクリームチーズのポテサラ」がある。これには度肝を抜いた。そんなポテサラありか。ポテサラとして認められるギリギリのところを攻めているが確かにそれは紛れもなくポテサラであり、愛されうる全ての条件を兼ね備えていた。

ちなみにポテサラは、ポテサラとして誕生した後も様々な道を歩む。食パンに挟まれたり、オーブンで焼かれたり、アボカドに詰められたり、卵で巻かれたり。あまりに多様である。一つ一つ検証していきたいところだが、ポテサラを突きつめると時間が溶けてしまいそうなのでこの辺にしておく。


物欲しそうな顔をしているのがバレたのか、作りすぎたからという愛でしかない言い訳をしてお姉様がポテサラを分けてくれた。自立した生活を送るミス甘酒の作るポテサラは、広い優しさの中に力強さあがあり、確かな未来を語っていた。



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