見出し画像

「寂しくて絵が描けない人への処方箋」

旅する漫画家シミです(@tabisurumangaka)

このマガジンは芸歴十年の僕が絵を描く上でぶつかってきた「描きたくない」「描く気がしない」というアート・ブロックとどう向き合ってきたのかを、経験則をもとに書くマガジンとなっております。「描く気がどうしても湧いてこない…」そんな悩みを抱えている方のお役にちょっとでも立てれば幸いです。

今回は「寂しくて絵が描けない」症状について僕なりの対処法をお話ししていきます。実体験ベースなので個人的な話になってしまうかもしれません。


クリエイターが寂しさを感じるのは自然のこと

画像1

僕のようにフリーランスの個人で創作活動をされている人の場合、一人で何かを創ることが多く、黙々と作業をすることが多いのではないでしょうか?
楽しい時は没頭して作業できているのに、小さなことでつまずいてしまったり、自分の思うように成果が出せなかったりした時に孤独や寂しさを感じやすいように思えます。
たとえば「自分が一人で落ち込んでいる時にたまたま開いたSNSで友達が仲間と一緒に楽しそうに過ごしている写真を見てしまった」そんなシチュエーションです。ネガティヴになった時、周りに誰かがいないと孤独を感じがちです。
「もしかしたら、自分はこのままずっと一人かもしれない…」
そう考えることもあるでしょう。

これがTwitterやインスタで何千、何万人もフォロワーがいて、コミュニケーションが活発に行われている人であれば、孤独は感じないかもしれません。きっと「画面の向こうには自分の作品を見てくれている人がいるんだ」という自己肯定感を持っていることでしょう。それが創作の励みにもなるでしょう。

もちろん全ての人がオンライン上で多くの人たちから暖かい声援を受け、コミュニケーションを活発にしているわけではありません。僕だって同じです。絵を描いているといまだに孤独を感じることもあります。「自分の作品なんて誰も見てくれていないんじゃないか?」と思うことさえあります。

絵は描かないと上手くなれない。創作しない自分に価値なんてない。頑張って創作すればするほど孤独になっていく。そんな負のスパイラル。自分はこのまま誰とも繋がることなくずっと一人なのだろうか?うう…、寂しい…。もう絵なんて描けない…。


クリエイターの抱える孤独というのは時代を通して誰もが感じてきたことです。先ほども書きましたが創作活動の大半は一人で行うものです(もちろんチームで作品を作ることもありますが、ここでは個人で創作することについてふれています)。商業誌で連載される漫画家さんはアシスタントがいますが、いちばんはじめの物語を立ち上げるのは作家一人の仕事ですよね。Twitterなんか見ていても、メンタルをやられている作家さんを時折見かけます。

創作にある程度の孤独はつきものだと僕は思います。
孤独をバネにして創作活動に打ち込むからこそ作品に時間を注ぐことができ、良い作品ができる場合もあるでしょう。
ですが、孤独は心を蝕んでいきます。体が動くから健康というわけではありません。「メンタルヘルス」という言葉があるように、心も健やかに保つことができなければ良い作品は生まれません。無理して創作を続けた結果、時間差で心身に影響が出るなんてこともあります。

僕がロールモデルとしている村上春樹は

「物語を創ることは自分の内にある毒を処理することでもある。その毒を処理するために強い体と心が必要だ」

と書いています。彼は30歳から作家活動をスタートしました。同時にランニングを始めて体づくりも始めたそうです。それまで吸っていたタバコも作家活動とともにピタリとやめてしまいました。毎年一回はフルマラソンを走る作家として有名で、一時期はトライアスロンなどもやっていました。

もちろんアーティストの中には自分の心の闇を作品に昇華する人ともいるでしょう。自分のネガティヴな心に耐えうる精神を持っているのであればそれも可能だと思います。それはごく一部の限られた人間です。下手に真似をするとネガティヴの坂を転げ落ちてしまいます。

かく言う僕も有名なアーティストの真似をしたばかりに生活リズムが崩壊していたこともありました。「漫画を描くのであれば夜!徹夜だってするぞ!」と、一日の半分以上を自分の部屋で過ごし、寝る時間は夜明け前なんてことがしょっちゅう。「睡眠時間」なんて言葉を全く無視していた時期もありました。睡眠の質も悪く、気持ちもどこか鬱っぽくなっていきました。孤独を感じたのはまさにそんな時でした。


人間は群れで生きてきた

ネット上ではコミュニケーションが活発でもリアルで人と接する機会がないとだんだん気持ちが暗くなってしまうのは当然のことだとです。なぜなら人間は大昔から群れで生活してきた生き物だったからです。

今のように文明が発達する前は違いました。群れでいた方が生存確率が高かったのです。獲物を狩るにしても、何かを育てるにしても一人より複数の人間でやった方が狩の確率も上がるし、収穫できる量も増えます。一万年続いたとされる縄文時代では子育ても一人の親がするのではなく、相互に助け合い行っていたのではないかとも言われています。

「一匹狼」という言葉がありますが、人間が一人で生きていくなんて無理な話です。どんなに自分が一人で頑張っていると思っていても、そこにはなんらかの人の助けがあります。インフラが最たる例でしょう。水道や電気はもちろんのこと、野菜などの食べ物を作ってくれる生産者の方々もいますし、そしてそれをサポートする物流だってあります。これらのインフラのおかげで、社会システムのおかげで僕たちの生活が成り立っているのです。僕が文章を書いてあなたに届けることができるのも目には見えない数多くの人の力があってこそです。

僕が言いたいのは「人は他の人間と関わり合いがないと孤独を感じるのは当然」であり、「現代において完璧な孤独というものはありえない」ということです。だからもしあなたが孤独を抱えていて、創作活動に気持ちが向かないのであればそれは自然な心の反応です。ご心配なさらずに。



▷▷▷▷処方箋◁◁◁

1:人と会う

画像2

いちばんはじめに書くのはとても当たり前のことです。

人と会っていないために孤独を感じるのであれば人と会えばいい。今ならスマートフォンひとつで友達に連絡が取ることができます。FacebookやLINEを開いて友達に「飲みにいかないか?」と誘って、近所のバーに行ってコークハイボールでも飲みながらくだらない話をする。それだけで大丈夫です。

飲みに行く友達がいなくなって、馴染みのバーがあればいいと思います。良いバーというのは初対面であってもお客さん同士で話すことのできるバーです。僕の地元の神奈川県にある「Chit Chat」というバーはまさにそうでした。頻繁にライブがあり、常にスピーカーからお洒落な音楽が流れる。一人で行ってもマスターと話せる。そんなお店です。

もちろんお酒を飲まなくたって大丈夫です。人と会って話せる場所やイベントを探してみましょう。それを探すこと自体が楽しくなってくるかもしれませんよ?


2:オンラインで話す

画像3

外に出れないことだってありますし、話す相手が近くにいないことだってあります。

そんな時はLINEやZOOM、Facebookのメッセンジャー、なんだっていい。相手の顔を見て話すだけでも孤独を癒す効果はあります。

「ちょっと電話しようぜ?」「最近どうなの?」なんて些細な会話でいいんです。今のあなたに必要なのはまさにそれなのですから。

自作のキャンピングカー「モバイルハウス」で旅をしているからといっても一人の時間というのもあります。不思議なもので画面越しに相手の顔を見るだけちょっと安心感があるんですよね。知り合いのインスタライブとかでも気持ちが和らぐこともありました。メッセージやコメントでインタラクティブ(相互的)なやりとりが発生するとより良いと思います。トム・ハンクス主演の「キャスト・アウェイ」にもココナッツに顔を描いて話しい相手を作るシーンが出てきました。

大事なのは誰かとコミュニケーションをとることなのです。

ですが、「イマジナリー・フレンド(想像上の友達)」を作ることはおすすめしません。ちょっと見た目的にアブなく見えてしまうので。現実世界の血の通った人間とお喋りすることを僕はお勧めします。
(僕も落ちていた時はLINEの「りんな」ちゃん(※AI女子高生。秒で返信してくれる)に話しかけていた時期もありましたけどね…)


3:音声コンテンツを聴く

画像4

「そもそも友達がいない!」
創作活動に専念するばかりにコミュニケーション能力が衰え、人付き合いも苦手になってしまった方も中にはおられるでしょう。

っていうか僕がそうでした!

創作に専念するばかりに会話をすることがほとんどなくなり、「あれ?久々に言葉を発した?今日「ダルい」しか言ってない⁈」なんてこともありました。発語能力も落ちていき、久しぶりに人と顔を合わせると目を見て喋れない。っていうか、太陽眩しくない?そんなモグラ状態!ちょっとそこまでいくと人間としていろいろとヤバイのでまずは生活そのものの見直しを考えましょう!ちゃんと野菜食べて!よく寝て!太陽の光浴びて!!

世の中には夜型が快適な人も存在します。遺伝的に一定の割合で夜が活発な人もいるそうです。バーのマスターなんてそうですよね。完全夜型。でも、その夜型を実践した上でメンタルに支障をきたしているのであれば見直しが必要です。

話しが実体験に基づいているため逸れてしまいましたが、孤独を紛らわす方法は他にもあります。人と会えない、会う人がいない。そんな状況で助けになるのが音声コンテンツです。それはラジオだったり、ポッドキャストだったり、YouTubeだったり。人が話しているのを聞くだけでも効果があります。

そんなわけで今回は僕がお勧めする音声コンテンツをいくつかご紹介します。


「コテンラジオ」

飛ぶ鳥を落とす勢いで広まる人気ラジオ番組。

歴史の偉人をメインパーソナリティーの深井龍之介さんが分かりやすく、かつ面白く紹介してくれる番組です。同じく出演されているヤンヤンさんと樋口さんの掛け合いも絶妙!音声的にも聞きやすく、こだわりを感じます。

今回は僕がいちばん大好きな「ガンディー回」の動画を貼っておきました。インド建国の父としてインドルピーに印刷されているガンディーも若い頃はダメダメだったんだよ?ってお話。これを聞くだけでも勇気づけられると思います。

ちなみに僕は今回の旅で福岡の田川にある収録現場「いいかねパレット」にお邪魔して漫画を献本させていただきました。樋口さん、ヤンヤンさん、その説は大変お世話になりました。


「最高の飲み会がしたい」

サムネに釣られて聞いていたらハマってしまったラジオ番組。Spotifyのリンクを貼っていますが、Radiotalkをメインに配信しているみたいです。

内容はこみやまよもさんという方の恋愛や価値観、就活体験談、新入社員としての悩みなどを語る番組。ちょっとキツいところもありますが、僕は好きです。「みんな悩んでいるんだなぁ」と思わせてくれる内容が多いです。

「生きるの大変のは僕だけじゃないんだな」
そう共感するだけで心が軽くなりました。


「生活冒険家」

最後に紹介するのは僕の友達のYouTube番組です。最近登録者数1,000人を突破しました。

1トントラックにモバイルハウスを作り日本を旅した生活冒険家ナルくんが、モバイルハウスを作ったり、コーラ作りをしてみたり、江戸の暮らしを紹介してみたりしています。

現在は神奈川県藤野の限界集落で村づくり中です!リアルな活動重視。モバイルハウスに興味のある方はぜひ見てみてくださいね。


おわりに

「創作にまつわる孤独」について書いていたら前回の2倍くらいの文章量になってしまいました。書こうと思えばもっと書けると思いますが、サクッと読めるくらいの分量がいいですよね。

「孤独」と書くと重く聞こえますが、寂しくなるのは当然のことでいまだに僕も製作中に人恋しさを感じることもあります。

勘違いしないでほしいのは孤独も悪いことだけではないということです。集中できるし効率も上がる。余計なノイズが入ってこない。僕は嫌いじゃありません。

ですが「〜し過ぎ」というのはどんな場面においても体に毒なのです。
食べすぎ、飲み過ぎ、ゲームのし過ぎ(目の酷使)、座りっぱなし、etc…。
「一人になり過ぎ」だって同じです。

コロラドの山奥で五十年も一人っきりで暮らすおじいさんの話を聞いたことがあります。人間、一人で生き抜くことができる強靭な心を持った人もいるみたいですよ。彼は心を健全に保つルールを自分に設けているみたいです。

製作にうちこむばかりについつい自分の心にちゃんと耳を傾けるのを忘れがちですが、健康な心と体あってこその創作ですよ。あなたが楽しく健全な創作ライフを送れることを願っております!

それでは今回はこの辺で!

画像5

北海道より。

現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。