「水上の町、カンポンチュナン」
世界一周83日目(9/19)
「これでプノンペンともお別れだ」
僕はプノンペンに戻ってきていた。間違えて行ってしまったカンポンチャンを一日の滞在で切り上げ、前回と一緒のCapital guest houseに一泊した。次なる目的地はこんどこそFloating Villageのあるカンポンチュナンだ。
朝七時のバタンバグ行きのバスに僕は乗り込んだ。
ちなみに「カンポンチュナン行き」というバスは存在しないようだ。運転手に言って途中で降ろしてもらう。どうりで直通バスがないわけだ。
停留所の近くでカンボジア人と(自称)ロシア人(僕にはそんな風に見えなかったんだけど)と言うおじいちゃん2人に話しかけられた。
たどたどしい英語で「どこの国の出身か?」「どこへ行くのか?」など簡単な質問をされた。2人ともプノンペン在住らしく、(自称)ロシア人のじいちゃんは友達を見送りに来ているらしい。彼らを見ていると二人は親友のような印象を受けた。
バスが到着し自分の座席に着くと偶然にもさっき話したじいちゃんは僕の隣の席だった。おじいちゃんの名前はウッダリさんと言った。64歳のひょろ長いおじいさんだ。
退職し隠遁生活を送っているようだ。警察官の息子さんが二人いる。長男が25歳ということもあって、「お前さんはワシの息子の様なもんだよ」と言っていた。面白い人だ。
ウッダリさんは話しかけてくる時にいちいち僕を小突いてくる。英語がそこまで得意ではないせいか、前歯がないせいなのか、歳のせいなの、かかすれ気味の聞き取りづらい英語でウッダリさんが何を言っているのかほぼ理解できない。
朝が早かったせいもあり、バスの中では爆睡だった。日本から持ってきた無印良品の首枕(空気を入れるタイプ)はバスでの移動では大活躍だ。
プノンペン周辺の景色は大体見てきた。もったいないという気持ちは全くなく、何度もうたた寝を繰り返した。何度かバスの故障で途中で停まることがあったが、いつものように途中休憩でレストランに立ち寄る。
僕がタバコをふかしているとウッダリさんは「タバコは健康によくないぞ」と僕に注意してくれた。
親心か。なんだか国を越えた愛情を感じたよ。
「そろそろカンポンチュナンだぞ」と僕のことを小突いてウッダリさんは教えてくれた。バスの運転手も僕に降りるよう合図する。
バスを降りると「待ってました!」とばかりにバイタクのおっちゃんたちが僕のことを取り囲む。
気さくな感じで何度も声をかけてくるバイタクのおっちゃんたち。お仕事大変でしょう。分かってはいるが、彼らのアグレッシブな営業にうんざりする時もある。
「大丈夫。大丈夫。歩いて行けるから。安いゲストハウス探してるんだけどどこか知らない?」と僕はあえて訪ねてみた。バイタクを利用しないのにこう質問してしまうのは少々申し訳ない気もするが、教えてくれる方も教えてくれる方だ。
ドライバーのおっちゃんの一人は場所を教えてくれただけでなく「おれの後に着いてこい」とゲストハウスまで一緒についてきてくれた。そういうカンボジアの人たちの優しさだ。もちろんそのあとはいつものように商談に入る。おなじみの旅行者レビューノートを持って「おれがこの町を案内してやるよ!としつこく僕を誘ってくるのだ。僕はベトナムでボラれた話をして(いや、これけっこう効力あるんすよ)自分の手持ちがないことをアピールし、なんとかおっちゃんには引き下がってもらうことに成功した。
LY guest housseには4ドルの部屋があった。
広くてトイレもついている。欲を言えば、勉強机があって照明がもうちょい明るい方が良い。
僕は荷物を置いて目当ての「Floating Village」に行ってみることにした。
カンポンチュナンの中心地からおよそ1キロ。自転車でも借りようかなとレンタルサイクル屋に行ったのだが、
お店の人は英語が通じないばかりかデポジットだかよくわからないけど20ドルも要求してきたので僕は歩いて行くことにした。
いつもはツアーなどには参加せず、極力自分の足でいろいろな場所を巡る僕だったが今回はどうしてもボートに乗ってみたかった。ここで値段交渉が重要になってくる。バスが3〜5ドルということを考えると2〜3ドルでチャーターできないかな?
最初にボートに誘ってきたおばちゃんの言い値は8ドル。「いやいや高すぎっしょ!」と言っても5ドルまでしか値段は下がらなかった。僕が求めているのはそんなたいそうなもんじゃない。
地元の人が足として使っている様なボートに乗って、ぷらっと見てまわりたいだけなんだ。川沿いにいくつも家が建ち並び活気のある市場では魚が売られている。
ここでも子供たちはカメラに対して無邪気に笑顔を向けてくれる。可愛いヤツだ。チップを要求する様な大人にはならないでくれよ。
川沿いの道をはしっこまで進むと地元の人が利用するようなボートが何台か停まっていた。見た感じ安そうだ。
最初は5ドルだったが、1時間のチャーターで2ドルにまで値下げすることに成功した。初めてのボート。これひっくり返ったりしないよね?一眼レフとパスポートお金もけっこう入ってるし...最初、僕の腰はかなりひけてたと思う。
乗り場にいた人たちに見送られて僕のボートは出発した。
漕ぎ手は女のコだった。帽子とマスクで年齢はわからないけど、軽快にボートを濃いでいく。
値段交渉の時に側にいたにいちゃんが僕たちのことを追いかけてきた。「ヘイ!ミスター!」と気さくに声をかけて僕の乗っているボートと並走する。
水とともにある生活。
家がほんとうに水の上に建っているのだ。ボートがここに住む人たちの足で、水の上に暮らす事が日常なんだな。
子供たちは楽しそうにぷかぷか浮いて遊んでいる。
なんで彼らはここに住む事を決めたんだろう?
さっきから並走するボートが僕たちの水先案内人になったようだ。オススメの場所に連れて行ってくれるらしい。漕ぎ手の女のコも船をどこまで漕いだらいいのかわからなかったようで、素直に彼らの後に続いた。
兄ちゃんはイングリッシュネームをマイケルと言った。35歳っていうんだから驚きだ。その人好きする笑顔からは僕より若くも見えた。
「近くにおれの兄弟が住んでるんだ。行っていみるかい?」
マイケルの案内のもと、ボートは水草をかき分け進む。
到着した場所はお寺のようだった。
「これがおれのじーちゃんばーちゃんでこっちが兄弟。で、これが仏壇ねー。お祈りするときはこう。手を合わせて頭を下げて〜...」サクサク案内してくれるマイケル。
和やかな水上村の人々。やっぱりここに来てよかった。
そろそろ時間なので僕は引き返すことにした。
ここで分かったのが漕いでくれてたのは若い女のコだったってことだ。一生懸命ボートを漕いだり水草をかき分けたり、暑かったのだろう。マスクと帽子をはずした時に分かったのだ。
僕がパシャパシャ写真を撮っているとそれに合わせてボートのスピードも落としてくれたり、水上でガイドみたいなこともしてくれた。やっぱり2ドルじゃ安かったのかもなぁ...
チップ(現金)を渡すのも違う気がする。
ボート乗り場まで戻ると、僕は近くの売店でジュースを買ってその子に「ありがとう」とプレゼントした。
一瞬驚いた顔をして、すぐに顔がほころぶ。「サンキュー!」という一言が嬉しかった。
撮り終えた写真を宿で見返してみるとみんな良い笑顔をしていた。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。