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「イランで一番来たかった場所」

世界一周288日目(4/12)

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「ここで降りな」

とバスのあんちゃんに肩を叩かれた。

『ん?エスファハーンに着いたのか?』

日が昇っていないため、辺りはまだ夜のような暗さ。時刻は5時半。僕は言われるままにバスを降りた。頭が全然回らない。バスの中でよく眠れなかったみたいだ。バスから降りてくる乗客を待ち構えるタクシーの運転手たち。インドほどしつこくはないんだけど、「どうだ?どうだ?タクシー乗らないか?」という勧誘方法にはちょっと身構えてしまう。

「いや。大丈夫っす」

バックパックを背負って、サブバッグを前にかけて思った。
あれ…?何か足りないような気が…?

「あ…!!!!
ギターーーーーーーーーーーァァァァァ…!!!!!」

おいおいマジかよ!さっきのバスの中にギター置いてきちゃったよ!昨日バスターミナルで嫌な目にあったから、あえてバスの中にギターを持ち込んだのだ。それがあだになった!ちょと待てってくれ!

急いでバスを追いかけようとするも、後ろから2~3台後続のバスがやって来て、さっきのバスがどこへ行ったかなんて分からない。てかあのギター修理したばかりなんですけどぉおお~~~!!!!

「どうした!」

急に慌てだした僕の状況を察してかタクシーのおっちゃんが訊いてきた。急いで説明する僕。

「チケットを見せろ!」

「はっ、はい!」

「このバスは次の駅が最終駅だ。今から追うぞ!」

「い、いくらですか?」

「fifteen thothand(15,000)だ」

いそいでレートアプリで計算する僕。なぜかイランの人たちはリエルではなく桁のひとつ少ない「トマーン」という単位でお金のやり取りをしている。

といういことは15万リエルだろー、6ドル近くもすんのか!高い!

「高い!せめて10万!」

「fifteen」

「13!」

「フィフティ~~~~ン」

く、くっそ!ここでおっちゃんとやり取りるヒマはない!ギターを忘れたのは自分のせいだ。ここは大人しくお金を払おう。タクシーは夜明け前の街を走り出した。

次のカーヴェ・バスターミナルまでは少し遠いらしい。本当にギターが戻ってくるのだろうか?

交通量の少ないイランの道路でタクシーは平気で時速100kmで突っ走る。東の空の一部が燃える様な変な色をしていた。

「あのバスか?」

「え?た、たぶん!」

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タクシーの運転手はバスの前に回り込みハンドサインでバスを停めさせた。

さっき僕の肩を叩いた添乗員のあんちゃんが
何があったんだ?と不思議そうな顔をしている。

僕は自分の座っていた席の上の荷棚を見る。そこにはちゃんと僕のギターが置き忘れてあった。

「で、どうするんだ?」

タクシードライバーが僕に尋ねる。

「元の場所に戻るんなら15,000(トマーン)で行ってやるぞ」

僕にどうしろって言うのだ?こんな暗いよくわからない場所で降ろされてももう一度タクシーに乗るしかないじゃないか。

「じ、じゃあお願いします…」

安宿を知っているとのことだったので、同じ金額で宿まで連れて行ってもらった。この短時間で出費が12ドル。くそぅ…。

だが連れて行ってもらった宿はお世辞にも安宿とは言えないものだった。窓もなければWi-Fiもない。いるだけで気分がふさぎ込んでしまう様な宿だった。それで11ドル。たぶん、もっと安い宿があるはずなんだよ…。
この時ばかりはガイドブックが欲しくてたまらなかった。覚えていたのはブログで紹介されたモスクの写真と「エスファハーンは世界の半分と言われた」という何かの抜粋くらい。

くそぅ...足下見やがって。 

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イランに入ってから不便さのようなものを感じずにはいられない。
それほどまでに僕はインドに慣れ過ぎれしまったのだ。

道路は綺麗に舗装されており、安宿は事前に調べておかないと見つからない。街は広く、徒歩じゃ回りきれないことがマップから分かった。それでも僕ができることは、歩くことだけだった。ここに来た目的は「あれ」を見ることだ。

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最悪、野宿か夜行バスで次の街に行ってしまえばなんとかなる。オフラインのマップアプリでだいたいの場所に見当をつけ、僕は歩き始めた。

思ったのは「中東」と言えども全然暑くないということだ。早朝のエスファハーンは涼しいくらいだった。バックパックを背負ったまま歩いていてもそこまで汗をかかない。ほとんど人が出歩いておらず、時々黒いチャドルを身につけた女性を見ると不自然に感じるほどだった。

歩いても歩いても同じような町並みだった。ひたすらにまっすぐ続く道。バスに乗ろうかとも考えたがどのバスに乗っていいのか分からない。

そして眠い。ちゃんと睡眠がとれていないので頭がフラフラする。ベンチを見つけると僕はバックパックを置いて、サブバッグを枕にして横になった。


40分後に目を覚ますと、おじいさんと目が合った。

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とりあえず笑い返す僕。「あっ、どもー」ってな感じで。
そして二度寝した(笑)だって眠いんだもん。

通勤の時間なのか人が急に行き交い始めたことに気がついた。ベンチは人々の通りのすぐ近くにあったため、たぶん僕の姿は丸見えだったと思う。

『この時間にベンチで寝ている僕って…』と思わなくもない。

体を起こし、思考を整理する。
とりあえずモスクまで行ってみようじゃないか。

さっき目を合わせたおじいさんはまだ立ち去っておらず、僕の横に座ってペルシャ語で何かを話始めた。何を言っているのか全く分からないけど、とりあえず「うんうん」と言っておく。

こっちも相手が理解していないだろうけど、一応英語で喋りかけておいた。

「公園を散歩しようじゃないか」

的なこと言われておじいさんと一緒になって公園を歩いた。

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公園は人の手がちゃんと行き届いており、いるだけでリラックスした気持ちにさせてくれる。

「トイレはここだからな」

と僕の心を読んだのか、おじいさんにトイレの場所を案内され、僕は用を足した。イランのトイレは全て個室になっており、小便用の便器は今の所見かけていない。各トイレにはお尻を洗うホースのようなウォシュレットが完備されている。トイレによっては温水が出るところがある。イランのトイレはなかなかすごい!

おじいさんとベンチに座ってしばらくお喋りしたあと、僕はモスクに向かうことにした。結局おじいさんが何を話しているか一切理解できなかったけど、よしとしよう(笑)

自分の目指している場所の名前が分からない。だから地図を見ても、どこに自分の見たい物があるのか分からないのだ。このもどかしさ。分かる?それでも、形とだいたいの大きさ、そして勘。

マップを頼りにして行き着いたのは僕が行きたかった場所だった。

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イマーム広場とイマーム・モスクだ。

朝の時間帯はほとんど人がいないかった。僕はバックパックを背負ってゆっくりとモスクへと近づいていった。

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水色のモスクの空に向かって突き出たあの特有の形を見ると、ここがイスラム圏であることが分かる。

人の全くいないモスクの前で僕は思う存分、門の装飾美を堪能した。

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このモスクを知ったのは高校生の時に使った世界史の資料集からだったと思う。浪人時代で世界史を選択した僕の手元には一年間ずっと世界史の資料集があった。バイト時代に読んだブログには時々この門が出てきた。

てっきりトルコかなんかにあるもんだと勘違いしていた僕は『なんだよ、イランにあんのかよ。行かねえかもな』と思っていたが、なんだかんだ言って僕は今こうしてイマーム・モスクの目の前にいる。

なんでモスクってこんな綺麗な青色なんだろうなぁ?
青は僕の好きな色だ。モスクの青を見ていると吸い込まれそうになった。

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近くのハンバーガー屋さんで35,000リエル(140yen)のバーガーを頼むと、日本で食べる物の2倍くらいのサイズのバーガーが出てきた。

すっぱすぎる牛乳?ヨーグルト?を飲んで、とりあえず200ドルほどの両替をしておく。

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レートアプリで確認していた金額よりも37ドル分多く返ってきた。やっぱりドルの換金レートはいいんだな。さてと、問題は宿だな。一体どこにあるんだよ?

イマーム広場で「ハーイ!」と声をかけてきたおっちゃんに「安宿は知らない?」と尋ねると「アミール・キャビールってのがあるよ」と教えてくれた。

すかさずマップアプリをおっちゃんに見せ、宿のある場所にピンを打ち込んで僕はその宿を当たってみることにした。

歩いているだけで、イラン人たちは声をかけてくる。特に用もないけど、フレンドリーに「ハーイ!」だの「How are you?」だの気さくに声をかけてきてくれるのだ。インド人なんかよりもよっぽど回数が多いと思う。

聞いていた通り「チーノ(中国人)?」なんて声をかけてくる人もいるんだけど、今のところバカにされるようなことはない。いつも思うんだけど、イラン以外の他の国でもそうだが、なんでみんな「アジア人=中国人」で考えるんだろう?そんなに中国人は世界中にいるのか?そして中国人だからバカにされるというのもいまいち理解できない。中国ってそんなにネガティヴなイメージ持ってるのだろうか?イランではどんなイメージを中国に対して抱いているんだろう?


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「アミール・キャビール」は表から見るとこじんまりとした宿だったが、入ってみると、中庭がついている広々とした空間がある宿だった。

案内されたドミトリーにはベッドが3つ。僕がチェックインした時には他のベッドを使っている二人はどちらもどこかにでかけているようだった。ちなみにWi-Fiフリーで朝食つき。ドミは8ドル。

この時初めてイランでネットにつないでみたが、幸運にも自分の使っているブログソフト「WordPress」は規制にかかってはいなかった。Gmailは送受信することができ、アプリの「LINE」なら使える。Googleも見れるサイトと見れないサイトがあった。思っていたほど規制は厳しくないんじゃないか?

アメブロやFC2ブログは見れないけど、思っていたほど何でもかんでも見れないというわけじゃない。インドでダウンロードしておいたiPhoneのアプリ「OPENDOOR」が役に立った。ブログからの情報収集だったらこっちでできるな。ちょっと遅いけどね。

大抵のサイトはアクセスしようとすると強制的に表示が切り替わる。

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だが、それもしばらくするとMacのスクリーンセイバーのような画面に切り替わる。なんかお洒落だ。

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僕はドミトリーのベッドで横になって昼寝をした後、Penny Boardとギターを持って街を散策した。

やはり歩いていける範囲は限られてる。街は確かに広くて綺麗だ。だけど、インドの様に一カ所にお店や交通機関が集まっているわけではない。バスターミナルも街の端にある。

バーガー屋のおっちゃんはいつもの様にフレンドリーだし、普通にアイスボリューム満点だ。甘党には最高でもある。

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外で軽くバスキングをやってみたものの、シーラーズのようなレスポンスは得られなかった。まあ、これからイランでバスキングする機会は他にもあるさ。

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一時間程度で切り上げると僕は宿に戻った。

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18時過ぎになっても日が昇ったままだった。
遠くの方からスピーカーにのった祈りの声聞こえてくる。

たぶんこの時間帯にイマーム・モスクに行けば綺麗なんだろうなぁと思ったが、僕は外に出る気力が湧いてこなかった。

インド、バラナシで沐浴した際に、ガートでコケて足を怪我してから、左足の側面に「おでき」のようなものができてしまった。

傷やうちみなら一週間もすれば完治するのに、どういうわけか今回はなかなか治らない。長距離を歩くとおできがじわりと痛む。「ガンガーの汚さにやられてしまったのか?何か菌的なものが足に入ったのか?」とも考えたが、沐浴の際、コケて擦りむいた肘の傷は今では小さなかさぶたになっている。

シャワーを浴びてベッドで横になっていると、ドミトリーに日本人のおねーさんが入ってきた。「あっ、ども」と軽く挨拶をしておくが内心はちょっと驚きだ。イスラムって男女を分けて考えるくせに、ドミが男女混合ってどういことなんだ?旅慣れたその人のベッドにはサブバッグがパックセーフでベッドに固定してあった。誰か別のヤツが言ってたけど、日本人しかパックセーフしないっていうのは今のところ当たっている。

もうひとつのベッドにはフランス人の男の子。

別室のフランス領のカリブの島出身であるというオールバックのお兄ちゃんと一緒になって、そのおねーさんは夜遅くまで英語でお喋りしていた。日本人の特に女のコの英語って、なんかカワイイよなーと思ったのはこの時だ。

オールバックのフランス人が「なぁ、ユカチン(そのお姉さんの名前らしい)ってどんなだ!?」と鼻息を荒くして訊いてきたのが少し面白かった(笑)

対する僕は中庭のコンセントに繋ぎながらブログのアップをしていた。最近思うのはブログなんてやってない旅人の方が一瞬一瞬を楽しんでいるじゃないかってことだ。夜の時間に日記をかくようにしているけど、こうして自分一人だけ何か作業していることに味気なさを感じる時もある。まぁ残るんだけどね。

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そんな僕に声をかけてきたのは別のフランス人。

この宿にはフランス人が多いなぁ。

「悪いんだけど、パソコン貸してくれないかな?メールをチェックさせてくれないかい?」

「ああ、いいよ」

乗りツッコミが上手いスキンヘッドのファルークは、一人で冗談を言ってはクスクス笑っているようなチャーミングなお兄さんだった。

「いや、聞いてくれよ。フランスでは投げキスはごく自然なことなんだ。ここの宿であったイラン人の女のコに投げキスをしたんだけど、その子ときたら『ハッ!』ってリアクションしてね!あぁ~!僕はなんてバカなんだ!はっはっは!」

やけに自分のことを「stupid」と揶揄していたが、僕としてはこのよく喋るお兄さんにどこか好感が持てた。Facebookは僕のiPhoneからチェックすることができたファルークは満足した様子だった。

「君の笑い方は、なにかこう、こっちを安心させてくれるよね」
そんなファルークの一言がほんのりと心にしみ込んだ。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。