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働き方変革によって、観光事業はまちづくり事業へと変化していく【レポート/加藤遼さん】

みなさん、こんにちは!TABIPPOライターの西嶋です。

今回は自分と世界の豊かさをつくるニューノーマルトラベラーが育つ学校「POOLO」で行われた講義の様子をレポートします。

今回は、8月20日にオンラインで行われた講義 「地方創生のマーケットチャンスと課題解決の思考法」の様子をレポートします。登壇者は、パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部長兼事業開発部長の加藤遼さんです。

登壇者:加藤遼さん

旅するようにはたらく部長/ 音楽・芸術・旅
岐阜生まれ、横浜育ち。旅と音楽とアートが趣味。「旅するようにはたらく」をテーマに、行政・企業・NPOの連携による地域複業・ワーケーション・サステナブルツーリズムの推進に取り組んでいる。地域企業と複業人材のマッチング『JOB HUB LOCAL』・ワーケーションプロデュース『JOB HUB WORKATION』事業責任者、NPOサポートセンター理事、IDEAS FOR GOOD Business Design Lab.所長、サステナブル・ビジネス・ハブ理事。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、東京都観光まちづくりアドバイザーなど公共政策の専門家・委員なども務める。

「旅するようにはたらくこと」の効用

僕はいま、パソナに所属しつつ、旅するようにはたらくスタイルが定常化しています。

きっかけは2つ。まず、リーマン・ショックの後、雇用のミスマッチを解消するプロジェクトの担当になり、全国出張が増えたこと。このプロジェクトでは「就職困難な若者」と「人材採用に課題を抱える中小企業」のマッチングに取り組んでいました。

もうひとつは、東北復興プロジェクトのリーダーになったこと。「求職中の被災者」と「人手不足で事業を再開できない企業」のマッチングを進めるため、東京と東北を行き来していました。

旅をすると、おもしろい人に出会えますよね。そんな人たちと価値観や志、ビジョンを共有して仲間になって、地域の課題を解決するために協働するようになる――。旅にはこんな力があります。

また、旅するようにはたらくことで、自分の心や行動は自然と変わっていきます。

地域の経済社会を、机上の空論ではなく五感で捉えられるようになる。
さまざまな人たちと交流し、多様な視点で思考する。
自分の価値観や感情と向き合う。
そして、直観を信じて心赴くままに挑戦する。

「旅するようにはたらくこと」によって、Life is ARTが実現できるのです。

ローカルベンチャーは「旅行事業」から始まる

ここからは、自分のスキルや資産を活用して地域に貢献することについて、僕の取り組みを紹介します。

僕の取り組みは、パソナグループの中で立ち上がった「ローカルベンチャーファンド」の事務局から始まりました。これは、地域でビジネスを始めたい起業家に出資する取り組みです。

ローカルベンチャーファンドの事務局としてお手伝いしたうちの一社が、創業から現在に至るまで役員を務めている「VISIT東北」です。

VISIT東北の主な事業は、地域資産を開発した事業開発。グループ会社も複数あり、以下のように幅広く事業を展開しています。

・地域商社事業
・ふるさと納税運用代行事業
・飲食事業
・旅太鼓事業
・指定管理施設運営事業
・教育交流事業
・アウトバウンド事業
・インバウンドプロモーション事業
・オンライン学習サービス
・高校生向け総合型選抜対策サービス
・教育機関向け地域探究教材開発サービス

こうした取り組みの中で気づいたのは、ローカルベンチャーには、「旅行→地域商社→飲食→教育→医療・健康」などのビジネスインキュベーションステップがあるということです。

まずは地域にお客さんを呼ぶ「旅行事業」。地元の宿や飲食店、お土産物屋さんに人が集まるようになり、地域との信頼関係が構築されていきます。

旅行事業を発展させればさせるほど、魅力的な人や、その人たちがつくり出す商品・サービスに出会います。それらをもっと広めたいと考えて「地域商社事業」をスタートさせることになるでしょう。

やがて、自分たちの手で特産物を届けるために「飲食事業」を始めたくなります。VISIT東北グループの地域商社であるGM7の場合は、宮城県のずんだ豆や牛乳を使ったジェラートのお店をはじめました。

旅行事業・地域商社事業・飲食事業によって新たな産業や雇用が生まれると、地域の将来を考えるフェーズがやってきます。地域の外に出ていく若者たちを見て「教育事業」に関心が生まれるでしょう。

教育事業を発展させると、その地域の将来をますます真剣に考えるフェーズが訪れるはず。地域の人たちにいきいきと働いてもらうため、そして若者たちにチャンスを与えるため、「医療・健康サービス事業」に目が向くのです。

個人の才能をシェアする働き方「タレントシェアリング」

次に、個人と地域のかかわり方について話しましょう。

個人が主役となって才能をシェアする多様な働き方を「タレントシェアリング」と呼んでいます。近年、働き方がずいぶん自由になったことで、タレントシェアリングがどんどん進んでいますよね。

働き方の変化を整理すると、下の図のようになります。

これまではオフィスに出勤するのが普通でしたから、職場の近くにしか住めませんでした。リモートワークによってこの前提が覆され、時間や場所に捉われずに働ける人が増えています。

旅も同じ。これまでは連休の小旅行や平日の出張、長期休暇の海外旅行が一般的でした。ところが近年では、ワーケーションやブリージャー(business+ leisure)、多拠点滞在などといった旅の形が生まれています。

そうした変化の兆しを見据えて取り組んできたのが、地域企業と複業人材のマッチングコミュニティ「JOB HUB LOCAL」です。

「JOB HUB LOCAL」のプロセスは4段階。

地域で複業するとは何なのかをセミナーで学ぶ。

フィールドワークで実際に体験する。

5-7社の経営者と対話しマッチングし、プロジェクト化する。

フィールドワークで出会った人たちや、地域の企業の経営者同士がコミュニティとなり、仲間になる。そして最終的には、地域の人たちと複業人材が混ざり合って地域コミュニティとなっていきます。

もう一つは「JOB HUB WORKATION」。「複業はハードルが高いけどテレワークならできる」という人向けのマッチングサービスで、地域に滞在しながら仕事をしつつ、企業や自治体とともにプロジェクトに取り組みます。

地域と個人的にかかわっていくプロセスの入り口として、旅行やワーケーションはぴったりなんですよね。

観光地を巡るだけでは、地域の人とのつながりはできません。でも、地域のコミュニティや企業、自治体の人と交流することで、その地域の関係人口(地域とかかわる人)になれるでしょう。

そんなつながりの中でプロボノとしてのかかわりが始まり、やがて複業、そして起業へと進展していく例もあります。

“観光の意味”のイノベーション

コミュニティに地域の内外の人が集まって、いろんなプロジェクトが走りだし、経済価値が生まれると、いつしかそれがビジネスになっていく――。

このような、コミュニティをハブにしたローカルビジネスインキュベーションシステムがあると考えています。

コミュニティを支えるためには、滞在の拠点や、住宅や教育、医療などといったインフラも必要ですよね。

よって、観光産業はもはや「宿泊・交通・飲食・小売・体験」にとどまらず、「まちづくり事業」といえるような、包括的な役割へとシフトしていくはずです。

つまり、下の図のように、観光の意味がイノベーションしていくことになるといえるでしょう。

こうしたイノベーションが進んでいく中で、地域でビジネスを作るときには、ぜひこのプロセスを意識してみてください。きっと、自分らしさと地域のビジョンの重なりが体感できるのではないかと思います。

加藤さん、ありがとうございました!ローカルビジネスの最前線に身を置き続けている方ならではの事例が豊富で、わくわくしながら聞いていました。旅人のひとりとして、これからの観光産業がどのようにイノベーションされていくかに注目したいと思います。