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note37: タシケント(2011.6.24)

【連載小説 37/100】

“旅を人生の住処に”年月を重ねてきた僕には、初めて訪れる地でとるふたつの行動パターンがある。

ひとつめは旅する先にゆっくりと時間をかけて馴染むべく、あまりアクティブに活動することはせず、先にその土地の全体像を把握する作業から始めるパターン。

訪問エリアの中心地にあるメジャーホテルに滞在し、ネットで情報収集したり行き交うツーリストを眺めたり近所の書店やマーケットをぶらりと訪ねたり、といった活動をこなしながらその地の歴史や文化を学び、そこから旅の周遊プランを組み立てていく旅だ。

もうひとつは、現場に飛び出してとにかく貪欲に行動するパターン。

その土地に流れる歴史や文化的背景の知識はほどほどに、まずは街へ飛び出してガイドブックに紹介されている観光スポットはもちろん、名もなき史跡や路地裏の隅々までをひたすら歩き回り、“点”の体験を“線”から“面”に広げ、次第に全体像にアプローチしていく旅である。

「トラベルライターの仕事は探偵業に近い」
と言われることがしばしばあるが、僕の旅の2パターンを探偵業になぞらえるなら、前者がシャーロック・ホームズで後者がフィリップ・マーロウになろうか。

書斎で椅子に深々と腰掛けてパイプをくゆらしながら事件の謎解きを行う“アームチェア・ディテクティブ=安楽椅子探偵”がホームズ、現場となる街へ飛び出すハードボイルドな“私立探偵”がマーロウだからである。

そして、ウズベキスタンを訪れた僕がとった行動はマーロウタイプの現場密着型のパターン。

初めて体験する中央アジアの国家を知るには知識よりも体感だ、との直感からタシケントを精力的に観光した後、世界遺産の街サマルカンドまで足を延ばして今日戻ってきた。

その中でも特に惹かれたのがイスラム建築のデザインで、青を基調色とする幾何学模様の美しさはどれだけ見ても飽きることなく、迷路のごときデザインの世界に迷い込んだがごとく、僕は“捕らわれの身”となっている。

ところで、探偵業になぞらえたのとついでにウズベキスタンの旅を調査紀行に置き換えて「シルクロードの中継地として栄えた国の魅力を簡潔に解き明かしレポートせよ」というミッションを受けたことにすると面白い。

中央アジアはカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5ヶ国で構成されるが1991年までは旧ソ連に属していたこともあって日本においてはまだまだ“知られざる”国家群である。

その中でも国をあげて観光客誘致に注力しているウズベキスタンが将来的に有力なデスティネーションとなる可能性は高いと4日間の滞在で確信している。

日本人が訪れたくなるテーマを明確に発信できさえすれば、21世紀のシルクロードを旅するツーリストは着実に増えていくだろう。

“調査期間”はまだ1週間残っている。

イスラム建築に見とれるだけで調査が“迷宮入り”してしまわぬよう、貪欲に見聞を重ね、出国前に何がしかの答をレポートとして残したい。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年6月24日にアップされたものです。

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