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note1:香港2011.3.10

【連載小説 1/100】

世界一周の旅に出かけませんか?
そんな誘いをPASSPOT社の幹部から受けたのが僅か2ヶ月前。
そして今日、僕はその旅をスタートさせ、最初の訪問地である香港に到着した。

キャセイパシフィック航空CX543便(10:45羽田発→15:00香港着)。
香港国際空港でイミグレーションを終えた僕はWiFiゾーンに移動しiPhoneのスイッチを入れると「SUGO6」アプリを立ち上げ「check in!」アイコンをタップ。

緯度経度を示すジオタグ情報が一瞬表示された後、Googleマップ連動地図上の香港の場所に「mana」の文字が点滅しチェックイン完了。続けて1件のメッセージ受信を知らせる画面下部の「message」アイコンをタップすると、こんなメールが届いていた。

>>>>>message/2011.3.10-15:30<<<<<
真名哲也さま

香港までのフライトお疲れさまです。
無事のご到着確認させていただきました
世界一周の旅、最初の訪問地香港のステイ14日間をお楽しみください。

空港から中心市街地までは約30kmありますが、エアポートエクスプレスに乗れば25分で到着します。

宿泊はご希望の「THE PENINSULA HONG KONG」で予約が完了しておりますのでフロントにてパスポートをご提示ください。

ホテルご到着後も「check in!」アイコンをタップいただきますと、周辺のお薦め観光スポットやレストランなどの情報をご覧いただけます。
また、今後のスケジュールや連絡事項に関しましては「message」部に赤文字で件数が表示されますので随時内容をご確認ください。
>>>>>SUGO6 Support Desk<<<<<

それから約90分。ペニンシュラホテルに到着した僕は、チェックインを済ませるとハイティで有名な1階のラウンジに降りてカプチーノを注文し、MacBookAirでfacebookにアクセスして、このnoteを入力している。簡単に自己紹介をしておこう。

僕の名前は真名哲也。
職業は旅行作家で、世界各地を転々と旅しながら様々なメディアにテキストを提供する仕事をかれこれ20年以上続けている。クライアントは旅行雑誌社であったり、映像ドキュメンタリーの制作会社であったり、時には政府機関からの依頼で調査レポートを作成したりするのだが、21世紀の到来と前後してインターネット関連のビジネスが増え、今では各種WEB向けの仕事のほうが多くなっている。

「旅を人生の住処にする」といってもいい旅行作家にとって、インターネットやモバイル環境の進化は極めて強力なフォローウィンドとなった。何せ「空気を売っている」と喩えられるほど身軽な職業だから、その身ひとつで現場へ旅立ち、五感で得た体験とそこから沸き出す思いをこのようにキーボードでコトバに変換してファイル化し、ネット上にアップロードすれば仕事はほぼ完結する。
以前なら「打ち合わせ」と言う面倒な作業のために余分な移動を繰り返すことも多かったが、今はSkypeやFaceTimeを使って現場を離れることなく効率よく仕事を進めることができる。

その自由自在さにおいて旅行作家ほど高度情報ネットワーク社会に適した職業はない、というのが長らくこの仕事を続けてきた僕の実感だ。そして、そんな僕に突如舞い込んできた今回の仕事が「SUGO6」のルポである。

PASSPOT社という若きベンチャー企業からのオファーはシンプルで「弊社が昨年スタートさせた“SUGO6”という富裕層向けの世界一周旅行企画を実際に体験しながらその詳細と魅力をfacebookページにルポルタージュとしてアップし続けてほしい」というもの。2011年が明けた1月13日に同社の幹部3人と会ってプロジェクトの詳細を聞いた僕はそのビジネスモデルに共感し、二つ返事で仕事を引き受け、その後数回のミーティングを経て今日の出発に至ったのである。
と、入力してはみたが、今、何かのきかっけでこのfacebookページにアクセスし、このnoteをここまで読み進めてきた“あなた”には、これだけでは意味や背景がよくつかめないだろう。
無理もない。今日スタートするこのブログ形式のルポは、これから僕が重ねる10ヶ月の予定の長旅の記録であると同時に、「SUGO6」というこれまでにない斬新かつユニークな旅行企画のライブレポートになるわけだが、当事者である僕でさえ、その具体的な中身はこれからの日々で順に知ることになるし、ひとまず落ち着いた香港で2週間を過ごした後、どこへ行くのかもまだ決まっていないという成り行き任せの旅なのだ。
ということで、この風変わりな世界一周旅行に少しでも興味を持ってくれた方は「いいね!」ボタンをクリックして読者登録の上、僕の旅をfacebookでチェックし続けてほしい。

日本には「袖振り合うも多生の縁」なる故事がある。
見知らぬ人と道で袖をすり合せるのも前世からの深い縁によるものだという仏教の教えだが、ネット上での出会いもまた然り。
中国、インドという仏教ゆかりの2大国家に続く6億人超の人口を持つfacebookという“空想”の国にて、不思議な引力に導かれての“僕”と“あなた”の出会いである。これも何かの縁ということで、旅を共に楽しんでもらえれば幸いだ。

facebookを使うが故に、僕のレポートにコメントをもらうことも可能だし、“あなた”も旅人であれば、場合によっては世界のどこかで僕たちは実際に会うことがあるかもしれない。
いや、そのうち“あなた”も「SUGO6」で世界一周の旅に出かけるかも…、と思いを巡らせばPASSPOT社が僕に依頼したルポの狙いが見えてくるような気もする。

ひとまず今日はこのあたりにして、続きは後日アップすることにする。このあとは「SUGO6」アプリの検索で香港ヌードルの美味しい店でも見つけて、久しぶりの九龍の街へ出かけるつもりだ。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年3月10日にアップされたものです。エアラインのフライトスケジュールや作品内に登場する情報は全て当時のものです。
 

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