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世界に続く旅の6キロ地点に立っていた男

北アメリカやユーラシア大陸にまで及んだ自転車旅歴史上最初に出会った人物をご紹介したい。
 
2009年11月。私は友人の結婚式に参加するため東京-大阪を走る人生初の自転車旅に挑戦するのだが、渋谷区の自宅を出発して間もなく山手通りで職務質問に遭っている。国道1号線に至るためには山手通りをただ南進すればいいのか目黒警察署の立ち番の警察官に聞いてみたのだが、深夜だった事もありその行動を怪しんだ警察官は行き先を尋ねてきた。

私が正直に『大阪です』と答えるとさらに詳しく事情を聞かれ身分証も求められた。身分証と大阪での結婚式の招待状を見せると新人類との遭遇に納得した警察官は右折すべき国道1号線との交差点名を教えてくれ『国道1号線はバイパスも多いし気をつけて』と気遣ってくれた。
 
紆余曲折あった東京-大阪自転車旅を経て国内自転車旅に没頭し始めた私は三ヵ月後の2010年2月、東京-福岡、そしてできれば沖縄も一周しようという自転車旅に再挑戦する。

大阪までの道のりは同じなのでまた山手通りを走って国道1号線を目指しているとあの目黒警察署が見えてきた。「そう言えば三ヶ月前にあそこで職務質問をされたんだっけな」なんて懐かしみつつ通り過ぎようとすると、なんとそこにはあの時と同じ警察官が立っているのだ!
 
私が声を掛けるとすぐに警察官も気付いた様で『あの時は大阪まで行けたの?』とにこやかに尋ねてきた。そして『今回は?』と。私が『沖縄まで行こうかなって…』と答えると『そっか。がんばって。気をつけてね!』と静かに見送ってくれた。
 
実を言うとこんな風に肯定的な人はそう多くない。ほとんどの人が「そんなところまで走れる訳がない」と思っておりその心の内を表情に浮かべる。口八丁でほとんどの事を完遂した事がない私はぐうの音も出なかったので彼らの懐疑的な眼差しを直視する事さえできなかった。

しかし東京-大阪を走り切った事で過去の自分を許し未来の自分を応援する自分が育ちつつあった。

あの警察官はアメリカまで続いていく道のりの最初の6kmで出会ったにも関わらず冒頭から私の挑戦を肯定してくれた。恐らく警察官にとっては何気ない事だったのだろうが私は今でも感謝している。
 
肯定された方ががんばりやすい。これが自転車旅で最初に学んだ事かも知れない。



◾️旅エッセイ『赤土と太陽』第一章

15年間の旅の歴史を一つの作品にまとめてみました。旅は非日常かも知れませんが旅で学んだ事は全て日常に還元されていきます。


◾️旅エッセイ『赤土と太陽』とは?

私はこの作品を書くにあたり「思い出す」という行為に至った事がありません。忘れる事に抗わない私が絶対に忘れる事のない旅の数々。あなたはどのように感じるのでしょう?


『赤土と太陽』スピンオフNo.002

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