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第1回目は、2013年7月に自身のホームページ(現在休止中)に掲載したコラムをアップしますね。このコラムに登場するホルヘ・ロレンソ選手は、3度世界チャンピオンに輝き、2019年を最後に現役を引退。現在はヤマハのテストライダーを勤めています。

タイトル「世界チャンピオンの条件とは・・・」

 いま思えば、ではあるけれど、ロレンソが雨のオランダGPで転倒したときに真っ先に思い浮かんだのは、その前日に行われたプレスカンファレンスで語った、彼のこんな言葉だった。「I feel strong at the moment, I'm in the best shape of my career ・・・・」。つまり、いまが最高かも知れない、という言葉である。

 その翌日、雨の中でロレンソは、高速コーナーの進入でアウト側の縁石に乗り上げて激しく転倒する。その転倒で左鎖骨を骨折するのだが、そのときにロレンソは、まさに肩を落とし、転倒の原因を「Overconfidence」と語ったのだ。

 最高に乗れていると語った次の日の転倒で自信過剰だったと反省する。しかし、その骨折から48時間後には、折れた左鎖骨をチタンプレートと8本のビスで止めてグリッドに並ぶ。そして、このレースで彼は、なんと5位でチェッカーを受けてしまうのだ。

 ロレンソは、世界中の賞賛を集めることになった。チャンピオン争いをするペドロサには、「I take my hat off to him」(脱帽したよ)とつぶやかせてしまう。こうして、オランダGPのドラマは、映画のような台詞を次々に飛び出させることになるのだが、このときにロレンソは、一度は自信過剰を反省しながらも、「やっぱり、オレは乗れているなあ」と確信したに違いないのだ。

 確かに乗れている。骨折から2週間しか過ぎていないのに、ドイツGPの最初のセッションではトップタイムをマークした。気温も路面温度も上がった2回目の走行では、アウトラップからぐいぐいペースを上げた。この写真はコースインしてから3周目のものだが、膝と肘をぐりぐり擦って、素晴らしいスピードで駆け抜けていく。だが、この翌周の10コーナーで彼はハイサイドを喫して転倒してしまうのだ。

 この転倒でロレンソは、オランダGPで骨折した左鎖骨を固定しているプレートを曲げてしまう。肩を押さえながら痛々しく立ち上がるとすぐに医務室に向かうのだが、ヤマハのスタッフにロレンソは、転倒の理由を「Overconfidence」と語ったのだそうだ。

 これが映画だったら、きっと、主役のロレンソは再びグリッドにつくのだろう。でも、現実は、そんなに甘いものではないし、この悔しさを、次のレースにぶつけてくれれば、それでいいと僕は思ったのだ。

 それにしても、「I feel strong at the moment, I'm in the best shape of my career ・・・・」なんて台詞は、言わなくてもいいような気がする。引退したときに、そういえば、あのころかな・・・とさらりと語ってくれればいいと思うのだが、こういう台詞が出てくること自体、きっと、自信過剰なんだろうなあと思うのだ。

 ロレンソがチャンピオンを獲ってきた過去2回のシーズンは、強くて速くて、そして、誰よりも我慢強かった。その我慢強さとは、ケガの痛みに耐えることではなく、転ばずミスをせず、じっとチャンスを待つ・・・という意味である。欠場することになったけれど、こうなったら、焦っても仕方ない。こういうときこそ、持ち前の我慢強さを発揮して欲しいと思うのだ。




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