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ここではないどこかへ

エッセイを読むことは少ない。
なんとなく哲学的なタイトルに惹かれたのと、偶然目にしたおすすめ本紹介の上位にランキングされていたため購入した一冊。

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『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
若林 正恭著


みなさんご存知の、といって良いのか定かではないけれど、お笑い芸人オードリーの若林さんが書かれたエッセイ本。

正直それほど期待せず購入したので、積読状態で数ヶ月ほど放置していた。ふと読んでみようかなと思い立ちページを捲ったところ、自分でも驚くほど世界観に引きこまれていった。

予想外の面白さ! という感想は失礼か。

まず若林さんの達者な文章力に驚き、哲学的な表現に感服してしまった。この方はきっと頭がいいんだろう。文学的な素地もしっかりあることが駄々洩れている。

内容としてはキューバ・モンゴル・ロンドンの旅行記だ。特段に珍しいエッセイでもなんでもない。といえるほど私はエッセイを読んでいないので、比較対象に乏しいのだけれど。

なにが一番高ポイントかというと独自の視点だと思う。自称『人見知り』な著者が見知らぬ場所で初めての人と出逢い自分を見つめていく。自分探しという表現は陳腐すぎるが、内観と向き合う旅であることは間違いない。

自分を知らない場所で未知なる自分と出逢いたい。
ここではないどこかへ行きたい。

そんな願望は誰の中にもある気がする。
私もその中のひとり。

このエッセイを読んで共感もしくは心の琴線になにかが触れた人は。
間違いなく少数派に属する人たちだ。

世間と交われず、かといって孤高に生きていく強さも持ち合わせていない。プライドは高いけれど世間が気になる小心物。

いわゆる生きづらさを感じている人である。

生きづらさを感じるのは、狭い世界の中であえいでいて呼吸ができないからだと思う。途方もなく広くて、未知なる場所と文化の中に身を置くと開放されて楽になることがあるのだ。

とはいえ、その一歩を踏み出す勇気がないのが現実。

私を含めそんな人たちにこのエッセイは語り掛けてくれる。

『大丈夫、今のままのあなたでいい。日本という民主主義の中では弾かれる存在であっても、他国へいくと許容範囲は広い。さまざまな価値観があって当たり前で、自由だ』

とどのつまり、制限をかけているのは社会でも世間でもなく自分自身だと気づくのだ。

読み終えてすぐ違うエッセイも読みたくなった。
エッセイも悪くないと新たな扉を開いてくれた一冊。

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