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感謝を伝えるために ロシアワールドカップ旅日記1

プロローグ

すべての始まりは、その4年前のブラジルへの旅だった。

2014年、僕はサッカーのワールドカップを観戦するため、ブラジルへと旅に出た。南米へ行くのも初めてなら、ワールドカップを観戦するのも初めてだった。

コパカバーナビーチに降り注ぐ眩い陽射し、街全体を包む底抜けに明るいお祭りムード、どこまでも陽気でフレンドリーな人々、そして熱狂と歓喜に満ちたサッカーの試合……。

その1週間あまり、僕はブラジルの地で、幸せに満ちた日々を過ごすことになった。

しかし、である。

日本へと帰る飛行機の中で、僕は不思議なくらい、物足りない気持ちを抱いていた。

その理由のひとつは、遠いブラジルまで来たのにもかかわらず、日本代表の試合をまったく観られなかったからだった。決勝トーナメントの試合からブラジルに入ったため、グループリーグであっさり敗退してしまった日本代表には、とうとう出会えなかったのだ。

たとえば沢木耕太郎さんは、日韓ワールドカップ観戦記『杯<カップ>』の中で、ワールドカップには「自国のチームを応援していく楽しみと、最高のものを追い求めていく楽しみ」がある、と書いている。

僕はブラジルで、「最高のものを追い求めていく楽しみ」を味わうことはできた。でも、「自国のチームを応援していく楽しみ」は味わえなかった……。

きっと、その満たされぬ思いが、4年後、僕をロシアへと向かわせることになったのだと思う。まさに日本代表と同じように、それは僕にとっても、「リベンジマッチ」の旅だったのだ。

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今度こそ、ロシアで日本代表を応援したい。

そこで僕は、日本の第2戦であるセネガル戦から現地入りすることを決め、決勝トーナメントに進出したときのことも考え、ラウンド16の試合までロシアに滞在することにした。

ところが、ロシアワールドカップの開幕まで2ヶ月あまりとなったある日、思いがけないことが起きる。

日本代表の監督を務めていたハリルホジッチ氏が「電撃解任」されたのだ。それはあまりにも唐突で、不可思議な解任だった。

僕は決して、普段から熱心な日本代表サポーターというわけではない。ある意味で、ワールドカップのときにだけ盛り上がる「にわかサポーター」と言ってよい。しかし、そんな僕にとっても、「新監督」となった西野朗氏のもとで再出発することになった日本代表を、熱く応援することはできそうもなかった。

5月、横浜の日産スタジアムへ行き、日本がガーナになすすべもなく負ける姿を見つめながら、僕は思っていた。

こんなことなら、ロシアまで行く意味はないのではないか。たぶん日本は、ワールドカップでもあっけなく敗退するだろう。わざわざお金と時間を使って、つまらない試合を観に行く必要はない……。

僕は日を追うことに、ロシアへ旅に出る意欲を失っていった。

しかし、それは日本代表の「混乱」だけが理由だったのではないと思う。たぶん、ロシアという国に、心惹かれるだけの「魅力」が感じられなかったからなのだ。

4年前のブラジルには、大きな「魅力」があった。ラテン系特有の明るさ、人懐っこい人々、サッカー大国としての面白さ……。ロシアには、そのどれもが欠けているように思えた。僕にとってロシアは、どこか暗く寂しげで、モノクロな印象のある国だったのだ。

ロシアには、ブラジルのときのような、はるばる旅に出るだけの「魅力」がないような気がする……。

しかし現実的に、いまさら旅を取り止めることはできなかった。

やがてワールドカップが開幕し、強豪のコロンビア相手に「奇跡」の勝利を挙げた日本代表に鼓舞されるようにして、僕はロシアへと旅に出た。

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いま思えば、旅を取り止めるなんて、浅はかなことを考えていたと思う。もしも本当にロシアへの旅を取り止めていたならば、僕は一生後悔することになっていただろう。

それくらい、そのロシアへの旅は、素晴らしいものになった。

ロシアで観ることになった日本代表の試合は、決してつまらない試合なんかではなかった。ロシア代表の「歓喜」の瞬間に立ち会えたことも含めて、いくつもの心動かされる瞬間に出会えたのだ。

そしてなにより、ロシアという国は、「魅力」のない国なんかではなかった。新しい街を訪れる度に、その土地に魅了されることになったからだ。モノクロの国なんかではなく、輝くような明るさに溢れたカラフルな国だったからだ。

きっとそれは、「人」の存在が大きかったように思う。僕は行く先々で、ロシアの人々に助けられながら、旅を続けて行くことになった。その「人」の優しさ、温かさが、この旅をかけがえのない大切なものに変えてくれたのだ。

あのロシアの旅から、2年が経とうとしている。なぜいま、あの旅を振り返るのか。

それはたぶん、あの旅で出会ったロシアの人々への感謝……、ありがとう=スパシーバを、伝えたいからなのだ。

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旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!