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モスクワ行き夜行列車からの手紙 ロシアワールドカップ旅日記17

いま僕は、モスクワへ向かう夜行列車に揺られています。

夜行列車、といっても、いまは昼です。枕元から窓の外を見上げれば、白い雲が浮かぶ澄みきった青空が広がっています。いつもの美しい、ロシアの青空です。

ロストフからモスクワまで、およそ1000km、15時間あまり。この列車もまた、大変な長距離列車ということになります。

車窓の風景は、ひたすら森林や草原が続きますが、ときおり小さな町を通過すると、生活の香りが車内にまで届いて、気持ちがホッとします。

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ウクライナ国境に近いロストフからこの列車に乗ったのは、深夜3時過ぎのことでした。窓の外を流れる風景を見つめながら、このロストフという街にまたいつか来ることはあるのだろうか……、と感傷的な気持ちになったことは覚えています。

しかし、そのすぐ後に、僕は眠ってしまったようです。というのも、この日の寝台は4人部屋ではなく、1人部屋だったのです。カザン行きの夜行列車に乗ったときのように、不思議な家族にウォッカを勧められることもなく、僕は安心して眠ってしまった、というわけです。

目が覚めたのは、車掌さんが「朝食」を持ってきてくれたときでした。すでに太陽は空高く昇り、僕の部屋には明るい陽射しが揺らめいていました。

朝食は、ミートソースのかかった粒状パスタと、サラミでした。量は物足りませんが、味は意外と美味しかったのを記憶しています。

そう、どうやら僕はそれを食べ終わると、再びベッドで眠ってしまったようなのです。

その理由は、窓の外から射し込んでくる「光」にありました。枕元に降り注ぐ、ロシアの太陽の光。それがあまりにも気持ちよく、眠気を誘ってしまうのです。

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次に目を覚ましたときには、すでに午後になっていました。

昼食を食べていないため、さすがに空腹を感じます。そこで僕は、食堂車へ向かうことにしました。

その途中、日本人のサポーターに出会いました。話を聞くと、なんと彼は決勝戦までロシアに滞在するということです。写真が好きらしく、同じ部屋の家族を熱心に撮影してあげていました。

すると、その家族のお父さんが、歌を歌い始めました。これが、どこかで聴いたことのある歌です。

すぐにそれが、ザ・ピーナッツが歌って大ヒットした「恋のバカンス」であることに気づきました。

どうやら、「恋のバカンス」はロシアでもカバーされて大ヒットし、知らない人はいない人気曲になっているようなのです。

列車に揺られながら聴く、ロシア語の「恋のバカンス」は、ちょっと不思議で、でもすごく心地良いものでした。

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そんな出会いもありながら、僕はようやく食堂車に辿り着き、だいぶ遅い昼食をとることになったのです。

迷った末に選んだのは、チキンのソテー。これが柔らかさといい、味付けといい、たまらなく美味しく、ぺろりと平らげてしまいました。

それにしても、食堂車というのはいいものです。列車の揺れに身を任せて、車窓の風景を眺めながら食事をとっていると、とても幸せな気持ちになってきます。日本の列車にも、こんなふうに気軽に利用できる食堂車があるといいのに、と思います。

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そんな食堂車でぼんやりしていると、この旅で観ることになった5つの試合を思い出すことになりました。いま振り返れば、それらの試合には、喜怒哀楽が溢れていた気がします。

初めて観る日本代表の試合に「喜び」を感じたセネガル戦、不甲斐ない展開に「怒り」を覚えたポーランド戦、思わぬ終わり方に「哀しみ」を抱いたベルギー戦。

そして、最高の「楽しさ」に出会えた韓国とドイツの試合に、スペインとロシアの試合。

まさに、それらの5つの試合は、素晴らしい喜怒哀楽で満ちていました。

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この列車がモスクワへ着けば、まもなく旅は終わります。

もちろん、寂しさはありますが、それよりもいま、深い満足感で溢れています。

こんなにも、心の底から満足感を抱く旅は、初めてかもしれません。

それはなぜか。

きっと、このわずか10日あまりの間に、人生でかけがえのない経験を、たくさんしてきたからだと思うのです……。

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旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!