見出し画像

馬日記・その15

 今朝、ドキドキしながら空港に向かうと(何回空港に行かせるんだ、この野郎!時間とバス代どれだけ使わせるんだ、この野郎!)、ついに、ついに、ディジュリドゥが返ってきていた。もう、久しぶりに、我が子に会えたように、「無事でよかったね〜、おかえり〜」と、スリスリした。よし、これで、ついに、SanJoseを出発して、HorseCaravanのみんなの処へ、目指せるぞ。
 
 空港の帰りに、街中で、パブロと会ってお話をする。彼は、以前より、ずっとずっと良い顔をしていた。パブロが、「あっちにRainbowの仲間のシェクシーがいるから、会いに行こう」と誘ってくれた。シェクシーは、髪の毛にいっぱいエクステンションをつけている、あのメキシコ人の女の子だと思いだす。今は、街中でエクステンションを編んで商売をしていた。それにしても、本当に、RainbowFamily の人たちは自由でたくましいな。すぐ商売を始めて、旅先でも関係なくお金を作ってしまうもの。この間なんて、しばらくRainbow Gatheing のキャンプで見ないなと思っていたら、なんと、近くの街のパン屋さんで働いているカナダ人の男性がいたっけ。シェクシーにしても、それぞれに、特技を持っているから、その特技を生かして、とても楽しそうに仕事をして、技術を磨いて、結果、お金も稼いでいる。それは、自分の表現をしながら、色々な人にも出会っているようでもある。すごいなー。ぼくも、何か、技術を身につけていきたい。自分を表現できる手段を身につけていきたい。これまでの大学生時代のいわゆるバックパッカーの旅は、ただ、移動して、見て、聞いて、食べての、受け取るだけの受動的なものだったな。そういえば、宿で出会った旅人同士でも、「どこに行った?どのくらい旅しているの?」とお決まりの会話しかしていなかった。旅先で、自分から何かを発信することなんて、考えたこともなかった。そう言った意味で、Rainbow Gatheingで出会った人々のおかげで、今、全く新しい旅の世界が広がってきている。そのことに、とてもワクワクしている。

 そう、これからは、旅がぼくにとっての暮らしの場になるのだ。大学の夏休みや、春休みだけの、期間限定の旅人ではない。もう、ここが、ぼくが所属している場所なのだ。今日本に帰っても、もう大学生などという社会的身分は存在しない。親に、「就職もしないで旅を続けるのか、それで、お前の将来は大丈夫なのか?」と散々尋ねられて、もちろん親も心配だからこその正直な声を届けてくれたいのだとわかってはいたものの、ぼく自身もとても心配でしかない、それでも、旅したくて、「大丈夫か、どうかわからない。ただ、今、わかっているのは、今、旅をしたいんだ」と返事することしかできなかった。とても辛かった。それでも最後に、お父さんが、「お前の人生だ。お前の好きにしたらいい。自分ののやりたいことをやって、生きていけたらどんなに幸せなことか」と言ってくれたことに、大きな信頼を感じた。それと同時に、「この先は、お前が自分で決めた人生を自分で生きていくんだからな。自分の責任で生きていくんだぞ」と言われ、心底どきりとした。そうなのだ、今まで何十カ国も旅をしてきたと、偉そうにしてきたけど、旅の資金は自分でアルバイトで稼いでいたつもりでも、家や、大学生という身分を全て親に用意してもらってたからこその、ある意味いつでも帰って来れる場所がある旅だった。日本で就職をしないと心に決め、大学卒業と共に飛び出してきたこれからの旅は、まるで、糸が切れた風船のように、どこまで、飛んでいってしまうのだろう。飛んでいったまま、帰って来れなくなってしまうのではないか。そんな心配が、一気にのしかかってきた。それと同時に、父の言葉に、現実をありありと突きつけられ、決心ができた。「これからは、旅がぼくの暮らしの場」だと。暮らしていくためには、どうにかして、旅をしながらでも日々の糧を得ていく術を身につけていかなければならないんだ。今までの旅ではなかった、意識にスイッチが入った瞬間だった。そして、Rainbow Familyの仲間たちは、そうした旅の大先輩たちで、彼らからたくさんことを学ばせてもらいたい。

 15時のバスに乗る前は、とても慌ただしかった。自分の大きなバックパックにディジュリドゥ、そして頼まれものサドルバック6つを担いでバス停まで歩くのはとても大変だった。

 ヨヨと電話で話して(そう、ヨヨは何故か携帯電話を持っている、びっくり。こんなワイルドな自然の中を、馬で移動しての旅なのに、携帯電話にラップトップPCまで持っている。ある意味、最先端だよな〜。ヨヨには色々とびっくりさせられる)、教えてもらったRio Monteという所でバスを降ろしてもらったが、バスから出てみれば、そこは橋がぽつりとある何もない、所だった。ありゃりゃ・・・。本当に、こんな所で待っていて、みんなに会うことができるのか?辺りを見回すと、少し向こうに人家が見える。電話を借りて、ヨヨの携帯電話に電話してみよう。電話を借りるために、スペイン語でどのように尋ねたらいいのか辞書を開いて調べていたら、向こうから馬が一頭走ってきた。その馬に乗っているのは、まさにヨヨだ!この人は、つくづく格好いいね。よかった、よかった、無事に会えた、ほっ。ヨヨは再会をとても喜んでくれて、「よし、みんなのところに行こう」と言って、道案内をしてくれた。みんなは、川原沿いにキャンプをしていた。みんな「わあ、タクヤだ!おかえり、おかえり」と大喜びをしてくれた。今晩はちょうど、オーストラリア人のトムの誕生日会で、賑やかな時間となった。

 はあ、兎にも角にも、ようやくみんなに追いついた。ようやく、ようやく、ぼくの HorseCaravanが始まるぞ。


感謝!