長島大陸食べる通信vol.2 山上農園   山上博樹

みかんの歴史が生まれた島で最高の不知火をめざして。

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長島は海のものが格別においしいね、じゃがいもも有名だよね。

ところが、あまり知られていないとても興味深い史実があるんです。
日本の柑橘生産の3/4をしめるといわれ、
日本人が一番食べるあの「みかん」。
そう、温州(うんしゅう)みかんこそ、この長島が発祥の地なのです。
そんなみかんの島ではいろんな柑橘が生産されています。

みかん一筋50年。そんな親父の背中を追う、元サラリーマン山上博樹さん。
全国に知られる有名企業の執行役員という立場から
40歳を機にこみあげてきた家業・ふるさとへの思い。
自問自答を繰り返し、家族のありがたい理解をもらい、ついに決断し長島へUターン。

農家になって、まだ5年。年齢を考えれば“もう5年”になってしまうのかもしれない。
樹を知れば知るほど疑問も生まれる。そんな繰り返しの毎日。
毎年何万個という不知火を育て、送り出すということは
何万という人の口に入るということ。
そのすべてが山上の味として記憶に残るような不知火を育てていきたいと言います。
「まさか自分が農家になるなんて」と冗談交じりにいう博樹さんですが
微笑みの中に、真の覚悟が見えた気がします。
そして、力強いひとこと

「長島に温州みかんが生まれた。
その島で今度は自分のみかんの歴史を
つくってみたいと思うんです。」


※「デコポン」の名称は熊本県果実農業協同組合連合会が所有する登録商標です。よって、全国の柑橘関係農協県連合会を通して出荷された不知火であり、高品質の基準(糖度13度以上、酸度1度以下)を
 クリアしたものが「デコポン」として流通しています。今回長島大陸食べる通信でお届けするものは、山上農園より直接発送することになるため、「不知火」という名称を使わせていただきました。

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博樹少年は、不知火農家だけは継ぎたくなかった!

山上博樹(ひろき)さんは長島大陸の生まれ。幼少期より父・隆之(たかゆき)さんの手伝いしながら、農業に親しんでいた。ただし、当時はまだ機械化が進んでいない時代。 鎌1本で広大な畑の草刈りをしたり、約20キロある温州みかんのコンテナを担いで坂道を登ったりと、重労働が多い時代であった。

「筋トレ感覚だったけどな。鎌はリストの力で使うから、おかげで腕相撲がめ ちゃめちゃ強くなったよ(笑)」

しかし、やはりすべてを人力でこなすのは一苦労。 友達と遊びに行きたかったし、部活の後はゆっくりと体を休めたかった。
でも、両親の仕事が忙しくて手伝いをしなきゃいけないし、頼まれたら断れなかった。その大変さに逃げ出す兄弟もいたという。
「手伝いに行く時間になると姿を消すのもいてね(笑)。 気付いたら俺だけってことがよくあった。おいおいって思ったよね(笑)」
そのうえ、当時は養鶏も営んでおり、年間6万羽を育てていた。出荷の際には、午前0時 から朝方まで黙々と作業を続ける。学校に間に合うようにシャワーを浴び、慌てて朝食を取り登校したこともあった。両親が朝早くから夜遅くまで苦労して働く姿を目の当たりにした博樹少年は

「こんな大変なことはやりたくない、勉強して長島を出たい」

と感じたという。

農作業の手伝いに追われるため、勉強できる時間は限られている。それでも実家から離れたい一心で、家の手伝いの合間をぬって、限られた時間の中で集中して勉強をした。大学卒業後、草創期の家庭教師のトライに入社。
32歳の時に仙台で美由紀(みゆき)さんと出会い、 結婚。34歳から執行役員として休む間もなく全国を飛び回る生活。公私ともに充実した生活を送っていた。しかし、その生活の中でも常に実家の両親のことは気になっていた。親父が65歳を超え、自身が37歳を超えた頃から徐々にソワソワし始めたという。
毎年実家から送られてくる野菜やコメの中に入ってきた「親父の不知火」の味が脳裏をよぎるようになってきたという。 新婚当時の広島勤務時代のことを振り返るように語ってくれた
「スーパーで 不知火を買って食べてみたけど、全く美味しいと感じなかったんだよ。味がしなかったんだよね、他のモノは。なんだかコクが無くて、味が薄くてボーッとしているというか、物足りない...」

世間では美味しいと言われているものが自分には全く美味しいと感じられなかった。その時、初めて実家から送ってもらって当たり前のように食べていた「親父の不知火」の凄さに気づいたという。

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「親父もどんどん年を取ってくるが我が家の不知火はどうなって来るんだろう」

実家の不知火づくりは違う兄弟が継ぐ予定だった。

そのため、美由紀さんにも 「長島町で暮らすことは100%ない」と話 していた。しかし、結婚当時の32歳の頃とは実家の状況が変わり、自身も40歳を迎えようとする頃から実家の不知火園のことを身近な問題として心配するようになっていた。

「親父の育てている不知火の味を消しちゃいけない。一度消えたものはもう元には戻せないから。」

これを聞いた美由紀さんは長島町で生活を始めることに最初は戸惑ったという。
サラリーマン時代は博樹さん がほとんど家にいない状況だったので子育ては大変だったが、田舎の生活とは異なる都会の便利さを享受することもできた。美由紀さんの実家からの反対ももちろんあった。
しかし、美由紀さ ん自身も次第に納得できるようになっ たという。

「私もお義父さんの不知火をなくしては いけないって感じていました。」

こうして、山上夫妻は長島大陸で不知火農家として生きることを決意した。 そこには、夫妻の冷静な計算もあった。 美味しい不知火を作るには高度な技術が必要だ。失敗する人も多い。 でも、自分たちには、そばに父という最高の先生がいる。また、長島を出て都会で働き始めた頃とは時代も大きく変わ り、今はインターネットの発達で、どこに居ても仕事は創り出せる。
親父の味を引き継ぎ、最高のモノを作る技術を身につけさえすれば、インターネットでの販売 や販促活動など、これまでの共販だけ に頼る販売から全国の消費者に直接届 ける方法に変えていくことで、田舎でも 十分生き残っていくことはできる。
これならやっていけるという勝算が立った。

「親父の味を残したい」という情

「味を引き継いで、子供3人を育てることができる」

という理が一致したからこそ長島大陸に帰ることに決めた。
 2011年3月、東日本大震災後の仙台を出発し、当時妊娠9か月を超え、5月上旬に3人目の出産予定日だった美由紀さんの体調も考え、
車で仙台⇒富山⇒名古屋⇒広島⇒福岡⇒長島と、1日500km程度を目安に移動し、4泊5日かけて長島大陸に上陸、ついにUターンとなった。

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栽培が難しい不知火

読者の皆さんは、温州みかんも不知火も同じ柑橘、栽培方法もほぼ同じもの だと思われるかもしれない。
しかし、温州みかんと不知火とでは、まったくといっていいほどその特性や栽培方法が異なる。事実、不知火の栽培は相当難しい。美味しい不知火の栽培はさらに一段と難しいのだ。 不知火の樹は甘夏の三分の一ほどしか根が無い。根が少ないということは、それだけ栄養を吸収しにくいということ。
根からだけでは必要な栄養を補えないことがあるため、栄養剤を直接葉にか ける「葉面散布」をすることもある。

「親父から最初、ヨウメンサンプと言わ れた時は???でしたよ。僕がいた頃は温州みかんと甘夏がほとんど。難しい不知火は、まだやってなかった。見よう見まねでゼロから一心不乱に勉強しました」
と山上さん。

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 そんな不知火作りの大前提となるのが土づくり。土が硬ければ、ただでさえ少ない不知火の根がさらに伸びなくなってしまう 。そこで大事になるのが団 粒(だんりゅう)構造
団粒構造とは、土の粒どうしが微妙にずれ、そのすき間に空気を含んでいる構造である。
そんな構造を持った土を作らなければならない。いわば、たきたての銀シャリをお茶碗にやさしく盛ったときのようなふわっとした土が不知火作りには重要なのだ。
鰻屋さんが秘伝のたれを少しずつ継ぎ足していくように、不知火農家も何年もかけて土を育てていく。だからこそ一朝一夕には美味しいものができないのだ。 育て方も全然違う。温州みかんは水はけのよい、比較的乾燥した土地を好む。圃場にマルチ(水よけシート)を敷き、与える水分を制限することで果実がストレスを感じ、その実に甘みを蓄えるのだ。
不知火はその真逆である。不知火 は乾燥させないようにこまめに灌水することが大切だ。果実肥大期の夏は特に酸抜けを促進するために灌水はもっとも大切らしい。
そのため、山上さんの不知火農園では「しきわら」を している。土の表面にわらを敷き、灌水した水分や雨水を吸いこんだ敷き藁が保水してくれており、水分の蒸発も防いでくれる。また、藁が腐ると土に還り養分となるので、一石二鳥だ。

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「温州みかんは手がかからない、逆にストレス を与えて鍛える男の子って感じだけど、不知火はこまめに連絡をしてプレゼントも渡して機嫌取りをしないとすぐにへそを曲げるお嬢様って感じだな!

と冗談交じりに笑う博樹 さん。
なるほど、言い得て妙である。
 そんな博樹さんの父、隆之さんは柑橘を作っ て50年、農業指導員をして37年の大ベテラン。そんな隆之さんに、ライバルとか、尊敬する農家さんはいますか?と聞いてみた。

「いやぁ、そんな人はおらんね。他人(ひと)と 比べてどげんというよか、我が(わたし)との闘いじゃっでな。農業で大事なのは自分と、そして自分が作る作物だけじゃっでかね 。毎年、状況が違う。その状況に合わせてやるしかない」

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(山上さんのお父さんの隆之さん)

 まさに職人である。隆之さんはいつも不知火や温州みかんのことを考え、毎日農園に足を運ぶ。自分の仕事に誇りを持ち、栽培を楽しんでいるから苦にもならない。むしろ雨が続いて農園にいけない日が数日続くと体調が悪 くなってしまうという。

「これ、見てくれ。」

と渡されたのが栽培日記。
1日も欠かすことなく、ぎっしり書きとめてあ るノートを読ませてもらうと、ずしりと重みがした。 自分の作るみかんの品質を守るために、高度経済成長期のみかんブーム真っ最中に生産量を増やそうとする国や町が進めていた基盤整備事業には見向きもしなかった。議員の息子のクセに言うこと聞かんやつじゃ、と言 われたこともあった

「いっぺんに農地を大き くしてもダメだ。土が育たない。できる範囲で少しずつ増やしていきたい。」

良いモノを作るんだという、ブレない心が大切だという。人間はついつい目移りしてしまうが、それではいい不知火は育てられないと、隆之さんは力を 込める。

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「大事なのは、しゃべらない樹と 会話すること。」

これが隆之さんのモットーである。しっかり樹と向き合い、注意深く樹を観察すればおのずと樹のほうから語りかけてくるという。枝や葉のほんの少しの違いが、自分の健康状態について、その先に実る果実について教えてくれるのだ。息子の博樹さんも、長島大陸に戻ってきてから、毎日、樹を観察し続けた。
父親の教えに基づいて樹の写真を撮り続け、わからないことはすぐ相談した。

「不知火づくりは、盆栽と同じなんです。」

重要なのが光の当て方。粒ぞろいの不知火を育てるためには、光をしっかりと均等に当てることが不可欠だ。
と同時に、風通しを良くするために剪定、整枝は不可欠だ。
どの枝を切って、どの枝を残すのか、空間把握能力が瞬時に求められる。 
もちろん、最初から違いが分かるわけではない。
戻ってきた当初はどの枝も、どの葉っぱもすべて同じに見えた。もしこの剪定作業が間違っていたら大事な実がつかないかもしれない。と怖れを抱きながら花や蕾を摘んでいった。
でも、自分で手入れをするからこそ、見えてくるものがある。
少しずつ樹と話がで きるようになってきた。

そんな山上親子には共通の信念がある。

「農家は、味で勝負。」

 農産物が売れないと、加工品を作ってみたり、売り方を変えてみたり、といった改革をする人は多いが、それは本質的ではない。
味が悪ければそれをいくら加工しても美味しくはならないし、売り方を代えてもお客さんが手に取ることはない。

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「まずは味を極めたい。」

と後継者の博樹さん。 だから、山上農園では敢えて加工品は出さない

「僕らが加工品を出すならば、一番いいものを使って加工品を作りたい。まずいもので加工品は作りたくないんですよ」

樹と向き合い、高品質の不知火、みかんを提供し続ける山上親子の思いはしっかりと次の代にも伝わっている。
 博樹さんの長女、愛叶(まなか)ちゃんが博樹さんの収穫の様子を描いた絵。

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 不知火の樹についている葉が、一枚一枚違う色と形で描かれている。娘も祖父、父親と同 じように自然と樹を注意深く観察し、その一枚一枚の違いをはっきりと感じ取っているのである。
 
先日、博多明太子で有名なやまやの通販部門「やまやの食卓」の仕入、販売担当者が来園。 山上農園の不知火は「やまやの食卓」の特選 ギフトにえらばれて今年で3年目。フルーツ部門ではダントツの売り上げを誇ると喜ばれている。
「雄世、お客さんが来たよ~」と声をかけ ると、4歳の雄世君が、すぐに畑に飛び出した。 なんと、お客さんをおもてなしするために、自分で栽培した白菜を採ってきたのだ。
おじいちゃんの隆之さんの野菜畑についていくうち に、自分でも育てたくなったという。

 隆之さんから博樹さんへ。
そして博樹さんから子供たちへ。
樹と向き合う山上農園の真髄はこれからも受け継がれていく。

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これは長島大陸食べる通信vol.2に収録された特集記事を引用しています。

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山上農園HP

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