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詩:うどんがもうもうと立てる湯気をみていた



うどんがもうもうと立てる湯気を見ていた

立ち上る白い蒸気は色が違えば炎の形状と寸分変わりなく

色が違うだけなのだと思ってみている



年の瀬も近くなり

母がベランダの窓を忙しなく拭いており

「大掃除してたのよ」などという


彼女も立派な日本人なのだという事を感じ入り

またもうもうと湯気を立てる椎茸に見入り

外では冬の風が大げさに洗濯物をあおっていた


窓を拭き終えた母は手首にシップを巻いており

換気扇の掃除をしすぎて痛めたのだと言っていた

ほうれん草も湯気を立てていて

その白い煙を見ているうちに

湯気も炎も

きっと何かが逃げて失われていく過程なのだということを実感した



ニュースでは福島原発のメルトダウン検証についての映像が一通り流れ、特定秘密保護法についての監視室の設置についての話が流れ、為替と株の値動きについてニュースが流れた



「今日は風がすごく強いのよ」


思い出したようにまた母が言い

全てが他人事のようであれば

三人称で書く事はいとも容易いのだとふと気づき

つゆを飲み干し

最後に碗の底に沈殿した胡麻の塊を口に入れると

確かな歯ざわりを奥歯でぎゅっと噛み締めた



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