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詩:ヨハン

視線の先を埋めてヨハン
言葉だけではとても足りない
髪の中をまさぐる冷えた指に血が戻るから
そしたら霧の向こうの菩提樹に石を当てよう

あれはぬるい潮溜りさヨハン
殺された魚達が最後に泳ぎを懐かしむ場所
遠い太古にまだ透明な骨なしだった誰かを探して
仄暗い底の底へと身をくねらせる

そこはサンクチュアリさヨハン
緑色の驟雨は海を紫に染めて
数億のフラミンゴが遠い空をゆっくりと埋める
砂浜の上を幾重にも折り重なるように押し寄せる波は穏やかで
世界のすべての冬が一つの渦になる

愛になんて傷つくなよヨハン
自分をごまかすための檻に閉じこもって
そこがシェルターだなんて悲しい嘘をつく
自分だった頃の飛び方も忘れて
大切だったあのキツネを火にくべている
黄金色の麦畑などとうに消え果てて
今じゃ誰も君を思い出してなんてくれない

腐っていく途中さヨハン
皮膚の裏で崩れる骨の音を聴いて
もうとっくに私達の約束は終わっていて
君の望んだ崇高さは
その演技でもって
今夜、完璧に遂行される

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