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詩集:どこにもいけない

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行き場もなく日々わだかまる言葉達は、詩の中以外はどこにも行けない
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#詩

詩:夕日の小瓶

詩:夕日の小瓶

世の中には
夕日を閉じ込めておける
小瓶があると聞きました
いっとう綺麗な夕日は
一度閉じ込めて蓋をすると貝殻に形を変え
また蓋を開けるとそろそろと
確かめるようにゆっくりと
空に向かって触手を伸ばし
空気に染み出すように外に出ると
真昼や夜中の中に
小さな夕方が一瞬だけ現れるのだと

詩:ふたり

詩:ふたり

からっぽの部屋
ヘビのように絡み合い
体温が上がるのじっとまつ

ガスレンジ、蒼い炎
しんしんと孤独を鳴らし
つかれた目、冷えたゆび
切れたくちびるの味、せつない

かつて私たちは
暗くあたたかな場所
はなれがたく絡み合っていて
お互いをことばや名前で
切り離す必要なんてなくて

いつか灰のように透け、過去となり
風のような音も消え
この世の悲しみを鉛と共に飲み下し
魚となり、泡となりちりぬる

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詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

まちのひかりはおもちゃみたい

あおくわいた雲のかたち

ぎんいろのスプーン。ながれぼし

ひつじの群れはヨーグルト

ステンドグラスのキリン、ライオン

すこしふれただけでぜんぶこわれた

ここにいてもいいよ。を

じっとまっていた

かなしければとうめいになって

プランクトンだけをたべていたかった

それでもつくりたてのアスファルトの上を夢みて

小鳥のしんぞうが止まる日のことを

思い浮か

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詩:きらきらひかるいなびかり

人のいない部屋
亡霊のような埃たち
真夏日の
白昼夢のような高校野球
金属音が切り裂いて
遠のいていく

ぬるい午後
湿った風
べたつく汗
埃っぽい車の排気ガス
あんなに無邪気に
手のひらをくすぐった夏草も
乾きはじめて色が褪せていく
すりぬけていくように消える私の夏

思い出す
何かを思い出す
果てのない海
突き抜けるミントの辛さ
宇宙の心臓が縮んでから
膨らむまでのわずかな間
生まれた命と

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詩:うみのにおい

詩:うみのにおい

あめ
さざめきふるえ
よるのなかにおちる
あさ
しなやかなゆび
まぶたをひらき
せかいは
したしみをこめてはなたれる
かさぶたをはがすたび
かわるまちを
はいいろのぞうのめで
みている
しずかにかさなる
ふりつもっていく
きずだらけでさがす
ひかりのみなもと

詩:沈黙する草原

詩:沈黙する草原

草は呼吸するとき

音も吸い込む

だからそれらがこすりあうさざめきの中に

宇宙の真実を思わせる無音の瞬間が訪れる

それをいつまでも聴いていると

次第に耳の中で何かが生まれて

やがては頭の中を貪りつくしてしまう

だからまぶたをとじてみる

すると不確かな記憶のそこで

何かが揺れていた

幻のような光が

瞳孔

水晶体を通って

分光して

角膜に到達して

いま

像が結ばれる

詩:もう、とっくに春なんだよ

ふとんから抜け出して
裸足で床をふむとき
足の裏にわずかに真昼のぬくもり
そういえばとっくに春なのだと
あなたは気づく

未だに冷える夜に漂う
わずかな昼間のぬくもりとして
あなたの春はそんざいする

あらかじめ炊けるように
セットしていた白米の上に
レトルトのカレーをかけて
暗い部屋の中で
電気もつけずに黙々と食べる
隣の部屋からはテレビの音が
壁越しに伝わってきて
上の部屋からは
仕事を終えて

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詩:ぬるい光線

詩:ぬるい光線

生活が水のないプールならば
僕達はそこに浮かぶ一つの火だ

そういったあなたが
私の口の中にひとすじの唾液を落として
寂しそうに微笑んでいるその最中に
部屋に浮かぶ半透明の蜘蛛は
見えない糸を手繰り寄せながら
音もなく上昇していく

彼もしくは彼女が
願っても永遠に辿り着けない穏やかな春の空を
氷でできた雲が儚くも薄く覆って
そこを飛行機が通り抜けたとき
機体が氷をはじいて
さーっと、音がした

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詩:うどんがもうもうと立てる湯気をみていた

詩:うどんがもうもうと立てる湯気をみていた

うどんがもうもうと立てる湯気を見ていた

立ち上る白い蒸気は色が違えば炎の形状と寸分変わりなく

色が違うだけなのだと思ってみている

年の瀬も近くなり

母がベランダの窓を忙しなく拭いており

「大掃除してたのよ」などという

彼女も立派な日本人なのだという事を感じ入り

またもうもうと湯気を立てる椎茸に見入り

外では冬の風が大げさに洗濯物をあおっていた

窓を拭き終えた母は手首にシップを巻い

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詩:炊飯母系宇宙

ふゆのだいどころ
炊かれていくお米

一合

今は凍るような水の中で
ふつふつと夢を見ている

一同

かつて世界は
巨大なホヤホヤの実におさまり
人はその殻の
内側に住んでいて
地表はそのふるいふるい殻が
崩れて盛り上がった場所で
空は今よりも堅く厚く
その先を見通すなど誰にもできず

真理を告げる樹からは
ホヤホヤの実がパラパラと
生まれ出でては落ち続ける

冷たい水がつぶやくように
熱湯へと

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詩:水中の葬儀

詩:水中の葬儀

鯉の群れが岸に沿う

長い行列つくってて

凍ったように動かない

長蛇の列とはこの事で

綺麗に長く列をなす

黒い魚体が並ぶ様

お葬式の参列だ

冷たそうな水の中

何かを思って身を寄せる

一体何への哀悼か

鯉達だけが知っている

百五十匹以上

泣いたかどうかは分からない

冬の旅路の橋の下

暗い沈黙厳かに

詩:海辺、散歩、冬はさみしい

詩:海辺、散歩、冬はさみしい

空の縁は怪しげな赤色に揺らめいて
それが消え行く赤なのか
これから燃え上がる赤なのかわからない
砂浜の上を幾重にも折り重なるように押し寄せる波は穏やかで
終末の縁を歩いているって感じ

枯れた雑草の草むら。かさかさ音を当てる
卑屈なほどにしなびて曲がった葉の先、赤みを感じるのは何故だろう。
まだいきたいという悲鳴の色だろうか
しなやかさを失った揺れ方、かさかさ、かさかさ

空は光を失いはじめ
岸辺

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詩:ヨハン

詩:ヨハン

視線の先を埋めてヨハン
言葉だけではとても足りない
髪の中をまさぐる冷えた指に血が戻るから
そしたら霧の向こうの菩提樹に石を当てよう

あれはぬるい潮溜りさヨハン
殺された魚達が最後に泳ぎを懐かしむ場所
遠い太古にまだ透明な骨なしだった誰かを探して
仄暗い底の底へと身をくねらせる

そこはサンクチュアリさヨハン
緑色の驟雨は海を紫に染めて
数億のフラミンゴが遠い空をゆっくりと埋める
砂浜の上を幾重

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詩:黄色い朝

雨粒が爆ぜたら未分化な黄色い光が広がって黄ばんだ朝がやってくる

広がった光が止めても止めても押し寄せてきて
隠れても隠れても気づいたら後ろにいるから
もうどこにもいけなくなってしまって灰色の海に浮かんでいるような朝、朝

始まりを聴きながら緑色のまどろみの中に墜落するから
全部溶けてなくなるよ、ぜんぶ、ぜんぶ
だからそれまでに私に追いついて

すべてがなくなってこの冷えた土の上が一体どこだか分か

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