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グッドモーニング・ベトナム日記 速水健朗

3月30日 月曜日

35年ほど前、村上龍と坂本龍一が対談で、戦争が始まると最前線でラッパを吹くのが音楽家、遅れて後方で筆を執るのが作家という話をしていた。職業と前線という話になっていたが、いやこれは両者の作家性の話だ。坂本は前線に行きそうだし、龍はそれを後ろから見ていそうなタイプ。作家が後方でやる仕事かというと違って、炭鉱のカナリア的な能力は、素早さが身上のジャーナリストより、むしろ批評家や小説家の資質という気がする。人よりも早くに事態の本質に気がつく能力。で、僕はというと真逆、鈍感の極みで、勘の良い人たちの意見を感服して眺めている側。腰も重いし取り立てて人と違う主張があるわけではない。ではあるのだけど、今日から、月〜木のTFM(編注:TOKYO FM)で「Tokyo Slow News」というラジオ番組を始める。非常時に向いてないライターが、100年に1度の非常時のニュースを担当し、一体どうなることやら。ちなみに初日の番組、元現代ビジネスで面識のある瀬尾傑さんと議論。検証報道について。デマに人は流されるのではなく、合理的にデマを選び取っているという佐藤卓己の話も。志村けんの死去にも触れる。「クロノス」が始まったときは、2回めにプリンス死去の報を受けたことを思い出す。終了後、妹から聞いていたよとLINE。40年前だけど「だいじょーぶだー」と真似していた妹は、今もDVDボックスを買ってまでかつてのドリフを子どもに見せている。


4月13日 月曜日

同じ「団地団」(イベントチーム)のメンバーでもある妹尾朝子さん(漫画家名”うめ”)の「大金持ちが何億ドルも無駄にする話。もしくは『スティーブズ特別編』」がツイッターでバズっていたので、即フェイスブックで取材して番組で取り上げた。ビル・ゲイツがワクチン開発の支援をする話をうまく「味覚」に絡めた番外編。一方、自分の番組開始前にチーフがスタジオに来て大事な話を聞かされる。先週、番組出演した報道記者が週末、発熱したとのこと。僕も濃厚接触者であるかもしれないとのこと。同じ狭いスタジオで感染者(まだわからないけど)と時間を過ごした。軽く動揺。オンエアも集中できず。放送が終わっても、まっすぐ家に帰っていいものか。家族に移す可能性がある。家人にLINEで状況を説明。このままクルマで御宿に行く手もある。またはホテルに移動するか。「とりあえず帰っておいでよ」。家人の一言で帰ることに。放送終了後、放送のサブルームでスタッフが明日以降の対策について協議している。この状態をすでにこちらは怖いと思っている。先週のカリンさん(編注:「Tokyo Slow News」での共演者、ジャーナリストの西村・プぺ・カリン氏)がそそくさと帰った姿を思い出しながら、そそくさと帰る。


4月15日 水曜日

一昨日の月曜夜から家族からも基本距離をとって自分の部屋にて生活している。自主的な隔離状況。今日、先週同じスタジオに入ったスタッフの発熱が、本日正式に陽性と判明したと連絡を受けた。うーん、発熱の症状あるのにがんばって出社しちゃったスタッフが肺炎を起こし、というケース。報ステ富川アナと同じやつ。僕は、そのとばっちりの徳永アナと同じ。ちなみに、昨日一緒に仕事をしたスタッフも同じフロアで働いているので感染可能性あり。怖いというよりも悔しい。なぜだろう。自己防衛ができないことへの徒労感。それなりに気をつかって、打ち合わせやゲスト対応をおこなってきたのに、自分以外はノーケアだったことがわかったから。番組を始めて2週間、こちらは出入りの業者なので、単に仕事を失う可能性がある(この可能性はいまだ継続中)。同じことはどこの会社でも起こってそう。

速水健朗(はやみず・けんろう)
1973年生まれ。ライター。メディア論、都市論など。妻1人。猫2匹。仕事場を構えている千葉の御宿の海沿いと東京の自宅を愛車のマーチカブリオレで行き来してる。またはスタバなどが仕事場。著書『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』『東京どこに住む』など。ラジオパーソナリティとして「TOKYO SLOW NEWS」(TOKYO FM 月~木夜20時)担当。


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