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第6話 『復讐のペペロンチーノ』


① ドーヴェPCルーム?

今日はイタリア語学校の授業が終わった後、先生のカーティアにどこか学校の辺くでインターネットができるような場所がないかを尋ねてみました。

この日の授業で『Doveドーヴェ』(どこですか?)と尋ねるイタリア語を習ったので『ドーヴェ インターネット?』と適当に言ってみただけで決して驚異的に語学能力が向上したわけではありません

カーティアによるとインターネットというつづり『Internet』もイタリア語式に読むと『インテルネット』となるみたいです。イタリア語は一部を除き、ほぼローマ字読みなので『ter』だと『ター』ではなく『テル』と読むことになるからです。逆にややこしいですね。

思い起こせばミラノからボローニャまで乗ってきた電車も確かに『インターシティ』ではなく『インテルシティ』と呼ばれていました。

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ちなみに『インテルはいってる』で有名な『インテル・コーポレーション』というアメリカの会社は『Integrated Electronics集積されたエレクトロニクス)』の略称が由来とのことですので、このイタリア語とは全く無関係です。

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集積されたエレテクロトシックス△○✕…!?
頭の良さだけが自慢の僕には何のことやらさっぱりです。


さて、インテルネットについては校内にPCルームと呼ばれる専用部屋があって、そこでできるとのこと。

この学校内にそんなハイテク設備があったとは…!

事務室へ行き、困った時の頼れるおねーさんこと事務員のアレッシアに今度は『ドーヴェ PCルーム?』と尋ねてみます。

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なんと、アレッシアにも一発ストレートで言葉が通じ、スムーズに案内してもらうことができました。

ドーヴェ』ちゃん、めっちゃ使える子やん!
この快挙に僕の中で『ドーヴェ』の株は急上昇です。

フロア奥のらせん階段を登った中2階的な場所に…

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PCルーム発見です!

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おおおおおお!

機材はそこそこ年季が入っていますが想像以上に立派な部屋でびっくりしました。中2階という隠し部屋っぽい秘密基地感にも微妙にテンションがあがります。

早速、空席に座ってPCをいじってみましたが日本語サイトを閲覧することはできるものの日本語対応ソフトが入っていないため、キーボードを使っての日本語入力はできないようです。

ひとまずフリーメールで両親宛てイタリアに到着してから初めてのメールローマ字だけで書いていると徐々に授業を終えた生徒さんたちが集まってきて、すぐに部屋は人でいっぱいになりました。秘密基地感は台無しです。

他の利用者さんたちを観察していると個人のノートPCにルーム内のLANケーブルを差し替えて使っている人も多くいるようです。

僕も日本から手のひらサイズのコンパクトPCを1台持参してきているので、それをつないでもいいなら今後は日本語入力も問題なくできそうです。

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PCルームは場所さえ空いていれば特に時間制限もなく無料で使い放題とのことで、ガブリエッラ邸にはネット環境がなく困っていたので、これは非常に助かります

ルームを利用している人たちはみんな図書館やネットカフェのように静かに作業をしており、僕と妻も会話を交わす時は必然的に小声になります。

ところが突然、部屋の中に大きな音で音楽が流れ始めたのです。

おどろいて振り向くと音の出どころは一人のアジア人女性でした。彼女が自らのノートPCに保存してあるBGMスピーカー再生しながら作業し始めたのです。

聴きたいならイヤフォンをつければいいのに『ルーム内にいる他の人たちにも聴かせてあげるわよん!』とでもアピールしたげな、なかなかの大音量です。

イントロに続いてが始まりました。どうやら韓国語です。

…はて!?

僕は韓国語の歌なんて一曲も知らないはずなのに、なぜかメロディーに聞き覚えがあります。

これって、沢田知可子の大ヒット曲『会いたいですやん!

今年も海へ行くってぇ~
いっぱい 映画も観るってぇ~
約束しーたーじゃない
あなた 約束しーたーじゃぁなぁ~い♪

日本の泣ける曲ベスト3に入る往年の名曲です。

でも歌詞は韓国語アレンジも部妙に違うので良く言えばカバー、悪く言えば完全にパクっとるやないかい!というやつです。

その後も聞き覚えのある楽曲の韓国語バージョンがいくつか流れ、聴いている本人は一緒に口ずさみながら体を揺らしてノリノリ

他の利用者さんたちも口には出しませんが困惑した表情を浮かべています。

マナー悪ぅ…!

…あ、ちなみに僕は別に韓国という国や韓国の人たちに対して偏見や敵対心みたいなものは特にありませんよ。ただ今回は単にそういったマナー違反な韓国人の方が約1名いらっしゃったというだけの話です、あしからず。

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② はじめてのメルカート

『…あ、ナオコ発見!

PCルームに韓国語版『部屋とYシャツと私』が流れはじめる中、デスデス・ナオコ悪役レスラーのリングネームみたい)が入場してきました

『現れやがったなぁ~!』
デスデス~♪

昨日は携帯を失くしてひどく落ち込んでいましたが今日はもうショックを吹っ切ったのかカラッと元気そうで一安心です。

ナオコが何度か足を運んでいる市場(メルカート)今から案内してくれるというので一緒に行くことになりました。

僕らが食材の買出し拠点にしているスーパー『In's(インス)』は安くて便利なのですが生鮮食品の取り扱いがないので『どこか野菜や肉を買える店を知らないかなぁ?』と昨日相談していたのです。

ナオコは市場へ行く途中にも生活に役立ちそうなお店をいくつか教えてくれました。

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トゥット99チェント』はいわゆる日本の百均みたいなお店です。厳密には99円均一ショップですね。『トゥット』はイタリア語で『全部』という意味です。

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日本の百均と同じく、雑貨からキッチン用品まで店内にあるもの全て99チェントで買える便利なお店でした。

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イタリアのお金は100チェント(セント)で1エウロ(ユーロ)となり、だいたい現地の相場でイメージすると1チェントが日本の1円1エウロが日本の100円といった感覚です。

実際の為替ではだいたい1エウロが120円~150円くらいの間ですので、日本よりはやや物価は高めということになります。

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エウロ紙幣はカラフルでお洒落ですし、コインも価値が高くなるにつれて徐々にデザインが豪華になっていくので直感的に分かりやすくて良いですね。

やがてお目当てのメルカートへ到着。

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わわわ!

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すごい品揃えです。

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肉や野菜やチーズなどの専門店がズラリ

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料理人として売られているあらゆる食材が気になります

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でも、欲しい物をカゴに入れてレジに並べばいいだけスーパーとは違って販売しているイタリア人と直に会話をして購入しなければいけないため緊張してしまいます。

また、スーパーのレジなら合計金額が画面に表示されますが、ここでは口頭で金額を伝えられるため、うまく聞き取りができなければ、まともに適切なお金すら用意できずハードルが高いのです。

しかし、せっかくここまで来て怯んでいるわけにはいきません

なにせ僕はこんな感じの生鮮市場なんて日本のイタリア料理店で働いていた頃買出しで『おっちゃん、コレちょうだいっ!…でも、裏の倉庫にもっと新鮮なやつ隠してるんとちゃうの?』『ヘイ、にいちゃん毎度おおきに!倉庫の中、勝手に入ってええから好きなん選んできてや!』と毎日のようにやりとりをしていた、いわば普通の人以上の『市場通いの常連』だったのですから。

勇気を出し、とにかく親しげな笑顔で欲しかった野菜を指差して『コレとコレ!』と元気に申し出てみたところ、店頭表示価格よりも1エウロほど値引きしてくれたあげく、帰ろうとしたときにわざわざ少し追いかけてきて僕の買い物袋にリンゴまで放り込んでくれたのです!

なんて気前のいい八百屋さん!
すみません、男ですが好きになってもいいですか!?

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やはり、こういう『自然体のノリ』って万国共通で重要なんだなぁ…と実感した出来事でした。


③ 復讐のペペロンチーノ

今日はナオコのおかげで野菜以外にも色々な食材を手に入れることができました。

とにかくイタリアの野菜はどれもこれも巨大

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ナスビなんて、もはや僕の顔と同じくらいの大きさです。野菜が育つのに最適すぎる『地中海性気候』ならではの恩恵なのでしょうか。何度も言いますが僕は頭が良いのでよく分かりません

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ガブリエッラ邸の共同キッチンにある共同冷蔵庫で僕らに割り当てられているのは、この上から2段目のわずかなペースだけです。

もはや今日買った野菜と水のペットボトルだけでほぼ埋まってしまいました。まともに自炊していたら絶対に足りるわけのない面積です。

基本的に買ってきた食材を使いきってから次の食材を買う…というスタンスでやっていくしかなさそうです。

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今日はメルカートで唐辛子も入手できたので夕食には得意のペペロンチーノパスタを作ることにしました。

ご存知の方も多いでしょうけど日本でぺぺロンチーノというと誰もがオイル系パスタのことを想像しますイタリア語でペペロンチーノというと単なる『唐辛子』の意味になります。

ペペロンチーノパスタの正式名称は『スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ』という長い名称で『にんにくとオリーブ油&唐辛子のスパゲッティ』という意味になり、要は入っている素材の名前を全て並べただけのネーミングなのです。

この最後の『ペペロンチーノ』という愛嬌のあるワードだけを取り出したせいで日本では『春キャベツのペペロンチーノ春キャベツの唐辛子?)』などという意味不明なメニュー名がまかり通ってしまっているわけです。

ちなみにイタリアの唐辛子1㎝~2㎝程度と日本で一般に見かける鷹の爪に比べると小ぶりでシワシワです(虫みたいでちょっと気持ち悪い)。

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ただコレ、小粒のくせに日本の唐辛子よりもはるかに辛いんです。

僕は割りかし辛いもの好きなのですが妻は苦手であるためペペロンチーノのパスタを作るにしても、なるべく辛くないようにしてほしい…との注文が入ります。

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仕方がないので最低限の辛味と風味を引き出したあとは全て取り除いてマイルドに仕上げることにしました。隠し味ガブリエッラが保管していたアンチョビを少しだけ勝手に使ったことはココだけの秘密です。

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ブォナッペティート!いただきまーす!

我ながら、なかなか美味しい出来栄えです。

妻も『うん…まぁ、これくらいの辛さやったらウチでも食べれるわ~』とご満悦の様子。

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…うぐっ!?

突然、妻の動きが止まり、見る見るうちに涙目に。

『どないしたん? のどでも詰めたんか?

半分白目で開かれた妻の口の中のペペロンチーノの中に噛み砕かれたペペロンチーノが!(表現がややこしい!!

どうやら一粒、僕の除外選別を逃れた唐辛子が紛れていた模様…。

妻『…辛いっていうより、もはや痛いわ!』
僕『あっはっは~!そら、ゴメンやでぇ~』
妻『…あかん、許さん! 罰としてお前も喰えっ!
僕『何でそうなるねんっ!…ちょ、それ生のヤツ絶対ムリやし!』
妻『同じ苦しみを味わえ~!』
僕『…や、やめろぉ~!』
妻『おとなしく口を開けんと鼻に詰めることになるで!』
僕『ぎぃややややぁぁぁあ…!!!

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《つづく》

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