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#19【サンフレッチェ広島レジーナvs INAC神戸レオネッサ|試合レビュー】ゲームコントロールで生まれる差|第46回皇后杯準々決勝


皇后杯準々決勝・INAC神戸との試合はレジーナにとっては懐かしさもある広域公園第一球技場(現:サンフレッチェビレッジ)で行われた。INAC神戸はフェロン体制2年目のシーズンで、ゲームコントロールを軸にした巧みな試合運びで勝ち重ねる強豪だ。

前回対戦のリーグ戦第1節では、組織的なハイプレス戦術によって試合全体を通して優位に立ち引き分けに持ち込んだため、苦手意識がある相手ではない。

スタメンでは水曜日に行われたリーグ戦の影響もあり、島袋・古賀・李の3選手がスタメンとなった。温存かと思われた中嶋はベンチ外だったため、コンディションなどに問題を抱えているのかもしれない。

※Youtube配信を参考にレビューを書くつもりがJFAがアーカイブを消してしまったため動画を参照できず分かりにくいかもしれません。


神戸のゲームコントロール

INAC神戸はスペイン人のフェロン監督が就任してから一貫して「ゲームコントロール」を主題に戦術を構築してきた。スペインサッカー=華麗なポゼッション、組織的なゾーンDFと思いがちだが、これらはあくまで手段であって、目的はあくまで「ゲームコントロール」だ。

保持・非保持を含めた全ての局面において、自分たちの思い通りにコントロールし、試合を均衡させた状態から相手を上回り勝利を収めるのがINAC神戸のやり方である。この試合では、神戸の緻密なゲームコントロールによって、終始相手ペースで進められてしまった。

前に急がないビルドアップ

神戸の保持は前に急ぐことはなく、ピッチ上の全員が正しくポジションを取りながら、ボールホルダーが相手を見て穴を突く丁寧なものであった。

前に急ぎすぎると陣形が間延びして、ロストした瞬間にスペースができ、カウンターを受けるリスクが生じる。神戸の保持はボールを失った時のリスク管理も考慮されているのだ。

具体的な形としては、GK+2CB+DHの4人でビルドアップを行い、広島のFW2人対して4対2を形成した上でフリーの選手に繋ぐのを徹底していた。

広島も前線からのプレッシングは磨いてきたはずなのだが、神戸の相手を見たビルドアップによって1stプレスが機能不全に陥っていた。本来であれば我慢強くアンカーを消しながら、サイドに誘導したいのだが神戸の選手の駆け引きの上手さに焦れてしまった部分もあるだろう。

さらに、中盤の選手が焦れて前に出てしまうと、それによってできたスペースを使われてしまう。「自分達が動くのではなく相手を動かす」、広島とは保持のコンセプトが全く異なっていた。

ロングボールとセカンド回収

ボール保持だけでなく、ロングボールによる陣地回復とセカンドボールの回収もデザインされている。広島としてはプレスで嵌めたと思う2歩ぐらい手前のタイミングで、ロングボールによって逃げられてしまった。

ロングボールのターゲットには長身のスアレスがおり、背後へのランニングで陣地を奪うと共に、跳ね返された時に備えてMFの山本やパオラがセカンドボールに備えていた。

ボールの失い方や失ってから奪い返すまでもデザインされており、広島としては自分たちの思い描く展開を作ることが難しかっただろう。

スペースを与えない守備

INAC神戸の好調の要因となっているのが、スペースを与えない組織的な守備だ。高い位置ではアンカーの笠原を消す4231で中央を閉じながら、サイドに誘導し、素早いスライドによってスペースを消すことで広島の自由を奪っていた。

スライドやプレスバック、ラインコントロールなど、縦横の移動に対する意識も非常に高い上に、出る出ないの判断、パスコースの切り方など、組織的な意思統一も高い水準で行われいた。

そして、組織的な守備でボールを奪った後は、前に急がずやり直してビルドアップを始めるといったサイクルを形成する。保持→ネガトラ→守備→ポジトラといった4局面の循環の全てを緻密にデザインし、ゲームをコントロールしながら優位に立っていた。

広島側のいくつかの誤算

相手に上回れていた要素もありつつ、広島側にもいくつかの誤算があった。細かい部分で噛み合っていれば、もう少し互角の展開になったかもしれない。

1つ目は「上野の不調」である。この日の上野は後方からのパスに受けて味方に繋ぐ部分でのミスが目立っていた。上野が持つ基礎技術の高さからは想像できないようなミスでもあったため、コンディションなのか、芝なのか、相手のプレッシャーがキツいからなのかは不明だが、何かあったのは間違いないと思う。

「このパスを正確に繋いでくれれば…」「ここでキープをして展開してくれれば…」といった場面でミスを繰り返しており、ここまで広島の戦術的な核のような選手でもあったため、チームに対する影響も大きかったはずだ。

さらに、上野はトップ下〜右IHのような位置でプレーしていたが、上野の癖としてIHで起用すると前に出過ぎてしまい、サイドにボールが出た際のサポートが途切れるシーンも目立った。

小川がこのポジションをやるとサポートと裏へ飛び出すタイミングなど的確に行うのだが、上野は小川ほど広範囲に動くタイプではないため、保持で詰まるシーンも増えていた。(※動かない良さもある)

この部分に関しては島袋が上がって立花が絞ってIH役をやって補おうとしていたが、サイドに展開した際の孤立状態を補うには至らなかった。無闇に近づかずに幅を取った島袋にスペースを与えているのだとしたら、島袋自身が相手を剥がして前進したり、縦だけでなく中央に向かって運んだりなどの選択肢が必要だ。

2つ目は「SHで出場した古賀」だ。彼女が悪いというよりは、設定したタスクに対して展開が裏目に出てしまった印象だ。

古賀選手に与えられたタスクは個での打開ではなく、クロスに対するフィニッシャー役であった。そのため、サイドに展開した際にはボックス内に入ってクロスを待つ傾向が強かった。

しかし、それによってサイドが孤立してしまった部分もある。中嶋であれば1対1で孤立させてもいいのだが、藤生や島袋を孤立させても、可能なのは大外からのクロスぐらいだ。

クロスに対してボックス内に配置した上野・李・古賀で得点を狙う意図は理解できるが、SHがボックス内に入ってしまうことで、サイドの攻撃が単調になってしまったのは否めない。

神戸のDFラインは代表クラスの選手を揃えており、単純なクロスで得点を期待するのは難しい。「サイドに展開してもう1つ何か...(例:ポケットを取るとか)」という場面でシンプルなクロスしか選択肢がなかったのは残念である。

1本だけ藤生から逆サイドの島袋への大外→大外のクロスが通ったが、ゴール前に古賀・李・上野を集めるなら空きやすい大外をもっと狙って意識させた方が良かったかもしれない。

試合を殺す神戸の自信

後半神戸は5バックに切り替えて守備を堅める方向に舵を切った。普通であれば守りに徹するには早い時間帯だったが、それでも神戸は1点差であれば十分と言わんばかりに自信に溢れるの決断を行った。

5バックに切り替えると当然ラインは下がり、一見すると広島側が押し込んだ展開になったのだが、有効な攻撃ができてはいなかった。神戸の541ブロックも中央のスペースを堅めることに集中しており、サイドは意図的に捨てることで「中央のスペースを空けるぐらいなら無理には寄せず大外からのクロスはOK」といった割り切りも伺えた。

さらに、神戸は決してゴール前で跳ね返しに徹していただけではない、跳ね返すたびにDFラインを押し上げ、相手をゴールから遠ざける作業を細かく行っていた。(スタンドにも「ライン(上げろ)!」という声が響いていた。)

組織的な完成度の高さと能力及び意識の高い個を併せ持った541ブロックから得点を奪うのは簡単ではない。神戸にとっては541で守り切る選択肢もゲームコントロールの一環なのだ。

WEリーグ杯決勝に必要な改善点

「神戸の組織力と緻密なゲームコントロールによって、相手の掌の上で進んだ試合」というのが終わった後の印象だ。浦和やベレーザのように個の能力は高いが、組織的な隙があるチームは勝機を見出せるのだが、神戸は破壊力はないものの、組織としての隙がなく難しい試合を余儀なくされる。

ただ、1週間後にはWEリーグ杯決勝での再戦が控えている。90分の中で相手を上回る瞬間は少なからずあったため、勝機を見出すためにも試合内容を整理する必要があるだろう。

1stプレスの整理

まず最初に1stプレスの整理は必須だ。神戸のGK+2CB+DHによるビルドアップに対して、我慢強くプレスを遂行しなければならない。プレスに関しては「焦れないこと」「誘導するプレスと奪うプレスのメリハリ」の2点が重要だ。

相手の選択肢が限定できていない状態でボールに突っ込むとパスコースを空けてしまう。周囲の状況を確認してプレスのタイミングやスピードを調整したい。特に、GK→DHへの間を割られるパスは絶対に防ぐ必要があるだろう。

また、ビルドアップを制限するだけでなく、奪いに行くための設計が必要だ。それに関しては前半39分のシーンがヒントになるだろう。このシーンでは、李がCBのコースを切りながらGKに対してプレスをかけ、逆サイドのCBに対して立花が前に出ることでボール奪取に成功した。

ポイントは「スイッチを入れるタイミング」「SHの加勢」だ。4対2の状況だとパスコースを塞ぐのは困難だが、立花の加勢でプレスを3人に増やし、パスコースの遮断で相手の1人を無効化すれば、プレスを嵌めることができる。

また、できれば右CB土光からGKへバックパスが送られた瞬間にスイッチを入れるのが理想的だ。理由としては、右CBからGKへのパス、GKから左CBへのパスは左足でのコントロールが余儀なくされるからだ。

神戸のGK大熊と左CB三宅はどちらも右利きなので、プレッシャーをかけた状態で左足でのコントロールを余儀なくさせればミスを誘えるかもしれない。

ただ、左CB三宅→GKへのバックパス時にスイッチを入れるのは慎重に
判断しなければならない。試合を見た印象として右CBの土光は足元が上手く、キック精度も高いため、プレスを剥がされたり、ロングボールで逃げられる可能性が高い。

裏への意識と左右の揺さぶり

縦横をコンパクトに守る神戸に対して、左右の揺さぶりは必要だ。この試合でも笠原や瀧澤によるサイドへの展開が見られたが、サイドに展開した後の判断も重要になる。

例えば、サイドを替えても神戸のスライドが早くスペースがない場合には、やり直してもう1度サイドを替えるぐらいの判断も必要だ。さらに、サイドを替えてスペースのある状態でボールを持った際、相手を見ながらプレーする意識も求められる。

適切なサポートや背後へのランニングも整理が必要だが、サイドチェンジで相手に横移動を強いているタイミングで相手の逆を取るプレーも欲しいところだ。

【後半47分:右サイドからパスを受けた市瀬が縦パスを刺す】

アタッキングサードでの勇気と余裕

アタッキングサードでは攻撃が単調になってしまった。もちろんクロスを上げ続けてスクランブルの中で運良く1点を取るのもいいが、もう1つ展開を作って相手が嫌がるようなチャンスを構築する必要もあるだろう。

ただし、ブロックを形成してスペースを消す神戸相手に、DFラインを崩すためには、相手を見ながらプレーをする意識が必要だ。

例えば、78分の島袋のクロスのように、ドリブルで運んで相手の視線を変え、DFの背中を取るようなプレーも良いだろう。79分の渡邊から小川へのスルーパスのように、キープしながら相手を引きつけて裏へのアクションを行った味方に繋ぐのも良いアイデアだ。

物理的なスペースが少ないゴール前では、「相手の逆を突く」「相手を留める」などのプレーで、DFの守備範囲を一時的に狭める意識が必要だ。パスの出し手の勇気と余裕を持ったプレーに受け手が呼応して的確に動き出せば、神戸相手でも質の高い攻撃ができるだろう。

79分:渡邊→小川へのスルーパス

【23−24年WE杯・千葉戦:ドリブルで運んでDFを横に動かす渡邊からDFの背中を取った髙橋の動き出し】

次節に向けた雑感

組織力で上回られた試合ではあったが、勝てない相手かと言われれば決してそうではない。神戸も豪華なDF陣を揃えてはいるが、前線の破壊力には欠けている。

個で優位性を得るWGを抱えている訳ではないため、チャンスはFWスアレスへのクロスと、クロスからのこぼれ球、セットプレーに限られる。あくまで守備に軸足を置いたチームであり、先制点を奪われなければ勝つチャンスは十分あるだろう。

やれていた部分もあるし、1週間でも修正できることは多い。2024年ラストゲームを笑って終えるためにも、やれることは全てやって決勝戦に全てをぶつけよう。

(追記)
試合中、神戸ベンチのフェロン監督が「ベンガ!ベンガ!」と言ってて「本場のやつだぁ!」と思いました。(↓参考↓)

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