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慎重に、しかし素早く #ルーキー・スマート vol.4

ルーキー・スマート|ROOKIE SMART
著者:リズ・ワイズマン|Liz Wiseman
和訳:池村 千秋
発行:有限会社 海と月

この記事は前回の続きとなります。

【前回のあらすじ】
○ 狩猟採集民はとにかく専門家の情報を求める
○ 他人の意見を集めて精査する
○ 大勢の人の協力を得る

ルーキー・スマートも長編になってきましたが、それぞれのセクションに分けて書きたいと思うほどの良書なので、もう少しお付き合いください。

今日はルーキー・スマート3つめのモードである“ファイアウォーカーモード”についてのお話しです。

ファイアウォーカー。火の上を歩く人=火渡りの儀式を行う人を指します。よくイッテQとかに出てきそうなあれです。

火渡りは一見精神や忍耐の強さで乗り越えているように見えますが、実は科学的法則に基づいて執り行われています。

足元に敷かれた石炭は熱が伝わりにくいため、石炭の中心部の熱が足の裏に伝わるまでには時差があります。ファイアウォーカーは、熱が足に伝わってくる前に慎重にかつ素早く渡り切ります。

ルーキー・スマートにもこの「慎重に素早く」という特徴が備わっています。

慎重さと素早さのバランス|ファイアウォーカーモード

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ファイアウォーカーモードを理解するためには、「慎重」と「素早さ」という言葉の矛盾点について理解するところから始める方がいいでしょう。これは本書で明記されていないので、私の所感です。

火渡りの儀式で例える慎重さとは、経験による慣れた行動を捨て、毎回真剣に動作を確認しながら行うことを差すと私は考えています。

熱しられ火を纏った石炭の上を歩くという行為をいつも通りの流れ作業的にやってしまうと、その日の気温や風の影響で微妙に変化する熱伝導のタイミングを見誤り、火傷を負ってしまう可能性があります。そのため、ファイアウォーカーは常に初心を忘れず、一歩一歩慎重に進みます。

素早さとは先述の通り、熱が伝わる前に素早く渡りきるところに由来します。ルーキーにおけるファイアウォーカー思考とは、まさにこの2つの合わせ技によって成り立っています。

ファイアウォーカーの思考パターン

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ルーキーにおけるファイアウォーカーの思考パターンは非常に興味深いです。

新しい場で実力を証明したいという強い思いがあるので、焦燥感を抱いて行動します。

ルーキーにはお決まりのセオリーがないので、取り組む課題ひとつひとつが初めての経験です。そのため、当然自分の行動が合っているのかどうか慎重に判断します。足を離すタイミングは適切なのか、次はどの石炭へ歩みを進めるべきか…

しかし、悩んで進めずにいると石炭の熱が瞬く間に足裏へと伝わり、大火傷を負います。だからこそ、慎重に考えながらも素早く歩を進めるのです。

反対に、いつも通りの流れ作業を一定のペースで繰り返し行う現象を「慣性」と呼び(慣性の法則でおなじみ)、本書ではその特徴を持ったベテランを「マラソンランナー」と喩えています。

マラソンランナーは長距離走を前提に動いているので、当然完走できるペースで走ります。そのため、短距離走のペースでダッシュしてくる素早い人に追い抜かれます。

ファイアウォーカー3つの特徴

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ファイアウォーカーの行動パターンには3つの特徴があります。ビジネスの世界において、マラソンをしている先人たちをダッシュで追い抜く術がここに集約されています。

▼その① 計算された小さな動きをする▼

初めて訪れたホテルや旅館を想像してみてください。夜中、周囲は真っ暗。そんな中お手洗いに行きたくなって起きたとします。あなたはその時、どんな行動をしますか?

瞬時にお手洗いの場所を認識し、大股やダッシュで大胆に動く人はあまりいないでしょう。大抵の人は手を伸ばしてテーブルや壁の存在を確認し、慎重に歩いていくと思います。暗闇に目が慣れてきてようやくペースを上げられるのではないでしょうか。

これは起業家においても同様で、様々な研究によると多くの起業家は大きなリスクを取っているわけではないのです。むしろリスクを取り除いて慎重に進めています。

ペンシルバニア大学のアダム・グラントさんの著書“ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代”でも語られているように、Nikeの創業者は副業でNikeを始め、7年経ってようやく本業の事業に切り替えていますし、メガネ業界に革命を起こしたWarby Parkerも創業者である4人の学生は学生時代にビジネスをスタートさせましたが全員しっかり卒業しています。

起業というと大学を辞めて企業する、仕事を辞めてから会社を作るというイメージが強いですが、実は傑出した起業家の多くはリスクを最小限に押さえながら、かつ素早い事業展開を意識的に進めているのです。

起業家は一から自分たちの世界を作るので、まさしくルーキーそのものと言えます。

▼その② 素早く成果を出す▼

知識とスキルが不足しているルーキーは、早く前に進もうとします。本書では、ルーキーは迅速に結果を出すことにおいてはベテランよりも60%も高い評価を得ているとされています。

ベテランは自分のペースを守ることを第一に考えているので、慣性の法則にしたがってじっくりと取り組みます。しかし、時代は常に流れ続けているので、自分の都合でゆっくり走っている人を待ってはくれません。

これは私の所感ですが、素早く結果を出そうとする人の方が失敗する確率は高いかもしれませんが、フィードバックを得られる数も圧倒的に多くなるのでその分速いペースで強化されていくのだと思います。

筋トレで喩えてみましょう。

人間の筋肉は、限界ギリギリのトレーニングを行うことで筋繊維が切れます。その切れた筋繊維が元どおりに修復される時に、次回来るであろう同じ負荷に耐えられるように自身の体を強化します。そうして筋肉量が増えるという仕組みです。

仕事においても同じで、初めは失敗もするでしょうし、その度に厳しいフィードバックが返ってくることも想定されます。しかし、そこでついた傷は筋トレで切れた筋繊維と同じで、次の仕事を乗り越えるために必要な傷です。

この思考を持つことで、初めての仕事のように慎重にかつ素早く行動し、成果を出すことに繋がると私は考えています。

▼その③ フィードバックとコーチングを求める▼

ルーキーは、未知の世界を慎重にかつ素早く進む時に、自分が正しい道を進んでいるのかどうかを確認するためにフォードバックを求めます。

当然、初めての領域の仕事となると正しい基準がわからないため、間違ったままの道を進んでしまうとせっかくのファイアウォーカー思考も台無しです。

フィードバックを求めるということは、仕事の成果を図る指標となるとともに人脈を育むことにも繋がります。

人脈を育むと、前の記事でお話しした専門家のネットワークも築きやすいので、より一層強くルーキー・スマートを発揮することができるようになります。

あなたがもし会社でルーキーの立場なら、遠慮せずにどんどんフィードバックを求めましょう。

あなたがもし会社でリーダーの立場なら、ルーキーが遠慮なくフィードバックを求められるような組織風土を作ってあげましょう。そして、リーダーこそ、ルーキーの視点で他者からのフィードバックを受けましょう。

ファイアウォーカーになるための具体策

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ファイアウォーカー思考を手に入れるためには、必ずしも焼けた石炭の上を歩く必要はありません。燃え盛る炎に近づくだけでも十分前進できます。

① リスクを恐れないように、実験の場を決める

自分自身の仕事を「失敗が許されない仕事」と「失敗しても挽回が効く仕事」に分けてみましょう。そして、後者の方をファイアウォーカーの実験場にします。

そして、失敗したときの挽回策もあらかじめ考えておくと、失敗=恐怖ではなく失敗=経験という考え方に切り替えることができます。

仕事での失敗は社内での立場や人間関係への影響を恐れて避けたがる人が多いですが、むしろどんどん失敗を経験した方が傷も多くなり、強く成長できるので、結果的に能力の向上と信頼の獲得に繋がります。

② 現場で手を真っ黒にする

フィードバックは必ずしも会社の先輩から受ける必要はありません。

仕事の良し悪し=顧客や利害関係者へ提供する価値です。そのため、むしろ顧客や取引先からのフィードバックを直接受けた方が本質的な課題が浮き彫りになるので、より具体的な改善ができるようになります。

顧客や取引先からのフィードバックを適切に受けるためには、当然現場に出て働かなくてはなりません。会社に引きこもって部下に顎で指示を出すだけのようなベテランになってしまうと、適切なフィードバックも得られず、何の変化も成長もない人生が待っています。

リーダーやマネージャーであっても時には現場に出て適切なフィードバックを受けることをお勧めします。

臆せず動け、出る杭は引き抜かれる

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ファイアウォーカーモードは一言で表すと「臆せず動け」という思考だと私は思います。

早く仕事を覚えたいけど、ガツガツしたら叩かれるんじゃないか…
基礎もわかってないのに多くを求めると図々しいやつと思われるんじゃ…
みんな忙しいのにフィードバックを求めるなんて迷惑なんじゃないか…

日本は“出る杭は打たれる”みたいな風潮がまだまだ横行しているので、勇気が出ない人も多いと思います。

しかし、年功序列の世界は確実に崩れていて、出る杭は打たれるどころか「出る杭はいい会社に引き抜かれる」といっても過言ではないくらい積極性が求められる時代になっています。

ファイアウォーカー思考はこの変化の激しい時代において非常に重要な資質のひとつだと考えています。

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