検査の感度・特異度/偽陽性・偽陰性

「事前確率が低いので、偽陽性が多く出る。だからやみくもにPCR検査すべきではない。PCRで患者は減らない。」

こんな議論をする人がいます。言っていることを理解し、問題がないかを議論するためには、始めに感度・特異度、偽陽性・偽陰性の定義と意味を理解することが前提です。同時に、検査の感度・特異度や事前確率が実際にどの程度なのか、ある程度把握しておく必要がありますね。

まず定義から見てみましょう。何かの検査を行う場合、その検査の特徴を知る必要があります。新型コロナで言えば、感染している人、感染していない人に対しPCR検査を行うと、多くの場合感染している人は陽性、感染していない人は陰性になります。しかし検査はパーフェクトではありません。感染しているのに陰性になる人、感染していなくても陽性になってしまう人が出てきてしまう場合があります。これらを整理すると、(1) 真陽性:感染している&検査陽性、(2) 真陰性:感染していない&検査陰性、(3)偽陽性:感染していない&検査陽性、(4)偽陰性:感染している&検査陰性、の4種類に分類できます。そして感染している人のうち正しく陽性になる人の割合を「感度」、感染していない人のうち陰性になる人の割合を「特異度」と呼びます。つまり「感度」「特異度」は高いほど検査の性能が良いことになります。

PCR検査の感度・特異度はどの程度なのでしょうか。実際の数値はかなりやっかいです。特に新型コロナウイルスは、感染してから徐々にウイルスが増え、そして減っていくとのことですので、同じ「感染している」と言っても、感染からどの位経っているかで感度が全く違ってきます。また検体の取り方でも結果が変わってきます。このため実際の「感度」はいろいろです。しかしPCR検査の特徴上、ウイルスがあれば検出はできるとのことですので、特にCt値(何回増幅させたか)が小さくても検出された場合はウイルスがいて、感染していることは間違いないようです。一方特異度は、相当高いと言われています。99.9%、99.99%という人もいます。オリンピックでPCR検査を頻回におこなっていても、偽陽性が出た、という話は皆無でした。決して100%ではないかも知れません。しかし検査を複数回行うなど対策すれば、偽陽性が多少あっても問題が生じることはほとんどありません。例えばプレ大会で内村航平選手が陽性になりましたが、その後偽陽性と判明しました。つまり再度の検査で陰性が確認されたわけです。

事前確率とは、検査を受ける人が実際に感染している割合のことをいいます。事前確率が低い人を検査すると、偽陽性がある程度出てきてしまうことは否めません。偽陽性の数は、検査人数x(1-特異度)x(1-事前確率)となります。確かに事前確率が低い(つまり感染している人が少ない)場合は、偽陽性が出る可能性はあります。しかし前述のとおり再検査などを行えば、偽陽性か真陽性かは確認できます。

そして「事前確率が低いので、偽陽性が多く出る。だからやみくもにPCR検査すべきではない。」という議論は、日本特有のようです。偽陽性が出て来るから検査しない、などという話はありません。むしろ驚くほど検査が多い国もいくつもあります。例えばオーストラリアは、感染者数は日本の1/10にも関わらず、検査数は10倍です(8月13日現在)。日本は人口当たりの検査人数が1000人に一人程度で世界でも最低に近い水準、先進国と言われる国の中では最低です。日本より少ない国は確かにありますが、できるのにやっていないのは日本だけかも知れません。

偽陽性がどの程度でる可能性があるかも推測できます。例えば特異度を低く見積もって99.9%なら偽陽性は0.1%、つまり1000人に一人。検査数は1日10万程度ですから100人程度。実際にはもっともっと少ないと思われます。この程度の人数なら確定検査時に十分対応できますね。このような議論は、ある程度の数値を当てはめてみれば計算できるので、定義と共に実際の値を少し探してみるのが重要です。

もう1点。「無症状の方にPCR検査を拡大することの問題は?」にもあるように、検査で患者数は減りません。減りませんが、その人から感染が広がらないようにすることができます。増やす要因を減らすことができる。PCR検査を広げない理由にはならないでしょう。

この議論は、いろいろな人が行っていますが、基本中の基本なので最初に取り上げました。PCR検査が信頼できることを確認しておくことは、今後取り上げる予定の「陽性率がなぜ指標になるのか」を議論する基礎にもなるため重要だと考えてあえて書きました。

ニュースのコメント欄に適当に書いている人の中には、ここで書いた意味がわかっていない人も見受けられます。特にPCR検査は精度に問題がある、と書く人。感度・特異度の区別さえ理解していない上に、実際の値の把握もしていないでしょう。また、最低でも如何に広範囲にPCR検査が利用されているかを知れば、精度が問題などと簡単には言えないはずです。