多くの反論に耐えることが科学

実は科学だけでなく、何にでも言えることかも知れません。例えば最近気になるのが「野党は批判ばかり」という"批判"です。それでも今日、「批判されるようなことばかりしているから」との主張を読んで、少しすっきりしました。批判を受け止め、多くの人が納得できるように内容を改め、説明を尽くす。今はこのプロセスが軽視されているのではないか。説明するだけではだめ。それは単なる言い訳です。何も改めません、という意思表示です。より良い社会を目指そうとしたら、立場の違う人の意見も取り入れる。これこそ人間が歴史の中で学んできたはずのことだと思います。

そして考えてみると、科学における新しい理論・仮説への批判も似ていると思いました。実際、今考えるととんでもないことが論文化され、多くの人を巻き込んで、結局批判(検証)に耐えられなかった事例はいくつもあります。例えば超電導物質に関する捏造事件。後に何本もの論文が取り下げられました。wikiには他にも様々な事例が紹介されています。視点は少し違いますが、ニュートン力学と相対性理論の関係、光が波か否かの議論などのように、元々は正しいと思われていた「科学的事実」が、極端な状態では異なる挙動を示すことがわかり、解釈が変わってきたものもあります。多くの人の批判的検証が続けられていたからこそ、捏造が発覚し、より精密な理論へと科学が進歩できたのだと言えます。

ところで論文に査読があれば、論文の信頼性はある程度上がります。しかし査読だけで100%論文が正しいかを判断できる訳ではありません。提出されたデータ、記載された情報に矛盾がないか、と言うレベルのチェックしかできないからです。巧妙に行われた捏造、改竄は、なかなか発覚しないかも知れません。第3者が論文を読み、不明な点、気になる点がないかを確認、検証を行うことで、信ぴょう性が高まっていきます。

しかし検証には、1つ大きな課題があります。それは時間がかかるということです。一定のコンセンサスを得るまでには、第三者による追試、計測などを支える技術の進歩などが必要となる場合も多く、相当な時間がかかります。アインシュタインの一般相対性理論の検証実験が、21世紀になってからも次々と行われているのは、その1例ですね。

では検証が終わっていない理論などは、どう理解すれば良いでしょうか。勿論、検証を待つのも1つの方法です。待っていられない場合にも、私たちができる方法は幾つかあると思います。以下、個人的な考えですが紹介します。

(1)主張に対し批判的な指摘があるか、それは納得できる可能性がある批判か
新しい仮説、理論などが出て来た時、それが全く批判されないことは少ないと思います。この批判が納得できるものであれば、元の主張に対し少し懐疑的に考える方が無難でしょう。

(2)主張していることが、著者やスポンサーの利益につながるか
主張の結果、利益を得るのが著者やスポンサーとなれば、利害関係がある可能性が高くなります。慎重に判断する必要があるでしょう。一般に第3者の研究である方が信頼性は高いと思います。

(3)同じ方向の結果が出ている研究がないか
同じ研究・調査を別のアプローチで行っている場合、それらが同じような結果になっているかを調べます。比較的類似していれば、納得できそうだな、と判断します。

(1) 個人的にamazon で本を買うかを判断する場合、評価★を確認しますが、必ず低い評価から読みます。低い評価が的外れだと感じれば、良い本である確率が高そうだと判断します。そして高い評価から内容を想像、納得できれば購入します。低い評価に納得できる場合は、そこで終わり。買いません。(低い評価に納得できる場合、同じ本への高い評価はある意味エコーチェンバーに陥っている可能性が高いように感じます。)

(2) ファイザーのワクチンの有効性95%。これはファイザー自身が関係して作られた論文で発表されたものです。この事実とその後のワクチン接種スピードなどの展開を見れば、この論文は少し懐疑的に見て置く必要があると感じます。

(3) については、最近の日本語の原郷の記事がその例だと思います。言語学、遺伝学、考古学が、ほぼ同じ結果を示したそうです。これこそ仮説が少しづつ受け入れられ、定説ができていくプロセスだと思いました。


批判が適切に行われる環境。これは科学だけでなく社会全体にとっても不可欠なものだと理解しています。

以下目次:

(a) データリテラシー向上を
デーの成り立ち、解釈、伝聞に注意/発信者の発言目的も意識しよう/わからないことは、わからないということが正しい/人は安心したい、騙されたとは思いたくない/人は自分が正しいと思う(思いたい)情報を探す
(b) 数学・確率・統計がどのように使われているか
全数調査できないから一部を調査/幅のある推定を知ろう/「有効性あり」と科学的に主張するには仮説検定/因果関係と相関関係は別物/直接の因果関係が不明でも統計ならできることがある/人は無意識に数学を使っている
(c) 多くの反論に耐えることが科学だ
反論こそが科学の発展を促した/嘘・捏造・作為的データも存在する/同じ方向を向く結果は信頼できる


(2021/12/2:リンク切れを指摘いただいたので、日本語の原郷のリンクを修正しました)