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通関士と通関業者

 こんにちは。通関士のTです。フォワーダー(国際利用運送業者)で、通関士として勤務しています。今回は通関士と通関業者の関係について説明します。

通関士とは

 通関士とは、通関業務の専門家です。輸入者や輸出者の依頼により、税関へ提出する申告書類(輸入申告書や輸出申告書等)を作成・審査して、税関へ申告する業務等を行っています。

通関業者とは

 通関業者とは、他人の依頼によって業として通関業務を行う者のことです。通関業を営むには、財務大臣から通関業の許可を得る必要があります。また、「通関業務」とは税関長に対して行う次のような申告業務、申請業務のことです(ごく一部です)。
 ・輸出申告
 ・輸入申告
 ・特例申告
 ・蔵入承認申請
 

いわゆる「士業」との大きな違い

 「士」がつく法律系の専門家といえば、行政書士、司法書士、弁護士等が思い浮かびますが、通関士はそれらの専門職とは大きく違う点があります。それは、個人である通関士としては通関業務を行うことができない、ということです。

 「通関士」と名乗って業務を行うことができるのは下記の条件を満たす人です(法律の条文そのものではありません。要旨は同じですが書き換えています)。

1.通関士試験に合格していること(通関業法第二十三条)
2.通関業者の通関業務に従事していること(同第三十一条)
3.通関業者が税関長に対して通関士確認届を出して税関が受理していること(同第三十一条)
4.欠格事由に該当しないこと(同第三十一条の2)

 ポイントは、2番目と3番目の項目に「通関業者」という言葉が入っていることです。通関士はいずれかの通関業者に所属していなければ、通関士として業務をすることができません。ここが他の士業と異なるところです。行政書士、司法書士、弁護士は個人として業務を行うことも、法人(行政書士法人、司法書士法人、弁護士法人)に所属して業務を行うこともできます。

 では、通関士は個人で開業することはできないのかというと、個人事業として通関業の許可を得ることで通関事業を営むことができます。

通関業法 第三条 
通関業を営もうとする者は、財務大臣の許可を受けなければならない。
第三十一条 
通関業者は、通関士試験に合格した者を通関士という名称を用いてその通関業務に従事させようとするときは、その者の氏名、通関業務に従事させようとする営業所の名称その他政令で定める事項を財務大臣に届け出て、その者が次項の規定に該当しないことの確認を受けなければならない。

 つまり、次の二段階の手続きを行えば個人事業で通関士として通関業務をすることができます。

(1)財務大臣から通関業の許可を受けて(個人事業の)通関業者となる。
(2)個人事業である通関業者に従事する通関士として財務大臣(実際は税関長)の確認を受ける

 個人で開業するハードルが比較的高いことから、ほぼすべての通関士は個人で開業をせずに通関業者(企業)に勤務しています。

通関業者ありきの通関士

 そもそも、「行政書士法」「司法書士法」「弁護士法」が存在するのに「通関士法」という法律が存在せず、「通関業法」の中で通関士の定義や役割が定められていることが、通関士は通関業者ありきであることを表しています。それではどうして個人事業で通関士をすることは難しいのでしょうか?

(1)貨物の移動や運送の手配
 通関業者は通関をするだけで業務が終わりではなく、輸出する貨物を輸出者から引き取って船会社(航空会社)へ引き渡したり、逆に輸入する貨物を船会社(航空会社)から引き取って輸入者へ納入したりという、貨物の運送の手配も合わせて行うことが少なくありません。また、日本と海外との間の国際輸送の手配も合わせてすることが多いです。通関の前行程または後行程には必ず国際輸送が必要ですが、通関と国際輸送を別々の業者に依頼するのではなく、通関業者にまとめて依頼できる方が荷主にとって利便性がよいためです。そのような輸送の手配をするには国土交通大臣から別の事業許可を得る必要があります。また、専門の運送業者との契約や港湾地区または空港地区での書類の受け渡しが必要です。
 税関への申告業務や書類提出だけであれば個人で行うことも難しくありませんが、貨物輸送の手配までを行うのは障壁が高いです。 

(2)税関検査の対応
 輸出貨物や輸入貨物が税関検査の対象になった場合、通関業者が検査に立ち会います。検査の立ち合いは通関士でない通関従業者でも行うことができます。企業であれば、申告をする通関士とは別に貨物の検査対応をするスタッフを雇用することができますが、個人で通関業をする場合は自ら空港や港湾地区へ出向かなければなりません。

料金体系の違い

(1)通関士の顧問契約はない
 各「士業」は、顧問契約(月数万円~)と個別の業務契約(数万円~数十万円)で報酬を得ることが多いと思います。一方、通関業者が顧客(輸出者または輸入者)から得る主な料金は、通関料です。その料金は一件あたり数千円~1万円強が相場です。品目の種類が多い時、特殊な通関手続きをするときなどは追加料金を請求することもありますが、ほとんどの案件は1件あたり数千円~1万円強です。通関業のみで生計を立てるには件数をこなさなければなりませんが、それだけの件数を個人の営業活動で獲得するのは至難の技です。
 顧問契約で毎月安定した収入があればよいですが、通関士・通関業者として顧問契約をするという事例は聞いたことがありません。通関業者側も荷主さん側も通関の件数ごとに料金が発生するという考えです。

 (2)相談料の設定もないことが多い
 司法書士や弁護士に法律等の相談をすると30分や一時間単位で相談料が掛かりますが、通関士では相談料という概念がありません。既存顧客であればメールや電話での相談には無料対応することがほとんどです。料金が発生するのは、基本的に税関への申請書類や届出書類の作成・提出を代行をするときだけです。

通関士の地位の向上を目指す

 上記のように通関士の顧問料や相談料は発生しないのが慣例ですが、この状況は通関士の地位を低くしてしまっています。顧客からの相談に対して回答する内容は、通関士としての高度な専門知識をもとにしています。ネットで検索しても簡単には答えが見つからないようなことだからこそ、通関士に相談をされているのです。私も、勤務先の会社で仕事をしているため、昔からの慣例で無料でお答えしていますが、本当は正当な対価をいただきたいという気持ちが強いです。

 会社の方針や業界の慣習をすぐに変えることは困難ですが、私個人でもできることがあります。それが情報発信とコンサルティング・サービスの提供です。
【情報発信】
 1.通関士および通関業者の仕事や役割についての紹介
 貿易をする際には必ず通関業者が関わります。島国である日本経済や日本に住む方の生活を陰でひっそりと支えているとも言えます。通関士や通関業者がどのような役割を持っているかご紹介をします。

 2.関税、貿易に関する情報の提供
 世界各国はEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)を締結して貿易の円滑化や活性化を進めています。その最新情報や、関税を削減するために参考となる情報を発信します。

 3.仕事に対する想い
 どのような想いで通関や国際物流の仕事に携わっているかを綴ります。

【コンサルティングサービス】
 前述のとおり、通関業者は日常的に顧客からの通関についての相談に答えることが多いです。ただし、既存顧客へのサービスの一環としての意味合いが強く、見込み顧客へのコンサルティングサービスの提供は少ないです。また、大手の通関業者ほど個人事業主との取引に消極的で、法人化していない個人事業主が通関について相談のできる窓口を見つけるのは非常に難しいです。
 私個人は通関業者ではありませんので通関業務を行うことはできませんが、通関に関してお困りのことがあればできる範囲で助言をいたします。お気軽にメッセージくださいませ。

 また、twitterでも日常的に情報発信を行っています。フォローをお待ちしております。twitter @import1customs




 





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