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僕はわりばしワーリー

誰しもが物語の主人公に自分を重ね合わせることはあると思うけれど、割り箸のキャラクターに感情移入することは珍しいのかもしれない。だけど、その時の僕にとってその割り箸以上に共感できるものはなかった。

2013年当時、僕は国産割り箸の営業をしていて、名だたる大手外食チェーンやコンビニから個人経営の小さな居酒屋やカフェ等を回っていた。大手はすでに導入していたエコ箸という名の樹脂箸からの切り替えを嫌ったし、そうでないところも安価な海外産の割り箸よりも1円高いだけで採用してくれなかった。ほとんどのお店の担当者から、割り箸は使わない、いまより安ければ使ってもいい、割り箸にお金をかけてもなにもいいことがない、と言われた。(国産割り箸を使ってもらうことの意味についてはここでは割愛する。)

そんなある日、会社に出版社からメールが届いた。「今度割り箸が主人公の絵本を出すので、その本物の割り箸を作ってもらえないか」というおかしな依頼だった。僕は早速その絵本『わりばしワーリーもういいよ』を取り寄せて読んで、そして虜になった。

ラーメン屋さんにいる割り箸のワーリーは、誰よりもやる気いっぱい。
「おーい!早くぼくを使ってよ」
なかなか使ってもらえないことに業を煮やし飛び出して、自分を使ってもらえる場所を求めて彷徨う。向かった先はお寿司屋さん、レストラン、だれかのおうち。なかなかワーリーを使ってくれる人に出会うことができない。

「ねえねえ、ぼく(らの国産の割り箸)を使ってよ」
ワーリーと同じように、ラーメン屋さん、お寿司屋さん、レストラン、だれかのおうち(小売店や宅配で扱う家庭用割り箸)で割り箸を使ってもらいたくて、いろんなお店に飛び込んでいる身としては共感するどころではなかった。他の割り箸よりもやる気に満ち溢れていて、普通ならありえない大冒険をすることになってしまったワーリー。絵本には書いていないけど、たくさん歩きながらワーリーは僕と同じように色々なことを考えたはず。冗談のような話だけれど、僕はわりばしワーリーに勇気づけられ、営業としての姿勢や人生の意味を学んだのだ。

そして僕らの割り箸は、愉快なイラストの箸袋に入れられて『わりばしワーリー割り箸』として販売された。「人気絵本作家シゲタサヤカさんの話題の絵本、『わりばしワーリーもういいよ』の主人公ワーリーが、本物の割り箸になりました!はやく使ってほしい割り箸を主人公にした絵本と、たくさん使ってほしい間伐材のワリバシのコラボです」という言葉と共に、出版社のウェブサイトといくつかの本屋さんで取り扱ってもらった。
それが大きな売上や話題になったわけではないけれど、子供たちに人気の、そして僕が大好きになった絵本の主人公が、本物の割り箸になって本屋さんで絵本といっしょに並んだことは、本好きで本屋好きな僕にとって、とても嬉しいことだった。

作者のシゲタサヤカさんにもお会いしてお話させてもらった。
「絵本を描いている頃から、本物の割り箸にも出来たら楽しそうって編集者さんと夢見ていたので、とても嬉しいです。しかも、普段使ってる割り箸と違って、フンワリと木の良い香りがするし、触った質感もすてきです。さっきお寿司屋さんで、はじめてワーリー割り箸を使ってきました。ほんとに「ぱっきーん」ってきれいに割れて、感動しました」
「ワーリーは最初はやる気のない割り箸だったんです。使われたくない割り箸。使われそうになると、お店から飛び出すんです(笑) でも、編集会議にかけたら、割り箸は割られて使われてこそ割り箸だ!と言われて。はっ!として。たしかに、割り箸には割り箸の役割があって、使ってほしいはずだ、って。それに、割り箸ほど使った時の「使った感」があるものってないですよね。それで、「使ってもらいたいせっかちな割り箸」という性格が決まったら、どんどん話ができました」

たとえば、自分が割り箸だったとしたら、やっぱり割って使ってほしいと思う。「ぱっきーん」と気持ちよく割れて、フンワリと木のいい香りをただよわせて、食べ物を上手につまんで口に運び、美味しく食べてもらうことに役立ちたい。
シゲタさんの言葉、「割り箸には割り箸の役割があって、使ってほしいはずだ」。僕にも僕のそれがあって、あの時僕がワーリーに共感していたのはそういうことなんだろう。

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