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【翻訳】ヨカゲームズが海賊版被害に 過熱するマーダー・ミステリーブーム

当noteではすでに何度かマーダー・ミステリー・ゲームについて紹介している。数年前から中国で流行っている、RPG要素のある推理ゲームだ。中国では「劇本殺」または「謀殺之謎」と呼ばれている。流行自体は広義のゲーム業界全体にとってもおおむねいいことではあると思うが、いささか過熱気味の状況にあるらしい。

ボードゲームメディアの「卓遊頑主」を運営する航仔氏が、業界の状況がよくわかる記事を書いていたので、許可を得て翻訳、転載する。(翻訳元:遊卡卓遊遭遇被盗版,行業的乱象和病態的繁栄浮出水面。元記事は2018/11/14公開)

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「劇本殺」あるいは「謀殺之謎」と言えば、みなさん多少はご存じだろう。『Death Wears White』が切り開き、バラエティー番組「明星大偵探」が火をつけたゲームジャンルで、現在ブームとなっている。

様々なシナリオが次々に作られており、大手ボードゲームカフェ各店もこのジャンルに参入し始めている。全国各地ではシナリオを体験できる実店舗が数多く開かれ、オンラインでマーダー・ミステリーがプレーできるアプリまで登場した。人狼に続く新たなブームが登場したようである。

しかし、市場が好況を極める中で、昨日(訳注:2018/11/13)、ある記事がコミュニティー内で大きな話題となった。長らく陰に隠れてきた奇妙な現象が表面化し始めた。

11月13日、百度貼吧(訳注:バイドゥの運営する電子掲示板)のマーダー・ミステリー板管理者でWeChat公式アカウント「五月愛推理」運営者のMaydayが「盗版,這一次不是個人在向你宣戦。而是一家上市公司。(海賊版、今回宣戦するのは個人ではない。上場企業だ。)」(航仔注:ヨカゲームズはまだ上場していない)と題した記事を投稿した。

この記事はGoDan謀殺之謎という店舗を名指しし、ヨカゲームズの『漫画家之死』、『禁止入内』、『沈黙的眼睛』を含む複数の団体や個人の創作したシナリオの著作権がGoDan謀殺之謎によって冒認登録されているとしている(訳注:日本・中国ともに著作権は著作物を作成した時点で創作者に付与されるが、両国ともそれとは別に著作権登録制度を設けている)。

かつての大手海賊版業者が1枚の著作権証明書を持って君たちの前に立ちふさがった。ありがとう、君たちがしてくれたすべてのことに。ドバイには漫画家も死に至るチョコレートもない(訳注:致命巧克力=死に至るチョコレートというタイトルのシナリオがある)。おかしいか? かつて翻訳に力を尽くしてくれた人たち、国外のシナリオを探してくれた人たち、国内のマーダー・ミステリーの先駆者たち、利益を顧みず、ただより多くの人に遊んでもらえるようにと尽力してくれた人たち、すでにシナリオを手に取ることがなくなったかつてのプレイヤーたち。悲しいか?」。Maydayはこのように書いている。

また、Maydayは自身とヨカゲームズのマーダー・ミステリー・ゲームプロジェクト責任者である居士とのチャット記録を貼りつけている。居士は代償を惜しまず徹底的に権利を守るとしている。

この記事の閲覧数は現在すでに8000を超えている。投稿から数時間後、GoDan謀殺之謎はWeChat公式アカウントで「声明与致歉(声明と謝罪)」と題した文章を投稿し、ショックを受けた創作者に謝罪している。

私たちはパッケージされたシナリオをスキャンして海賊版を製作したことはありません。いかなる作者の作品原稿を盗用したこともありません。パブリッシャーの利益に損害を与えるいかなる行為もしていません。版権を申請したのは、淘宝に氾濫している、10元(約160円)で200作品以上の電子版の海賊版シナリオを販売しているショップを通報するためであり、他の用途には使用していません。また、その作品が私たちのオリジナルだと言ったこともありません。淘宝で海賊版の詰め合せが幅を利かせている状況をあなたたちは見ていられないでしょう。私たちはさらにそうです」

「私たちは排斥の目的でやっているのであり、各団体の出版したシナリオが『詰め合わせ』の形式で淘宝上で流通しないようにするためです」

この後、私は居士に連絡を取った。彼は以下のように表明した。

GoDan謀殺之謎の謝罪はヨカゲームズがやるべきことに影響しない。ヨカゲームズがやるべきことは次の三つである。第一に、当局に連絡して著作権を撤回させること。第二に、権利が侵害された団体や個人の作者と連携して作品の著作権を申請すること。第三に、GoDan謀殺之謎を起訴すること。現在、証拠を収集しているところである。

「劇本殺」はLARP系ボードゲーム「謀殺之謎」シリーズのゲームの俗称だ。パーティーのゲストの一人が秘密裏に犯人の役割を演じ、他のゲストがプレーヤーとして調査と推理を通じて犯人を探し出す。

ヨカゲームズなど多くの団体や個人作者の作品の著作権が冒認登録された一件は、この業界の混乱状況を表す一部でしかない。

Maydayは次のように言う。「正規版で定価200元のボードゲームの海賊版は大体50元で売られます。正規版で定価200元のマーダー・ミステリーの海賊版は、10元で200タイトルが収録された海賊版詰め合わせの中に含められてしまうでしょう。マーダー・ミステリーはほとんどがA4用紙です。海賊版製作のコストが低く、原作者にとってはダメージがより大きい」

海賊版防止のため独占販売 シナリオ1本で約1万元

現在、あるウェブサイトで「劇本殺」と検索すると、確かに極めて低価格で詰め合わせにして販売されているマーダー・ミステリーが見つかる。売手はセール用バナーまで作成している。

このように海賊版が蔓延する中で、マーダー・ミステリーの作者はみずからの権利を守るため、新たなビジネスモデルを誕生させた。独占販売である。

「マーダー・ミステリーのシナリオは1作につき1回しかプレーできません。そのため、作者としてはプレーヤーに売るのではなく、直接店舗(訳注:ボードゲームカフェなどのプレースペース)に売っても構いません。海賊版被害を防ぐため、1店舗しかシナリオの購入が許可されない都市もあります。これにより、価格が大きく吊り上げられています」とMaydayは話す。「1本のシナリオを一都市内で独占的に取り扱わせる場合、価格はおおむね3,500~5,000元(約5万6,000~8万円)、中には1万元(約16万円)近くになるものもあります。これだけの高価格でも、店舗は争って買い求めます。たとえば上海全土のプレーヤーはそのシナリオをプレーしたければその店に行くしかないわけで、海賊版の心配もありませんから、店側としてはシナリオをプレーする価格を1人100元ちょっとにでも設定すればすぐに元が取れます

独占販売方式は一時的に海賊版の問題を和らげはするが、プレーヤーがマーダー・ミステリーを購入するルートが制限されるうえ、体験するためにかかる価格が高くなる。

パブリッシャーは高コストを忌避 A4用紙型シナリオが主流に

マーダー・ミステリーはボードゲームに比べて海賊版製作のコストが低い。海賊版業者はマーダー・ミステリーを1箱買い、スキャナーを使えば量産することができる。このように海賊版製作工程が低コストであるため、ゲームデザイン団体やデザイナーはコンポーネントに工夫を凝らそうとせず、A4用紙を使ったシナリオが主流となっている。

「実際に、ほとんどのマーダー・ミステリーは数枚のA4用紙を箱に入れただけで売っています。作者たちは海賊版の被害に遭うことを本当に恐れているのです。マーダー・ミステリーの市場はまだまだ飽和していないため、それでも売れない心配はありません」とMaydayは嘆きながら話す。「誤字を直していないものまであります。ボードゲームプレーヤーであれば、きっとパブリッシャーにクレームをつけるでしょう」。

百度貼吧マーダー・ミステリー板の管理者たるMaydayは、各種アプリが優秀なデザイナーをオンラインに抱え込むべく高報酬で募集する投稿をしばしば目にしている。私は、このような好況とオフラインにおける海賊版対策の難しさが、デザイン団体や個人デザイナーにハードウェアの製作は割に合わないとより強く思わせていると分析する。

マーダー・ミステリーはネタバレ不可 賞賛合戦が主流に

マーダー・ミステリーは1作につき1回しか楽しめないため、ネタバレが禁止されている。面白いかどうかの判断は完全に店舗の宣伝に依存しており、口コミは少ない。

「コミュニティーが小さいため、つまらないシナリオをつかまされても、店舗は不満を述べるわけにはいきません。第一に顧客を失うからで、第二に今後もパブリッシャーから独占権を得るために機嫌を損ねたくないからです。そのため、マーダー・ミステリーは店舗とパブリッシャーで建前上賞賛しあっている状態であり、あるシナリオが面白いかどうかについて客観的な評価を得ることは難しい」。

マーダー・ミステリー業界は混乱が多発しているように見えるとはいえ、Maydayによれば、大多数のパブリッシャーと店舗はうまくやっていけている。「航仔、マーダー・ミステリーを1箱5,000元(約8万円)で50都市に売れるとして、ボードゲーム1作がこれほどの販売額を実現するにはどのくらいかかるでしょう?」。

一般人よりも有名人の方が、宣伝能力は強い。有名人の日常的なコーディネートや空港ファッションは、多くの女性に同じものを買い求めさせる力がある。同様に、バラエティー番組で有名人が推理を披露する知的なゲームをプレーしていたら、誰もが自分もやってみたいと思うだろう。

マーダー・ミステリーは当初、オフラインのパーティールームやボードゲームカフェの狭い範囲内でのみ知られていた。多くの人々の注目が集まるようになったのは、2016年にそのようなバラエティー番組「明星大偵探」が放送されてからだ。30億回の合計再生数は、マーダー・ミステリーの普及に極めて重要な役割を果たした。

マーダー・ミステリー関連のWeChat公式アカウントも当初は「推理大師」と「懸疑実験室」くらいだったのが、後に多くの小程序(訳注:ミニプログラム。WeChat内で作動するアプリ内アプリ)でゲームができるようになった。

2018年5月、『戯精大偵探』が経緯中国より数百万元のエンジェルラウンド融資を獲得した。2018年3月当時は小程序形式だった『我是謎』は、現在では30万人以上のユーザーを集めている。2018年7月、『我是謎』は金沙江創業投資基金より数百万元のエンジェルラウンド投資を獲得した。

金沙江創業投資基金とはどのような投資ファンドなのか。DiDi、映客直播、ofo、Qunar、上海大智慧、餓了麼、小紅書はすべてこのファンドが出資している。マーダー・ミステリー業界にはすでに大資本が参入しているのだ

私も『我是謎』はプレーしたことがあるが、非常に面白いオンラインミニプログラムだった。オフラインのマーダー・ミステリーは、米宝工廠(訳注:北京にあるボードゲームカフェ)で体験したことがあるが、非常に楽しめた。GoDan謀殺之謎もずいぶん前に正規版パブリッシャーに転身し、多くのシナリオをリリースしている。

「マーダー・ミステリー」業界には混乱が存在するのか、そして繁栄は異常な状態なのか。これらの問題は分けて考える必要があると思う。私は数回プレーした良質なマーダー・ミステリー体験を今後も継続したいと思うし、またプレーヤー・パブリッシャー・店舗の各者に十分な利益を得てほしいと思う。

私たちプレーヤーができるのは、正規版を支持することであり、これが最大のサポートである。


ノートに「スキ」をしていただくと、あるボードゲームの中国語タイトルと、それに対応する日本語タイトルが表示されます。全10種類。君の好きなあのゲームはあるかな?