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NewBalanceのスニーカーとブレグジット

ニューバランスのスニーカー、最新モデルの「M920」はイギリス製でした。その生産に携わるのは、イギリスをEU離脱に導いたと言われている労働者階級です。彼らが安心して暮らせる社会づくりは、私たちの小さな行動変革から始まると思うのです。

 アイルランドからの移民ウィリアム・ラリー(William J. Riley)によって、1906年にボストンで創業されたニューバランス。そのスニーカーの多くは、今でもアメリカとイギリスで作られている。競合であるナイキが、いわゆるスウェットショップ問題を抱える中、人件費の高い先進国で生産を続けること自体がブランド・アイデンティティの一つになっている。それはもちろん製品価格に反映され、日本を含むアジアの市場においても「Made in US/UK」はフラグシップモデルに位置付けられている。特にイギリスで作られる製品は、ニューバランスに特有な「野暮ったさ」が抑えられていることもあって、幅広い層にファンがいる。

 イギリス国内における生産活動は、一つの工場に集約されている。イギリス北部はカンブリア地方フリンビーの工場だ。従来から革靴の生産が盛んだったこの地の職人技術を頼って、1982年に操業開始。2017年には35周年の記念モデルも発売されている。地場の伝統産業と大手資本の組み合わせとしては、注目すべき成功事例だろう。階級意識の根付くイギリス社会において、労働者階級の仕事を生み出すことは大きな課題となっている。そして、彼らの不満がブレグジットを牽引したと言われている。

 ブレイディみかこ氏の著書『労働者階級の反乱』にはその実態が記されている。EU主導での緊縮財政政策が労働者階級を苦しめ、怒りの矛先は相対的に優遇されているように映る移民へと向かい、声を上げることを誇りとする彼らはEU離脱に票を入れた。個々人の考えに多少の違いはあれど、同じように不利益を被る大学生たちの草の根運動も手伝って、労働党員としての団結が見られたという。ニューバランスの工場のあるフリンビーは典型的な労働党の町である。

 そこには必ずしもレイシズムは表れず、自分たちがよりよく生きるための権利を正当に主張しようとする態度だけが見て取れるだろう。だから彼らの多くがトランプ支持者ではないという分析も納得できる。そして今さら社会主義を標榜するわけでもない。ちゃんと働いている人が普通に暮らせる社会を作ることは、私たちの義務なのだ。ニューバランスのビジネスモデルが、そのためのヒントになるのかもしれない。値段は多少高くとも、作り手の顔が見える商品を選びたい。

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