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Hotel She, がもたらす社会の安心・安全

ソーシャルホテルの概念を日本に定着させた「Hotel She,」は、このコロナ禍においても勢いを止めることがありません。数々のイベントや物販の経験などを糧に、いよいよプラットフォーム事業に乗り出したのです。それは決して自社の都合によるものではなく、顧客や従業員、競合他社までを巻き込んで、社会に安心・安全をもたらそうという視座の高いサービスだと思うのです。

 新型コロナウィルス対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」の対象が全国に拡張される中、「Hotel She, KYOTO」などを運営する株式会社L&Gグローバルビジネスは「Hotel Shelter(ホテルシェルター)」というサービスを始めた。一週間単位での宿泊契約や簡易清掃によって引き出される特別割引を、ビジネスホテルに一般的な長期滞在プランと呼んでしまえばそれまでだけれど、万が一のクラスタ化を防ぐために、非対面チェックインなどの非常時運営を徹底している。

 このサービスのポイントは、これらの運営ガイドラインや宿泊予約サイトをパッケージングし、他社の宿泊施設にも提供しているところにある。いわゆるプラットフォーム戦略が、売上激減に直面する他の小規模ホテルにHotel Shelterのブランドと運営ノウハウを提供するとともに、利用者に対しては特に立地面において多様な選択肢を与えてくれるのだ。

 ターゲット利用者としては、外出自粛要請下においても自宅に篭れない人々が想定されている。家に帰れば家族を感染リスクに晒してしまう医療従事者や、学校や学童保育の閉鎖によって居場所のなくなってしまった小学生など、各々の事情は様々だ。東京都内には4,000人がネットカフェで暮らすというし、外出が厳しく制限されている海外の都市では家庭内暴力の増加が顕在化している。軽症感染患者の隔離のための受け入れが100部屋以上の大規模な宿泊施設に限定される日本において、Hotel She,のような小規模ホテルは無感染者の保護に効果を発揮するのだ。だからシェルターと名付けられている。

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 L&Gグローバルビジネス社はこのHotel Shelterを企画から僅か数日でローンチした。並行して、自粛要請後のホテルに利用できるバウチャーチケットを販売するECサイト「CHILLNN(チルン)」も立ち上げている。この圧倒的な事業スピードを支える経営資源の一つが、自社に抱えるデザイナーやエンジニア達だろう。Takramのディレクター佐々木康裕氏はD2Cビジネスを「世界観」と「テクノロジー」の2軸で定義するけれど、この2つを兼ね備えるのが同社なのだ。それは必ずしもデータアナルティクスやAIといった最先端である必要はなく、エンドツーエンドでの実装を叶えるエンジニアリング能力が、刻一刻と変化する事業環境に柔軟な対応をもたらしてくれる。

 ファウンダーの龍崎翔子氏はホテル業界の将来を観光業ではなく、不動産業か、あるいは福祉産業に見出されている。それは多くの識者が都市課題の筆頭に孤独や孤立を上げることともリンクしている。緩やかなつながりが市民の精神的な安定をもたらし、社会全体の安心・安全を醸成すると言われているのだ。Hotel She,に始まるソーシャルホテルがその一端を担う可能性は高い。

つながりと隔たりをテーマとした拙著『さよならセキュリティ』では、「12章 心と身体 ー無意識のセキュリティ」において、都市の孤独という課題について触れております。是非、お手にとっていただけますと幸いです。

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