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休暇明けのギアチェンジ

休み明け、保育園に行きたくない五歳息子が愚図る。
――ほら、靴履いて。パパもごみ捨てに行くから。
急かすように促し、先に玄関を出た。

朝から蒸し暑い。
蝉の声が「カナカナ」に変わったのがせめてもの救い。

「ちゃんと歩いて。ママ怒るよ」
ママが先を行っても、ギアは上がらない。
とぼとぼ牛歩の息子。
私はごみを捨て、マンションを出た道路で待った。
彼を励ます声掛けの言葉を探す。

と、「いってらっしゃい」の声。
振り返ると、マンションの二階に住むご婦人。
ベランダにたくさんの花を育てている穏やかな方。
気づいたママが「いってきます」と返事。
ジャージの私も会釈を返した。
……息子は? 「行ってきます」と力強い声!

それが彼のエンジンになった。
いつもの足取りが戻る。
引き返せなくなった私を含め、三人で次の角まで一緒に歩いた。
「じゃあねパパ」「おし、頑張ろう」

日常がまた始まる。
帰り、ベランダにまだご婦人の姿があって、今度は私が牛歩になった。


ひぐらしの二階より「いってらっしゃい」

(ひぐらしのにかいよりいってらっしゃい)

季語(初秋): 蜩(ひぐらし)、日暮、かなかな、寒蝉


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