ひとりじゃないよ
ベランダに出て、いってらっしゃいと手を振る。
五歳息子が何度も振り返ってそれに答える。
いつもの朝の光景。
感慨深く見えたのは、朝食時に息子が配ってくれた「R1」飲むヨーグルトのせい。
ボトルに書いてある「応援メッセージ」をママに読んでもらい、各々に相応しい言葉を手渡してくれた。
「パパは……これかな?」
自分には、「ひきだせ! 君の強さを!」
ママには、「ときどき休むのも大切だよね」
そしてパパには、「君はひとりじゃない。」
どうして? と問えば
「いっぱい一人で入院してたでしょう? でも今は違う」
妻子を見送ってからも、しばし座り込んでしみじみとした。
と、バタバタと玄関で音。
上がり込んできてドアをノックする。
嫌な予感。
「パパもトイレ? うんちしたいって」
保育園では出なくなってしまう息子。
途中で引き返してくるのも、いつもの光景。
――ちょ、ちょっと待って。
パンツをあげながら「ひとりじゃないんだ」
と反芻する。
立入り禁止場所に蒲公英一つ
(たちいりきんしばしょにたんぽぽひとつ)
季語(三春): 蒲公英(たんぽぽ)、鼓草(つづみくさ)、蒲公英の絮(わた)
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