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焦らし上手

休み前に妻が社販で買ってきた桃。
デパートのだけあって色も形も完璧。
なにより匂い。持ち帰った瞬間から魅惑を放った。
男軍団(私と五歳息子)はたまらず「食べたい!」
妻は「まだ固いから」と棚に。ぐぬぬ。
お預けは二日続いた。

「そろそろどう?」
朝食後に満を持して切り出す。もう我慢ならん。
妻は「あ、忘れてた」と言い(マジかっ?)、
「じゃあ冷やして夜のお楽しみ」と嘯く。
ぬぬう。まだ焦らすかお主。

冷蔵庫を開けるたびに漂う甘さ。
息子は意味なく開閉し「これだけでも幸せ」と哀しいことを言う。
おいおい食べようぜ。

「お待たせ」
夕食後、ついにこの時。
香り、照り、みずみずしさ。切ってなお失わぬ魅力。
男たちは貪り食べた。「美味いっ!」
妻は種の部分をしゃぶって「良かったね」

その余裕を崩してやろうと
「昔、(キスを)焦らされたことを思い出したよ」と唐突に。
妻は「あはは。(欲が)出ちゃってたからね」と受け流す。
思わぬ返しに私の方が真っ赤っか。


お預けの桃のしめらに匂ふかな

(おあずけのもものしめらににおうかな)

季語(初秋): 桃、桃の実、白桃、水密桃(すいみつとう)

※「しめらに」……しみらに。一日中。暇なく連続して。の意。


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