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写真額装の現場ノート #001 森山大道「三沢の犬」(ブックマット額装)

こんにちは。東京・中目黒でPOETIC SCAPEというアートギャラリーのオーナー・ディレクターをしている柿島貴志といいます。ギャラリーは2011年にオープンしたのですが、それ以前から、主に写真作品の額装の仕事を手がけています。

今まではそんな額装仕事の写真をinstagramにポストしたり、もっと総合的な論理と実技の講義を美大で行ったりしてきましたが、このnoteでは日々手掛けている額装案件をケーススタディ的に紹介し、その額装に至った考え方やノウハウなどを、エピソード交えてお伝えしようと思っています。

今回は初回なので無料公開ですが、大学で教えていた内容にもかぶってくるので、次号からは恐縮ですが有料(100円)で運営していきます。「ワンコイン写真額装講座」的にお付き合いくだされば幸いです。

実は正式タイトルがない超有名作品

さて、第一回目は、王道中の王道から始めたいと思います。額装するのは、世界的写真家の最も有名な作品。通称「三沢の犬」、撮影した写真家は森山大道氏です。通称と書いた訳は、正式な名称はつけられていないからですね。森山さんは写真一枚一枚には基本的にタイトルをつけないのです。海外では「stray dog」などと呼ばれているみたいです。とにかく写真好きなら一度は目にしたことのある作品だと思います。

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森山大道「Untitled」(三沢の犬)© Daido Moriyama Photo Foundation

写真の余白は無駄じゃない

で、これは有名な話ですが、この作品のオリジナルのネガはすでに紛失してありません。なので後年、プリントから新たにネガが制作されたのですが、その際に犬の周りの背景をばっさりトリミングしたと言われています。結果、犬の後ろ足が画面ギリギリのところにあるんですよね。いろんな意見があると思いますが、このトリミングは犬の迫力を増す効果があったのかもしれません。

今回の額装は、こちらも写真額装の王道であるマット額装。マット額装はマットをイメージに数ミリ被せる「かぶせ」と、写真の余白を少し見せる「余白出し」と呼ばれる方法があります。今回のケースでは、「かぶせ」でやると、後ろ足部分の背景が微妙にマットに「食われ」そうだったので、余白出しを選択してます。この余白出しをやるためには、当然イメージの周りに余白を設ける必要があります。最低でも1インチ(訳2.5cm)ほどの余白があると、額装の時に色々融通がきくので、オススメです。

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マット幅とバランス

フレームは黒のつや消し塗装を施した木製フレーム。16x20インチなどの規格サイズではなく、天地左右のマット幅が同じになるよう、特寸で制作しました。私は規格サイズフレームを用いる場合は、マット幅も広めで、マット幅の天地の割合を変える「偏心」をしますが、今回はマット幅を揃えられたので、幅はタイトにまとめています。もしイメージがもっと小さかったら、マットの幅は広めに取ったと思いますね。最後にUVカットアクリルを磨いて完成です。

今回の額装ポイント:王道作品の額装は小細工なしで。でもマットの幅や余白出しなどの細部に気遣いを

毎回こんな感じで写真作品の額装について書いて行こうと思っています。たまに写真以外の作品も額装するので、もしかしたらそちらも紹介できるかも。面白そうでしたら、ぜひ今後も読んでみてください。ではまた。

p.s.この記事を書いている今日、2020年6月2日より、東京都写真美術館にて森山大道写真展が開催されています↓


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