見出し画像

ハイエナ・ロード(2015年/カナダ) ネタバレあり感想 価値観の相違で大惨事な映画。

※20/3/23に『趣味と向き合う日々』に投稿した感想記事の加筆修正版です。


国ごとの価値観の違いみたいなのを知る事が出来る映画。

 

『ハイエナ・ロード』

(HYENA ROAD)

ハイエナロード映画ポス

 以下、ネタバレを含む感想記事です。

 

 ■ストーリー


要らぬ厚意で大惨事。 

 

 

 ■感想
 

 アフガニスタン戦争(紛争)を題材にした映画。

タイトルにあるハイエナロードとは、アフガニスタンの復興支援の一環で建設されている道路であり、この建設を阻害するタリバンと、おそらくISAF(国際治安支援部隊)として建設を主導しているであろうカナダ軍との衝突を背景に物語が進んでいきます。

 

道路の建設に協力的な姿勢を見せる現地の有力者が実はタリバンとも繋がっていて、道路建設に従事する人々がタリバンの攻撃で続々と犠牲になる中、その支援を表立ってしている有力者が黒幕なので下手に動けない、という入り組み過ぎな状況に駐留するカナダ軍は頭を悩ませています。

その有力者と因縁があり、既に一線を引いていたソ連アフガニスタン侵攻時代のアフガンの英雄が、この有力者から家族を守る為に舞台となる地区に戻ってきます。

カナダ軍はこの英雄の力を借りてなんとか有力者を排除しつつタリバンの攻撃も避け、道路建設を完遂しようと試みる、というのが大まかな内容。

各登場人物の存在理由や背景が綿密に設定されていて、いわゆる捨てキャラが殆ど居ないようなタイプの映画なのに、それなりの数の登場人物が出てくるボリューム感が半端ないタイプの映画でした。


ハイエナロードの建設を巡るカナダ軍とタリバンの戦いという流れを下地にしつつも、基本的には人間関係を中心に描いていて、しかもそれがめちゃめちゃ分かりやすいです。

主人公のカナダ軍の男は、アフガニスタンという地域やそこに住む人々の宗教観、生活風土に関する知識をあまり持ち合わせておらず、しかしそれらを見下したり敵意を持って接する事もありません。

彼は自国カナダで培われた倫理観と価値観に基づいた行動を一貫して取り続けます。

逆に、現地人との交流も盛んで文化や価値観にも詳しいという真逆の性質を持つキャラクターが主人公の友人であり上官でもある、というポジションで登場します。

この男がいわばガイドのような立ち位置にいると思います。

アフガニスタンの人々の生活や文化、そして異国からやってきた上に戦争主導国でも無い単なる駐留軍と現地の人々との交流を、この男を通してフラットに描いていました。そういったカルチャーショック的要素がこの映画の面白さの根幹を成しているように思いました。

というかこの映画の終盤の展開は、もろにこの異国の文化、価値観の違いに起因することになります。

 


主人公の男はよかれと思って友人の上官である男の制止を振り切り、アフガンの英雄が現地の有力者に殺されそうになるのを止めます。

しかしこれが、その英雄の名誉の死の機会を奪う事になってしまい、しかも現地の有力者(=タリバンでもある)とアフガンの英雄という二者間の因縁に、主人公の勝手によって第三者であるカナダ軍が介入してしまう形になってしまいました。

そしてクライマックスでは主人公の率いるチームが次々に死亡し、最後は押し寄せるタリバン兵士もろとも、自分とアフガンの英雄の籠城する小屋に砲弾をぶち込んでもらい自爆する事で戦闘を終結させるという衝撃的なラストを迎えました。神風アタックと通じる部分がありますし、その総本山たる日本人的には、もしかするとよりこの最後の哀しさが伝わりやすいのかもしれません。


主人公の男は一発の銃弾で全てが変えられる、と劇中で何度も語っていました。

その時点ではこのセリフはかなりポジティブな意味合いを持ったものとして描かれていましたし、同時に主人公がちょっと理想家のようでいながらも、正義のために戦っている男という印象付けのセリフだと思っていました。

ところがこの終盤の惨劇のきっかけを作ったのがこの主人公の放った一発の銃弾であり、その結果チームのメンバーも自分自身も死ぬ必要のない、それどころか友人の言う通り静観していれば全てが丸く収まっていたはずの状況を悪化させ、大量の犠牲者を出す形になってしまったというかなり皮肉な展開につながるセリフになっていました。

 

主人公の男もアフガンの英雄も、お互いにお互いの理念に基づいた行動、正しいと思った事をしていただけです。

しかし、その裏にある価値観や文化的な違いが最終的に地獄のような事態を招いたというオチに繋がっていきます。

異文化交流とすれ違いという視点からの人間ドラマの面白さが爆発している映画だと思います。

 


ちなみに戦闘シーンもかなりあります。

普通に戦闘アクション映画としての出来も良いです。

とくに、中盤辺りの市街地でのタリバンの急襲シーンの緊迫感が半端じゃ無かったです。

正直な話、この映画が戦争を通して描いていたのがイデオロギーや彼我の価値観などの差異だったから、そこに注目していました。

それらが実際に良い出来だったから感想にも起こしているわけですが、本音を言えばバカスカ撃ち合ってアクションに狂ったものが観たい気分でこの映画を観始めました。

その期待に十分に応えてくれるだけの迫真のアクションと緊迫感が十分に楽しめて僕は満足です。

いやほんと良い映画ですよこれ。

 

 

 ■〆


個人評価:★★★★☆

 

物語もメッセージ性もアクションも総じてレベルの高い質映画って印象です。

事前知識も、アフガニスタンとアメリカの戦いが、対テロ戦争(タリバンという組織との戦い)である点、これによってアメリカだけでは無く多くの国の軍隊がアフガニスタンに駐留している点、くらいを知っていれば十分だと思います。

あとは劇中で主人公の友人の上官が色々ガイドしてくれます。

凄く面白い映画でした。

ではまた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?