見出し画像

EDEN/エデン(2014年/フランス)ネタバレあり感想 夢と現実のギャップに苦しむDJの映画。

趣味と向き合う日々』にて2017/07/26に投稿した感想記事のリメイク。結果まったくの別物に。


主に夢を追う若者の挫折を中心に描いた映画なんですが、公開当時は「ヨーロッパダンスミュージックの変遷を描いたDJ映画」的なプロモーションの仕方をしていたっぽいです。

そういう音楽史的要素も確かに楽しめるとは言え、内容は結構鬱映画寄りなので釣られた人のダメージが凄そう。


■ストーリー

DJとしての才能が見え隠れする青年がその道に憑りつかれ、様々な経験を通じて様々なものを失っていく。

 

■感想

DJとしての成功を夢見た一人の青年の生き様を描いた映画。

フィクション作品らしい山場やわざとらしい出来事・展開がそれなりに在る中、あくまでそれらを淡泊に描く事で、一人の青年の人生の一端を、生々しく上手く描き出している感じがして、個人的に凄く好きな映画です。

また、90年代前後のガラージ(音楽ジャンル)の流行やその変遷が楽しめる点も魅力です。

こんな感じの音楽です↓



ストーリーは大きく前後編に分かれていて、前半は主人公ポールの若い頃の姿と彼がやっているDJデュオ"チアーズ"の名前が売れていくまでを描き、後半ではポールの人生が狂っていく様を描きます。

この映画、成功・挫折・再起というオーソドックスな構成ですが、その配分は中々にバグってます。主人公が苦しむ時間の長さに引く。

2時間超えの上映時間の約半分は人生が壊れていくポールの描写に費やされ、その間つもり続ける鬱憤は本当に最後の最後まで晴らされることがありません。



恋人に愛想を尽かされ、相方は死亡し、薬物に依存し、多額の借金を抱え、ほぼ同期か後輩のダフトパンクが世界的な成功を収めていく姿を眺めながら、いつからかホームパーティのDJなど小さな仕事で食いつなぐようになっていたポール。


時代が移り変わりガラージの人気が落ちてもポールはガラージの曲を作り続け「わかるやつだけついてこい」的な頑固さと職人気質に限りなく近い何かを拗らせ曲をプレイし続けます。 

一見するとその姿は、一度掴んだ成功に執着しているようにも見えますし、見方次第ではマヌケな世間知らずが予想通り失敗する様を描いているだけにも思えます。

正直、後半のポールの姿には少なからず苛立ちを覚える人がいても不思議じゃないと思います。並外れたクズみたいな描き方されてるし。



ただ、DJとして成功しかけていた頃のポールの姿を前半で濃く描いていた事で、後半のポールの深層心理のようなものがなんとなく透けてくるのが面白いです。

ポールはすでに過去の人であり、後半ではもう一度成功するべく必死にもがいているように見えます。

でも、もしかしたらそんな野望めいた意思でもがいてたんじゃないかもしれないと僕は思うんですよ。

パーティでDJが曲を繋ぎ、それに合わせて酒や薬物に浸りながら友人達と自宅やクラブでゆるく楽しく過ごていた頃が忘れられず、一時の青春に心が囚われて続けている人って感じの印象です。

ガラージに固執していたのも、そういった過去の記憶、人生のピークタイムへの羨望みたいなのが現れているのかもしれないと思うとなかなか切ない気持ちになります。

そういう大人になりきれないような感覚が、自分と重なる部分もあったりして、急激にポールに対する共感値が高まってしまって嫌いになれませんでした。



ポールはDJを辞め、薬物を絶ち、借金返済の目処も立ち、再就職の道が見えてきたところで物語は締めくくられます。

そしてエンドロールでは若い頃のポールがただ楽しく過ごしている姿だけがずっと映し出され続けます、余韻の濃さすごい。

何度見てもこの映画のエンドロールは良さの塊って感じで好き。エンディング曲も含め好き。

夢を追う事も良いけど、昔楽しかった頃の思い出を糧にして前に進むのも悪くないよね的な、そういうポジティブなイメージに帰結する感じで、視聴中の強烈なストレスに対して、視聴後の心的疲労感はさほど感じない不思議な映画だと思います。



■〆

個人評価:★★★★★

若い頃に得た成功のせいで夢を諦められられず破滅する男の姿を描いた映画なので、特に後編は重苦しい雰囲気たっぷりですし、視聴中のストレスはかなりのものだと思います。

鬱映画と言えなくも無いんですが、ただ最後の最後で前向きな雰囲気になって終わるので後腐れが無い印象です。

夢を諦めた人の映画っていうよりも、過去の思い出を思い出として前に進もうとする人の映画って感じで、そこで描かれる主人公ポールの姿には結構共感できてしまう部分もあったりして、今でも個人的にかなり好きな映画です。


ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?