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【0からはじめるオンラインコミュニティ Vol.1】原理・原則編

突然ですが、自分はかつて世界初のオンラインサロンプラットフォーム「Synapse」を運営していたシナプス株式会社にて、COO兼編集長としてオンラインコミュニティの企画・編集実務に相当数携わってきました。

僕たちが世に初めて「オンラインサロン」と銘打ったサービスをローンチしたのは2012年。当時はサブスクリプション(継続課金)型のサービスは世にほとんど存在しないばかりか、コトバ自体が新しいものだったこともあり「『メルマガ』の次に来るものです!」「『ファンクラブ』の新しいカタチなんです!」と説明するので精一杯...。

それ以降、2017年に同サービスがM&Aを経てDMMオンラインサロンに統合されるまでの間、数百を超えるオンラインサロンの企画・編集に携わってきました(その後、現在は芸能・エンタメの世界でコンテンツをつくる仕事をしています)。

しかし・・・当時発明した概念がここまで普及し、一般に知られるようになったことは嬉しい限りである一方、オンラインサロンについて「ん!?」と思わざるを得ない認識を持っている人を見かけたり、経験上あまり効果的であるとは思えないノウハウが流通してしまっている現状を見て歯がゆい思いもしてきました。

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そこで・・・! 今回は「オンラインサロン」のオリジネーターとして、或いは継続課金型のオンラインコミュニティというビジネスフォーマットを発明した者として、ここに「オンラインコミュニティ運営」の原理・原則やノウハウを無料大公開していこうと思い、筆をとりました。

ちなみに、今の時代となっては「オンラインサロン」というコトバにこだわる必要性もありませんし、タイトルはあえて「オンラインコミュニティ」としました。そもそもは同じニュアンスを持つ概念だったはずなのですが、どうしても今「オンラインサロン」というと、マネタイズツールの色がより濃く出てしまうので...本稿で語りたい内容は「オンラインコミュニティ」の方がしっくり来ます。

はじめに、当時構想した「オンラインサロン」というものが持つ本質的な「存在意義」「世界観」について触れさせて頂きます。信者ビジネス情報商材系などと揶揄されることも多いこのビジネス...まずは誤解を解くことからはじめていきましょう。

本稿が今後オンラインコミュニティをはじめたい皆さまの思索の一助となりましたら幸いです。より良いファンコミュニティが世に溢れていきますように。

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オンラインコミュニティってそもそも何なの?

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上記画像は当時自分が作成し、サービスの概要説明に用いていたドキュメントの1ページ目です。回りくどく感じられるかもしれませんが、そもそも「オンラインサロン」とはどのような設計思想をベースに成り立つものであったのか、説明させてください。

まず、1パラグラフ目にある通り、オンラインサロンの本質は「体験型コンテンツ消費」にあると考えます。古来、知識や技能は人から人へ直接伝えられ、娯楽も目の前にある舞台で演じられる中で享受するものでした。そこには確かな「熱狂」があり、それを共有する他者の存在があったのではないかと思います。オンラインサロンが持つビジョンは、その空間をインターネット上に再現することを通じて、新しいコンテンツの消費形態を生み出すことにありました。

ここ、、めっちゃ語りたい気持ちをグっと堪えて・・・要約するならば、僕たちが考えた新しいコンテンツ消費の形とは、「視聴読」で完結する一方向性の体験ではなく、それらについて誰かと語り合う体験や「視聴読」した内容をコミュニケーションの中で深め合う双方向性の体験がセットにあるものです。

(グっと堪えた部分は、アリストテレスやグーテンベルクといった偉人の言葉を引きながら、くどくどと語る部分になります。そこに興味があるという奇特な方向けに、いつかそのようなニッチ且つ自己満足な記事も執筆できたらと思います)

ちなみに、僕たちはこの体験のことを「"1→n"ではなく"n:n"のコンテンツ消費形態」と呼んでいたりもします。

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こちらも、当時自身が制作したサービス概要資料からの引用(一部改)になります。何を通じて「n:n」のコンテンツ消費形態を実現するのかと言えば、そこで必要になるのは「コンテンツをコミュニケーションに変換する装置」であり、その役割を担うのが「オンラインサロン」です。

オンラインサロンの中には高額なものもありますし、決して価格的には手頃なものばかりではありませんが、それはつまり「コミュニケーション」や「体験」という、複製が難しいモノ(経済学的に言えば希少性の高い財)を売っているからだと捉えて頂けたら分かりやすいと思います。

オンラインコミュニティにはどのような形があるの?

① 私塾モデル
② 顧客開拓・維持モデル
③ ファンコミュニティモデル
④ ソーシャルファンディングモデル

ここでは、ざっくりと4つの類型を提示させていただきます。順を追って例示・解説していきましょう。

└①私塾モデル

主に「特定の知識や技能を参加者に伝え、それを深め、実践し合うコミュニティ」のことを指します。例えば、TOEICのような資格試験であったり、プログラミングやファイナンスといったビジネススキル、または筋トレやマラソンのような運動技能、執筆や作曲といった創作技能について、その分野に高い知見を持つ人がオーナーとなり、参加者同士が能力を高め合うコミュニティです。

運営形態の例:
オーナーは特定の技能を習得する上で有用な情報を定期的に配信し、参加者はそれを実践します。場合によっては「1週目:オーナーが課題提示→2週目:参加者が課題提出→3週目:オーナーによる講評」といったサイクルを回し続ける、通信添削に近い形を取ることもあります。
運営のコツ:
上記に加えて、技能習得に役立った方法論を参加者同士でシェアしあったり、ときには参加者同士で講評し合うような形で、学びが深まる機会を用意してあげると良いでしょう。また、細かいことではありますが、ときにはオフラインイベントを用意し、直接ノウハウの伝授ができる機会を提供していくのも有用です(とはいえせっかく「オンライン」なのですから、遠方の参加者向けにイベントの映像配信を行う等の配慮も忘れずに)。このタイプのコミュニティを運営する上では「ラーニングバー」のコンセプト理解が大変役に立ちます。

参考文献:

└②顧客開拓・維持モデル

美容室や飲食店が、店舗を気に入ってくれているお客様向けにコミュニティを形成し、継続・ロイヤル顧客になってもらうことを目的にしたケース。或いは士業やコンサルタントの方がクライアント向けのコミュニティを形成し、顧客接点を深めることで継続・ロイヤル顧客になってもらうといったケースもあります。

運営形態の例:
オーナーは、店舗であれば提供メニューに対するこだわりや、使っている素材・商品に関するストーリー等を発信することでより顧客接点を深めていきます。士業やコンサルタントであれば、専門家として日々仕事をする中で得られる知見やニュースを定期的に配信し、ノウハウの片鱗をシェアしていきます。また、その過程で飲食店なら「日々の自炊に関する質問」、美容室なら「毎日のヘアアレンジに関する質問」などを定期募集し、スペシャリストとして質問に答えながらインタラクティブなコミュニティにしていくのも有用です。
運営のコツ:
飲食店であれば「月額500円でコーヒーが"2杯/月"無料!」や、士業であれば「"1回/月"までの無料相談権付与!」といったクーポンメニューをつけ、会費を超える便益を提供するのも良いかもしれません。そうすることで導入のお得感を演出し、新規顧客の開拓にも繋げつつも、お客様には実質無料の形で継続利用して頂くことが可能になります。また、オーナー側は会員の高い顧客満足度を維持しながら本業でより高い収益をあげられる可能性があります。しかし、コミュニティ内で接点を深めた方々を、いたずらにより上位(≒高価格帯)のメニューに誘導していくのは厳禁です。距離が近いだけに、そういった意図が見え透いてしまうと会員はすぐに遠ざかっていきます。あくまで「顧客接点を深める過程の中でしかロイヤル顧客は生まれない」という原則は忘れないように。

このタイプのコミュニティを運営する上では、サブスクリプション時代のカスタマーサクセスについて考えることが、その近道となるかもしれません(SaaSビジネスにおける、①ベーシックプランで導入を図る⇒②より上位のプランの必要性を感じてもらう⇒③より課金・利用を長く継続してもらう・・・といったユーザーリレーション構築法と考え方が似ています)。

参考文献:

└③ファンコミュニティモデル

最も分かりやすいモデルかもしれません。タレントやアーティスト、作家、クリエーターが自身のコアファン向けに特別な情報を発信することで成り立つモデルです。

運営形態の例:
「ファンクラブ限定コンテンツ」のイメージで、「1分間動画」「オフショット写真」等を配信する他、クリエーターや作家であれば製作途中の作品やボツ作品を特別に公開するなど、ファンにとって「プレミアムなコンテンツがリアルタイムに楽しめる場」として利用して頂けます。また、作品の先行公開を行いファンの方から感想をもらったり、場合によっては活動や創作に対する要望を直接吸い上げたりするのも効果的です。
運営のコツ:
自身が出演するテレビ番組であったり、ライブ・舞台・トーク映像などを、限定公開URL機能を用いたライブストリーミング配信でファンの方と一緒に見るといった楽しみ方ができたり、何らかのコンテンツ制作過程にファンの方を巻き込んでいけたりするとプレミアム感はグッと増します。また、会員同士も、元々は同好関係にある者同士。オーナーがいなくてもファン同士が勝手にオフ会を開催したり、イベント時に会員一同名義で祝花を出してくれるような、そんなファン同士の幸せで楽しい関係性を築かせてあげることができたら理想的です。そういった意味では、オーナー側からファン同士のコミュニケーションを促してあげることも重要になってきます。

参考文献:

ファン同士のコミュニケーションが生む熱量や、それを上手く活用してファンコミュニティ全体で新しいコンテンツを生み出していく事例が多数掲載されています。特に、自身がタレント・アーティストである方などは一読してみても良いかもしれません。

└④プロジェクトファンディングモデル

今や相当な認知を獲得している「クラウドファンディング」と、目的をほぼ同じくするモデルです。しかし、クラウドファンディングは1度の出資に対して1度のリターンを得るという1回完結の「EC型取引モデル」であるのに対して、ここで説明するモデルは継続型のコミュニティとなります。

多くのケースでは何かを達成するための資金を調達することを目的としますが、場合によっては人員を調達することを目的とし、会費を頂かないケースもあります。

運営形態の例:
あるミュージシャンが「○○ホールで単独ライブを開催したい!」、ある地域サッカーチームが「このチームでJFLを目指したい!」、あるデザイナーが「作品を商品化したい!」などの目的を掲げ、その実現を願うファンたちのコミュニティを運営する形です。実現したら終了するような時限性のものでも良いですし、NPO法人などであれば「○○というビジョンに向けて活動する私たちを応援してほしい」といった形で、無期限想定のコミュニティをつくるケースもあります。後者の場合ですと、既に「会員システム」を持っている活動団体も多くありますが、そのほとんどは「年会費の対価として定期的に会報が送られる」程度のもの。それをもっと深く、インタラクティブに行うことで、より多くの資金調達ができるだけでなく、心の底からの支援者を増やしていくことができます。また、企業が「商品開発プロジェクト」をオンラインコミュニティの中で行うケースもあります。
運営のコツ:
何よりも、自身が語り起こす夢やビジョンの解像度を高く持つこと、そしてそれに向かう熱量を高く持つことが重要です。情熱が人を動かし、その熱が夢を叶える過程を魅力的に彩ります。クラウドファンディングの場合は達成後に事前に設定した対価が支援者に送付されればそこで満足を提供できますが、ソーシャルファンディング型オンラインコミュニティの場合は、「実現過程のストーリー」こそが売り物であると考えます。また、せっかくコミュニティ型を選ぶのであれば、ぜひ実現過程にユーザーを参加させてあげましょう。なかには、金銭以外にも専門的な知識やネットワークを使って実現の支援をしてくれるユーザーもいるかもしれません(例えば「知り合いに○○がいるから安くできないか聞いてみるよ!」とか...)。熱く、総力戦で夢を実現させるのがこのタイプです。タレント・アーティストの方なんかはファンコミュニティモデルと併せて、このプロジェクトファンディングモデルも兼ね備えた運用をするのも良いかもしれません。

参考記事:

文献ではありませんが、昔私がトークセッションイベントにパネラーとして出演した際の書き起こし記事です。プロジェクトファンディングモデルについても少しだけ触れています。

さいごに。

今となっては、当時は存在しなかった各種決済サービスやSlack、Discordなどのサービスを併用する運用法もありますし、課金からサービス提供までを一つのアプリケーションで提供できるような新興サービスも多く生まれました。これらを組み合わせることで、より新しいカタチのオンラインコミュニティを生み出すチャンスが誰にでもあります。

また、何より重要なのはコミュニティの分類や形態ではなく「コンテンツ」です。個人的な印象ですが、オンラインコミュニティの企画運営コンサルティングをしているような人たちは、分類や形態に関する議論に時間をかけがちです。フォーマットを整えてあげるのが仕事だと考えるのであれば価値はあるのかもしれませんが・・・やはりどんなコンテンツを、どのくらいの頻度で発信していくのかが決まっていないと走り出してからが上手くいきません。

まだまだ語りきれなかった部分も多くあるので・・・今回語りきれなかった内容については、Vol.2「オンラインコミュニティで何をどのように発信するか?」で! また、もっと聞きたいポイント等あればマシュマロから質問もお待ちしています。

著:@t_inagi

おまけ・・・。

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「Synapse」は当初3人で立ち上げたサービスです(最初はテキスト販売プラットフォームでしたが、上手く行かずに即ピボットし、「オンラインサロン」の発明に至りました)。写真は、オンラインサロンの原型となるコミュニティ型コンテンツのあり方についてオリジナルメンバーである3人で議論している様子です。2012年、借りたばかりの雑居ビルオフィスにて...。(この瞬間、大学の同級生たちの多くがスーツを着てデスクに向かっている時間帯だったかと思うと複雑ですが、、こんな格好でも当人たちは至って真面目です)


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