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観られるかは運次第? 貧困、いじめ、虐待、差別。受刑者たちの胸の内を描いた『プリズン・サークル』

 松本智量の「ようこそ、仏教シネマへ」は、「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

映画「プリズン・サークル」

坂上香監督
2020年日本作品


 
 このドキュメンタリー作品、DVD化も配信もされません。たまに開かれる自主上映会が鑑賞のチャンスですが、それを探して出かける手間をかけるだけの価値は大。出来うれば、お寺で上映会を開いていただければ。

 カメラが入ったのは「島根あさひ社会復帰促進センター」という名の刑務所。ここは、受刑者の刑罰ではなく更生を目指した「TC(Therapeutic Community=回復共同体)プログラム」を日本で唯一導入しています。

 TCプログラムは依存症などの治療に使われる手法です。当事者が7~8人で円座になり、互いに話をし聞き合う中で、気づきを誘い、人間的な変革を促すものです。

 なぜ自分は今ここにいるのか。被害者へどう思うのか。彼らが向き合うのは、犯した罪だけではありません。自分自身の来歴です。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉が彼らの心の奥底からこぼれ出します。

 受刑者のひとりはこう言います。「名前で呼ばれ、人間らしいコミュ二ケーションがとれる環境になって、いままで溜め込んできたあらゆる感情を吐き出しきったあと、ようやく自分の罪と向き合えるようになってきた」
 
 蓮如上人は常々、「ものを言え、ものを言え」と勧められたと伝えられます。「言葉に出せば、心底にあることもよく分かるし、また人にも直してもらえる」と。他者に話すことで知らされる自分があります。話す相手と場所があることの大切さを改めて思います。
 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。

 

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

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