見出し画像

私たちには“慣れ”が必要だ。知的障害を持つ50歳の息子とその母を描く映画『梅切らぬバカ』

 「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

第84回 映画「梅切らぬバカ」
和島香太郎監督
2021年日本作品
 
 私の次男は今年で28歳になりますが、知的障害のある自閉症です。自閉症者を家族に持つ者の目からも、本作品の主役・塚地武雅さんの演技は本当に見事。

 その動作や行動は、慣れれば気にもならなくなり、愛嬌あるとも思えるようになりますが、慣れない人には奇妙であり、時には恐怖を誘うことも分からないではないと思わせます。だから観ていただきたい。慣れる練習としても。

 住宅地に建つ山田家の庭には、外の歩道に大きく枝を伸ばした梅が立っています。その隣に引っ越してきた里村一家にとっては邪魔でしかない枝でしたが、それ以上に一家を困惑させたのは、山田家の人でした。老齢で気の強い珠子(加賀まりこ)と息子の忠男(塚地武雅)の二人暮らし。

 忠男は知的障害のある自閉症で、福祉作業所に通っています。当初は忠男を疎ましく思っていた里村家の人びとですが、あることをきっかけに、まず小学生の草太が忠男に心を開きます。

 忠男は50歳になり、今後を案じた珠子は、忠男を障害者たちが暮らすグループホームへ入居させます。しかしその施設への地域住民の目は優しくありません。事件事故の発生や不動産価値低下への不安を訴える住民が少なくない中で忠男はトラブルを起こしてしまい……。

 この作品はフィクションですが、ここで描かれたような障害者施設への反対感情は現実にいくつも存在します。反対理由には根拠のないものがほとんどなのですが、それを生んでいるのは差別感情というよりも、慣れていないから。まずは慣れてほしいと願います。それは障害者のためというより、自分で作り上げた不安を解くために。
 
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。


本記事は築地本願寺新報の転載記事です。過去のバックナンバーにご興味のある方はこちらからどうぞ。