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演劇の第2志望としての教職の話②

先日、大阪のとあるところで関西の名のある劇団の方とご一緒したのですが、実は近隣校の同業者(非常勤講師)とわかり、ちょっとびっくりしました。実は演劇と教職を両立されておられる方はそれなりにおられまして、私自身、演劇をやる若い方には、「教職はいいですよ」とオススメしています。それは①で書いた「演劇の第2志望としての演劇部顧問」というようなものとは別の理由です。

授業は演劇的な営みである

 教師の一番の仕事は授業をすることです。私はよく授業のことを「40対1のキャッチボール」「一回50分の本番」と呼んでいますが、話す内容は決まっています。それを40人を相手に、どのように50分で共有するかが大切です。
 というか、授業が動画を流すだけで成立しない、毎回毎回生の教員が生の生徒を相手にしなくてはならないのは、「生徒とのインタラクション」が教えるという行為の中の大きな比重を占めているからで、教師が一方的に話しているわけではありません。生徒の反応や理解度などを見ながら毎回毎回その場で調整しながら話しています。
 教育実習生の授業などを見ていますと、そこの生徒との呼吸がうまくいかず、一方的に話しているような印象を受けます。けれども、経験するうちにその場にいる生徒の呼吸や意識に敏感に反応し、「場を成立」させることができるようになります。この「成立」させるという行為は演劇にも通じることです。 
 ですので、演劇という場所の臨場感や、その場にいる人たちとのインタラクションを楽しむことができる人は、きっと教職という仕事を楽しむことができるんじゃないか、と、私は思っています。私にとっては、教職と演劇というのは同じ直線上にあるものなのです。

「仕事で演劇やってます」

 さらに演劇といえば、演劇部顧問になろうがなるまいが、常勤職についていれば定期的に演劇に関わる機会があります。といいますのは、文化祭とか、文化祭とか、折に触れて学校には演劇をやる機会があるからです。
 実際、私はフルタイムの教員になってから「演劇をやっていない年度の方が少ない」というくらいの頻度で演劇をやっています。別に私は「やりたい」といったことはあんまりないのです。ですが、「文化祭で学年劇をやるぞ〜」みたいなことになると、有無をいわせず教師は巻き込まれるものなのです。おかげで演出も脚本書きも大道具も衣装も一通り経験させてもらいました。
 生徒の劇というと笑う人も結構います。どうせ稚拙でしょ?いえ、実はそんなこともないのです。中学生なり高校生なりがガチで取り組む演技というのは荒削りであってもそれなりに面白いものですし、上級学年で主役クラスをやった生徒から何人かはそれがきっかけで上の学校の演劇科に進んでいます。そして、学校演劇というのは、なにしろ規模が大きい。具体的にいうと、私自身、自分が書いた戯曲が文化祭の全校生徒1000人の前で上演された上で、どこぞの教育研究会に出されて再演されています。下手すると小さな劇団の本公演よりも規模が大きいかと思います。しかも、勤務時間に、お金の心配もすることなくできるのです。
 ですので、私は演劇部顧問になる前から「私、仕事で演劇やってるんで」といっています。それは決して恥ずかしいことでも、稚拙なことでもなくて、自分の仕事の中の誇りを持っていい経験だと思っています。

教師という人種は面白いぞ

 演劇というのは多様な人たちが個性を発揮し合って一つの創作をしますが、学校というのもさまざまな人種(しかも、その全員が「人前で大きな声でパフォーマンスをすることにためらいのない人たち」です)が共同作業をしていますが、これはこれですごく楽しいのです。
 教員にはいろいろな役割がありまして、まずは教科というキャラクター、さらに年齢や男女というキャラクター、さらに生徒指導向けとか、相談業務向けとかさまざまな得意不得意があって、それぞれのキャラクターや得意不得意を活かしながら、教育という一つの目標に向かってチームワークで働いています。そういう意味でも演劇に似たところがあると思います。
 実際、私は学校の職員室というのがとても好きで、授業のプランから、自分たちの目標までいろいろな思いを共有しつつも、それぞれの違うバックグラウンドから見える違った世界を楽しんだりもしています。それはまるでお芝居の楽屋にも近いのです。

素に近い仕事は負担にならない

 よく演劇をメインにされたい方が、日銭のために不安定な単純労働をされているケースがあります。
 私がかつて住んでいたニューヨークでも「女優とはたまにオーディションにいくウェイトレスのことをいう」なんて言葉を聞いたことがありますし、そうでなくても「実際には演劇以外で食べている自称演劇人」はたくさんいるでしょう。
 ただ、「事実上の日々の糧を得る手段」が演劇でないのなら、「演劇的性格を持つ職業」「仕事の中で演劇と関われる職業」を選択するのも一つの考え方ではないでしょうか。
 進路指導で生徒にもいうことですが、「自分の素に近い職業は負担が少なく、長続きする」のです。それを「安定職だから」「親がいうから」「カッコいいから」と理由をつけて、合わない仕事を選ぶとしんどくなってしまいます。
 私は人前に立つのが好きだし、演劇に関わるのが好きだし、個性豊かな人とチームワークを作るのも好きで、教師という仕事が好きなんです。演劇をやる方の多くはそうだと思いますし、そういう方には教職はきっと楽しいと思います。

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