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「投票は自分たちの存在証明になる」――お笑いジャーナリスト・たかまつななさんに聞く!若者が政治を楽しむコツ

お笑いジャーナリストとして政治や社会問題をわかりやすく伝えているたかまつななさん。若者に、関心を持ち選挙に行ってもらうためには、どんなことが必要なのでしょうか。ご自身の体験も交えて、話していただきました。


Q:政治や社会問題に関心を持ったきっかけは?

小学生のときに、アルピニスト・野口健さんの「環境学校」に参加したことがあります。数日かけて富士山で環境を体験するツアーで、その一環でふもとにある青木ヶ原樹海のゴミ拾いをしたときに、ゴミや注射器、バスが不法投棄されていることを知りました。ゴミの処理費を浮かせるために捨てられているそうです。このことが、社会問題を解決するためには政治を変えないといけないんだと気づくきっかけになりました。

この問題を多くの人に伝えようと壁新聞を始めたのですが、いったい何人が読んでくれたのだろうと悩みました。小さい頃から私は費用対効果や効率を考えるタイプだったので、より多くの人に伝えるために、中学生1年から高校3年生までのあいだ、読売新聞が運営する子ども記者団「ヨミウリ・ジュニア・プレス」の記者になりました。記事の企画書をたくさん書いて、企画が通ったら現地での取材や文字起こしをして、もちろん記事も書きました。伝える力がつきましたし、フットワークの軽さも学ぶことができました。

ですが、やはり同世代に伝わっている実感がなかったので、新聞以外にもちがう媒体で伝えたり、もっとわかりやすく翻訳する人が必要だと思いました。そんななかでお笑いに出会い、これを通じて社会問題を伝えたらみんなに知ってもらえるのでは、と考えるようになりました。


Q:たかまつさんは若者に向けてどんな取り組みをしていますか?

「笑下村塾 (しょうかそんじゅく)」という会社を立ち上げて、「笑いで世直し」をモットーに活動しています。取材活動と、それを学校現場に届ける活動、YouTubeで伝える活動 の3つが主な取り組みです。

なかでも全国の学校でお笑い芸人が楽しく政治を教える「出張授業」を、いちばん大事にしています。芸人がやるなら難しい言葉を使わないで分かりやすく伝えたいので、台本に合わせてMCが進行して、ひな壇の芸人が賑やかにして……というバラエティ番組のスタイルを取り入れています。ひな壇役の芸人さんには、学生の知ってるような有名な芸人さんに来ていただいたりしています。 

2016年に選挙権を20歳以上から18歳以上に引き下げる法改正が適用されて、政治の場で初めて若者が主役になれたな、と思ったんです。それまで政治の中で若者は無視され続けてきた印象だったのですが、マニフェストの中にも奨学金のことなど若者を対象にした政策が盛り込まれるようになって、驚きました。そのときに、今やるしかないな、という気持ちが芽生えたんです。

教材販売も行っています。『政治の絵本 』(上図)も、学校の先生に使っていただけるように作った本で、出張授業でも活用しています。ほかにも、「学生記者」という記者体験を学生にしてもらう活動にも取り組んでいます。

あとは、私はお笑いジャーナリストとして社会問題をYouTubeで伝えています。テレビを持っていない、家にいない、新聞もとっていない、という若者はたくさんいるので、彼らに向けて毎週30分、YouTubeでニュース解説をしたり、特定の議題について有識者やお笑い芸人を呼んで議論しています。

マンガやゲーム、サッカーといった数あるエンターテインメントの中で、政治を勉強したり議論することが選ばれるのは難しいだろうなと思っています。だけど授業の中でだったら政治を面白く感じてもらえるかもしれない。それで出張授業に力を入れているんです。

だけど授業の外で、他のエンターテインメントよりも政治を選んでもらうためには、メディアも作らなきゃいけないと思っています。池上彰さんのようにもっと分かりやすい政治の番組がどんどん世の中に出てきて視聴率をとれるようになったら、継続的に学んでもらえると思うんです。 


Q:政治をわかりやすく伝えるために気を付けていることは何ですか?

まず自分が分かっているか、ということをすごく大事にしています。もともと勉強がすごく苦手だったので、「こういう言葉でつまずくだろうな」というのは分かるんです。難しい言葉も使わないようにして、置いてきぼりの人をつくらないようにしています。これはお笑いで舞台に立っていても感じます。お笑いって、「滑舌悪いな」とか些細なことでも引っかかることがあると、笑えなくなってしまうんです。

あとリサーチはすごくしています。出演者さんによってはちょっと間違ったことを言ったりしてしまうので、どこまでが事実でどこが間違ってるのか、確認をして、テロップを入れたりしています。分かりやすくすることで誤解を与えたり、本質からそれてしまうのも避けられるように気を付けています。

分かりやすさだけでなく、実用性も大切です。例えば教材も、つまらない遊びやゲームのものをつくってしまいがちですが、日本人の文化に合わせて楽しませる必要があります。教育現場で使えるように、45分間しかない授業時間の中でできるものをつくらなければなりません。

でもその甲斐あって、手応えは感じています。すごく嬉しかったのは、「友だちを誘って選挙に行こうと思います」って言われたときでした。出張授業をやった別の学校でも投票率 (2016年、参議院議員選挙)が84%になって、学生を動かせてよかったと思いました。


Q:政治への関心は決して低くない若者が選挙に行かない理由は何だと思いますか?

私自身が感じるのは、職場や学校の中で、おかしいと思ったことをおかしいと表明して、みんなで話してそれが変わる……という民主主義を実感できる瞬間が、やっぱりこの日本社会には少ないですよね。うまくいってる国の多くは、予算と権限をちゃんと信じて若者に渡しているわけです。 学校でも生徒会などで予算と決定権を与えて、実践し、民主主義を実感できるようにしています。そうすることで、初めて真剣に考えられるんです。

もし自分がそうだったら……と考えられるかどうかは、大事だと思うんです。当事者意識を持つことで、政治を考えるうえでも社会問題を解決するうえでも、色々変わってくるはずです。政治ってトレードオフで、あちらが成り立ってもこちらが成り立たないので、すごく難しい問題ですよね。なので私は、違う立場になったときにどうなるか、ということを考えてもらうために、よく出張授業で賛成と反対の両方の立場で議論できるロールプレイング・ゲームを活用しています。

授業の前は賛成か反対かで自分の意見を言っていた子が、ゲームを通して色々な考え方を知って「何が正しいのか一言では言えなくて難しいですね 」となる。それが、正しい感覚だと思うんです。

あとは、困っている人の顔が想像できるかどうかも大事ですよね。「不法投棄があります」と教科書に書いてあるのを読むのと、実際に注射器やゴミがお金のために捨てられているのを見るのって、全然ちがうと思います。体験した、ということはすごく大きかったし、当事者の話を聞くとかなり印象が変わりますよね。

野口健さんがおっしゃった「大人たちは見て見ぬふりをするから、大人たちに任せずに、君たち子どもが伝えてほしい」という言葉がすごく印象に残っているんです。実際そうだと思いますし、伝えなきゃという気持ちはすごく強くなりました。

私は若者たちにはすごく期待しているんです。いまの高校3年生は大学入試改革や9月入学問題といった不遇な境遇のなかで、政治に高い関心を持たざるを得なかった世代です。彼らは大学入試改革ではデモを行い、9月入学の際にも署名活動を行い、自分たちの声をメディアや大人に伝えました。動くことの大切さに気付いた世代なのです。

この世代は教育や就職活動はもちろんですが、LGBTや外国人に対する問題、インターネットやSNSに関する問題にも敏感なのではないでしょうか。彼らが投票しやすいよう、ネット投票は解禁すべきだと思います。やっぱり忙しいと行けない、というのはありますから。選挙は若者の存在証明になるはずです。


Q:政治や社会に関わってもらうために、若者へメッセージをお願いします。

高度経済成長のときは別に社会問題に向き合わなくてもどんどん成長したし、よかったと思うんですけど、私たちの世代はたぶん向き合わなきゃいけない。その分、ソーシャルな問題や課題に対してすごく活動はしやすくなったと思います。

選挙の際、候補者の言葉に耳を傾けてください。まずは自分に向けられた言葉がどれくらいあるか、という視点で見るのがいいかもしれません。若者に向けた言葉って本当にすくないと思います。だから、そういうことに関心がある人は、みてみぬふりをしたり、逃げ切れる世代の大人たちに任せず、自分たちでどうやって解決するか。横で手をつないで解決していかなきゃ、と思います。