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「社会に声を上げて、後悔したことはありません」――辻愛沙子さんが意見を発信する理由(前編)

女性のさまざまな社会課題をテーマにした「Ladyknows プロジェクト」をはじめ、ユニークな切り口で社会問題に切り込んでいるクリエイティブディレクター・辻愛沙子さん。辻さんは、どうして社会に“声を上げる”のでしょうか? 前編では、声を上げている辻さんならではの経験について伺いました。

1. 自分のなかにある『なんで?』を深めたら、自然と声を上げていた

Q:辻さんが、最初に社会へ声を上げたくなったエピソードを教えてください。

幼いころから、いろんなことに「疑問」をもつ子どもでした。幼稚園から一貫の女子高に通っていたこともあり、校則に対しても「どうしてこんなルールがあるんだろう?」と、よく感じていましたね。
大学生になり、勉強以外のことにもチャレンジしたくなって今の会社に入社。ところが、「若いのにすごいね」「派手な見た目なのに仕事を頑張っていてえらい」などと言われることが増えてきて……。
「若い」も「ピンクの頭」も「仕事をしている」も、すべて私という一人の人間のことなのに、なぜか「なのに」という逆接の表現にされてしまう。そこに、強い違和感をおぼえるようになりました。

Q:「なのに」と言われる違和感に、どう向き合っていったんですか?

しっかりと声を上げて、話し合いをしようと試みました。たとえば、同じころに出版のお誘いをいただいて「『なのに』という逆接の偏見に対しては、どちらも一人の人間として両立することを証明していきたい」とお話をしたんです。でも、出来上がった見本にはまた「女子大生なのにクリエイティブディレクター」と書かれていて……。
相手の方々は褒め言葉として使っているから、気持ちとしてはうれしいんです。でも、表現としてはおかしい。その後も話し合いをしたんですが、なかなかわかっていただけず……。

それまでは「なんで?」「おかしくない?」と思っても、環境を変えたり自分で考えを深めたりするだけで、相手に指摘することがなかったんです。だから、はじめてはっきり声を上げてちゃんと話したのに、こんなにも分かり合えないことに衝撃を受けました。褒め言葉のつもりで、無自覚な偏見が生まれることもあるんだな……と、感じたんです。以降は、企画を考えるときにも、そういう視点をすごく意識するようになりました。


2.「なのに」と言われる社会への違和感から生まれた企画

Q:自分が感じた社会への違和感から、具体的にどんな企画が生まれたんでしょうか?

たとえば、Tapistaというタピオカ屋さんのブランド立ち上げのクリエイティブを担当していたころ。 そのタピオカ屋さんと、そのとき実施されていた参議院選挙を掛け合わせた企画を作りました。投票日当日、Tapistaの店舗で投票済証明書を提示すると、タピオカドリンクが半額になるキャンペーンです。
これにはなんと、一日で3500人ものお客様が来てくれて! 渋谷の店舗には行列ができ、若い子たちが投票済証を持って「なに飲む?」なんて言いながら、わいわい写真を撮ってくれました。若い女の子と政治は切り離されてしまいがちだけど、その2つが共存している目の前の光景こそ、とてもリアルだと思いましたね。


Q:辻さん自身は、選挙権を得てから、選挙にどう関わってきましたか?

最初は何も分からないところから始まって、分からないなりに勉強して投票に行ってました。「この人は名前を聞いたことがありそうだな…」みたいなところから自分なりに調べたりしながら。社会に出ると、自分が何を大事にしていてどこに社会の課題を感じるかが、より 明確になっていったんです。そうすると分かることも増えて、選挙もどんどん楽しくなってきているのが最近です。

もちろん、何十年も生きている人とは知見や考えが違って当然。でも、自分なりにできることから始めて、社会のことを自分ごととして考えながら生活しています。ほかの若い子たちもそうだと思ったから、その気持ちを信じたくて、Tapista×参院選のキャンペーンも生まれたんです。
若者にとってアンタッチャブルで一見遠いものにも思える政治や選挙が、インスタのスタンプやタピオカ店のキャンペーンなど、自分の生活圏の中にブリッジを作ることで、会話しやすくなったり興味を持つきっかけになったりすると思うんです。
実際にSNSで「選挙とタピオカ行ってきた!」という投稿を見て、私も行こうと思った人がいるはず。そういう“いい連鎖”をちょっとでもつくっていきたいなと、あらためて思えました。

声を上げるとなると「怒りを伝える」みたいなイメージがあるけれど、それだけではなくタピオカみたいに「ポップさ」や「楽しさ」に乗せて意見を伝えることだってできるんですよね。……残念ながら、日本全国で見るとなかなかすぐには若者の投票率がめちゃくちゃ上がったりはしなかったんですが。

Q:最初から「社会を変える!」という強い想いがあったわけではなく、自分の違和感や疑問が広がって、それを解消するために声を上げているんですね。

そうですね。個人個人の生きづらさって、意外と社会の課題につながっているなと感じたんです。これからは、一人ひとりがそれぞれに持っている凸凹を平坦に直そうとするんじゃなくて、凸凹を活かしたままパズルみたいにはめていく社会になったらいいな、って思います。
そのためには私なりに声を上げていきたいし……生きづらいなりにどうにか大人になってきた自分としては「こんな私でも大丈夫だよ!」っていうことも、声を大にして伝えていきたいです。


3.社会に声を上げて後悔したことは一度もない

Q:SNSなどでの発信で、心がけていることはありますか?

私自身の不完全なところの話をするようにしています。たとえば、私はADHDだとカミングアウトしているんですが、それを明確につぶやいたのは1年半ほど前のTwitterなのに、いまだに「私も悩んでいます」「解決するためにしていることはありますか?」なんて相談のDMをいただくんですよね。発信から時間が経ったあとでも、同じことで悩んでいる人にきちんと届いているような感覚があります。

そういう発信ってもちろん誰かのためなんだけど、じつは、昔悩んでいた自分に対して言っている感覚もあって……。同じ悩みを抱えている人に声を届けることで、過去の自分のためにもなったらいいなと思っているんです。

私自身は今の会社で自分のありのままを認めてくれる人に出会えて楽になれたんですけど、リアルでそんな人に出会えるかって、すごい運ゲーじゃないですか? 私が出会えたのも、私がどうかというよりたまたまの連鎖みたいなもので、そういう風に向き合ってくれる周りの人達に感謝しかないなと思っていて。だからリアルではないけれど、私が周りに救われたように、私のツイートが誰かを楽にする存在になれたらいいなって思います。


  Q:社会にさまざまな声を上げてきて、後悔したことはありますか?

ひとつもありません! むしろ同じ志の仲間が増えたり、興味のある課題を解決するためのオファーをいただいたりして、どんどん充実してきています。「そういう声を上げて怖くないですか?」「どうしたらそんな“つよつよ”になれますか?」と聞かれたりするけど……別につよつよではないんですが(笑)。
でも、実際に声を上げている私が「後悔するようなことはひとつもない」って思えていることは、説得力がありますよね。だから、みんなに安心してもらうためにも、大丈夫、むしろ素敵な人達に出会ったり良い仕事に繋がったり、人生を好転させてくれることさえあるよってことはちゃんとアピールしていきたいです。


4.声を上げるだけでも応援になる

Q:誰かの上げてくれた声が、自分の力になったことはありますか?
いっぱいあります! こないだうれしかったのは、TwitterのDMですね。半年くらい前に私、こんなツイートをしていたんです。

そしたら、先日すごく長文で、このツイートをきっかけに人生が好転したというアツいDMをいただいて。これ以外にも、ピルや生理のことをツイートすると「私も周りに言いやすくなった」「よく知らなかったけど関心が持てた」とかってDMやリプライをしてくださる方がいるんですよね。そういうさまざまな声をいただくたびに、むしろ私のほうが、めっちゃ救われているんです。なかなか皆さんにお返事するのは難しいけれど、全部スクショして宝物のように保存しています。


Q: DMのようにひそかな声も、辻さんの原動力になりますか?

なりますね。自分のためだけに行動していたら、とっくに力尽きていると思うんです。とはいえ、すべて他人のためだけでもしんどい。だけど「私は誰かの役に立てている」って思えることが、自分自身をも支えてくれたりします。
これは自分が声を上げてみてはじめて気づいたことなんだけど……私が反射的に上げた声が、誰かに届く。その誰かがまた声を上げてくれて、それが連鎖して、私自身も希望をもらうんです。
だから、みんなで連帯して声を上げていけば、つらいときにいつでも支え合えるんですよ。


後編は、今日からできる「声の上げ方」について

▼後編はこちらからお読みいただけます
ちょっとずつ声を上げることで社会は変えられる。――辻愛沙子さんに聞く、誰もが今日からできる「声の上げ方」(後編)